55……くろいのっ
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始め――
♪
開けた窓から入ってくる風に乗って、虫たちの合唱が聞こえてくる。
リトは時計を見て、あくびを漏らし、そろそろ寝るかと立ち上がった。
窓を閉め、それから、リトのベッドで眠っている少女に向き直る。小さな身体を丸め、枕をだっこしてくぅすぅと小さな寝息を立てている。
「おーいファナ、寝るぞ」
「ぅぅ、ふあ……もう寝てるの」
「こっちは俺のベッドだ」
お風呂から上がり、寝る前の読書に興じていたところ、ファナはリトのベッドでうとうとし始めた。ファナがリトのベッドに潜り込んでくるのはいつものことなので、見ぬふりをした。
もう一度呼んで起きなければ、隣にある彼女のベッドにそっと動かせばいいだろう。
「ふぁ……。おといれ」
寝ぼけ眼のファナが身体を起こす。
「おう、行って来い」
「……っ。あう、でも下、真っ暗だよ?」
目をこしこしして、弱った視線をリトに送る。
「寝ぼけて落っこちるなよ?」
「落ちないしっ」
「あと、くっつきすぎるのも禁止な」
「……むぅ、いじわる」
♪♪
リトは階段下で待っていた。無事に用を足し終えたファナは、洗面所に手を洗いに行った。
階段は下りられないけど、真っ暗な洗面所には行けるんだなとリトが思ったところで、
――ばんっ
なにかを叩く音が聞こえた。
(おばけに物理攻撃は効かないよなあ)
ふと、蚊をやっつけようとしたファナに頬を叩かれた記憶がよみがえった。無駄だとは思いながらも、一応身構えつつ洗面所に向かえば――。
♪♪♪
「ふえええええっ、リトっリトぉっ」
「うおっど、どうしたんだよ」
洗面所に入るや、ファナがリトに抱きついた。十歳ほどの小柄だから思いっきり飛びつかれても平気だが、急にこられるとびっくりする。思いっきり泣きながらならなおさらだ。
「くろいのっ、くろいのなのっ!」
なにが黒いんだ、訊き返そうとしたリトは、けれど洗面所を見渡すことで答えを知った。床に、ぺちゃんこになった黒いのがいた。
(もうそんな時期か。団子作らないとな)
「ああ、怖かったな。でもちゃんとやっつけられてるぞ。えらいえらい」
「うええ、違うの、そうじゃないのっ」
ファナがしっぽ――竜の子供である証をぴんと立てる。
「……?」
「えっく、ぁぅぅ、リトぉ」
「……えっと。…………あー、もしかして、しっぽでやっつけたのか?」
「――っく。だってぇ」
♪♪♪♪
「ふあっ、くすっ、くすぐったいのっだめなのっ」
「ってこら、あばれるな」
お風呂場。ファナのしっぽをシャワーで流し、せっけんで泡立てたタオルで撫でる。が、触れるたびにファナが暴れるため、身体を押さえるのに精いっぱいだ。ファナが暴れて濡れることがわかっていたから、二人とも裸。タオルを巻いた、ごく普通のお風呂スタイルだ。
「ファナが洗ってくれって言ったんだろ。がまんしろ」
「だって、だって!」
「ま、気持ちはわかるけど」
いざ寝ようとしたときに黒いのを素足でつぶしたと思えば、もう一度お風呂に入りたくなる。
「うまくダシにして俺と風呂に入ろうとか思ってただろ」
「そ、そんなことないしっ」
とか言いながら、しっかりとリトの身体に抱きついている。
「……さては、お風呂ついでに一緒のベッドで寝るとか言う気だな」
「…………。だめ?」
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
この間,家にくろいのが出たので勢いで書いてしまいました.
こういう勢いで書けた話の方が,悩んで悩んで書いた話より面白く感じるのは
なんとも微妙な心境ですが.
面白ければすべてよし,ということで.
それでは次回,
『56……想いと呪い』
教えてリト先生!――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




