54……ハテノキ村の何でも屋さん
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始め――
♪
「おさんぽっ!」
十歳くらいの小さな少女が玄関からお日様のもとに跳び出し、
「――――じゃなかった。何でも屋さんなの。えへへ」
間違えた、と振り返ってはにかむ。
彼女はファナ。このハテノキ村に住んでいる。背中の羽とお尻から伸びるしっぽがぱたぱたと動いて、いっぱいの元気が溢れ出していた。
視線の先には、ゆっくりと家から出てきた十代半ばを過ぎたばかりの少年。この村にやってきたファナを保護してくれた彼もまた、ただの人ではなく。
「最初はファナと手をつなぐお仕事! 心がぽかぽかするマホウなの」
そう、彼はマホウツカイ見習いだった。
♪♪
週に三日、彼――リトは何でも屋さんとして村を回る。その仕事内容は、骨折したおばあさんに変わって犬の散歩をしたり、水汲みを手伝ったり、気に引っかかったボールを取ったり。犬の散歩のようにあらかじめ連絡があることは稀で、ほとんどは行き当たりばったりだ。
もっとも、報酬が目的ではないためそれでいいとリトは思っている。
「ファナと手をつなぐお仕事だけで終わりそうなの」
ぷらぷらと村の端にある学校まで歩いてきたが、散歩や仕事中の人たちと挨拶を交わしただけで、仕事や手伝いはひとつも依頼されなかった。
「平和な証拠だな。そのときは、ファナとお昼ご飯を食べて、昼寝する仕事にするさ」
「じゃあお返しにリトの背中流すのっ」
「そういう報酬はいらないかな」
「あう」
最近思ったのだが、背中を流すとか身体を洗うとかは、毛づくろいに近く、竜の本能(?)から、それらで感謝や親愛を表そうとしているのではないか。
「ま、こういう平和な日に限ってとんでもない仕事が飛んでくるんだよな」
「空からリューが降ってきたり?」
「竜だと思ったら女の子だったり」
「えっと、リト」
ふとファナが立ち止る。手をつないでいたリトも、引っ張られる形で立ち止ることになる。
「リトがファナによくしてくれるのって……その」
「……。んなわけないだろ」
こつん、と。ファナの頭を空いている方の手で小突く。
「何でも屋さんだからって理由で家族増やせるか」
責任を負う覚悟、少女の家族になる覚悟。たくさんの覚悟を決めた。家族になろうと思ったのはリト自身だし、その理由は『仕事だから』では決してない。
もっと自身の根源に関わる、温かな理由がある。
♪♪♪
「わおんっ」「あっ、クロロっ!」
商店街――と呼ぶには小さすぎる、ただお店を開く家が寄り添っただけの村道で、黒い大型犬を連れたおばあさんに出会った。以前、代理で散歩をしたことがある。
ファナがクロロの前でしゃがむと、クロロは嬉しそうにファナの頬をなめる。
「もうっくすぐったいのっ」
そう言いながら、ファナもクロロの顔や身体を思いっきりなで回す。
楽しげな声に、周りを歩いていた人たちも足を止めて、温かなまなざしを向けた。
何でも屋さんは何でも屋さん。みんなの困りごとを解決して、元気にさせる。それが仕事。
だったら――こうやってみんなに元気を振りまくことだって、何でも屋さんの仕事だ。
ファナがその職務を立派に果たしていることに、リトは自然と笑顔になっていた。
♪♪♪♪
「むぅ、今日はお仕事なかったし。やっぱりリトとお散歩するだけだった」
「そんな日もいいんじゃないか」
「……? リト、なんだかごきげん?」
「ちょっと、な」
「うぅ、その内緒っぽいのはいじわるなのっ! そういうのはよくないよぉっ」
ほっぺたを膨らませてしっぽを立てる。その上、両腕でリトの腕をぎゅうっとしてきて。
「くっつきすぎだ。……なんか食べたいものあるか? 今日はファナの好きなものでいいぞ」
「えっ? いいのっ? じゃあじゃあ――」
あーでもないこーでもないと、立てたしっぽを左右に振って。やがて満面の笑みを浮かべ、
「カレーがいいの! あまいのっ。ファナが混ぜたい!!」
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
少女が笑うだけで,少女の周り,小さな世界は平和になる.
そんなお話です.
笑顔は人を元気にするし,
頑張ろうって気にさせてくれます.
ひとりの少女を中心に笑顔の花が咲く,
そんな光景を想像していただければ.
とか言いながら,
ファナに一番元気をもらっているのは自分なのかもとも思います.
それでは次回,
『55……くろいのっ』
きゃーっなの!――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




