58……どっちがリトと
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始めた。
しかしある日、ひとつの事件が起こって――
♪
困ったときの何でも屋さん――とは言え、さすがに荷が勝ちすぎている問題に、村の何でも屋兼マホウツカイ見習いのリトは両手を上げるしかなかった。
リトの前には、困った顔の少女が二人。
ひとりはリトの家に居候中の竜の少女ファナ。もう一人は幼馴染のシエルだ。
図書室の奥でファナが本を広げると、まばゆい光が放たれ、ファナとシエルの中身が入れ替わってしまった。
「こういうときは……あの人だよな」
彼女が知らなければほんとうにお手上げだ。
祈るような気持ちでリトたちは村長さんの家に向かった。
♪♪
「ちょ、ちょっとファナちゃんだめっ」
学校の校舎を出たところで、ファナの声が上がった。もっとも、しゃべったのはシエルだ。
「ふえ?」
シエル姿で首を傾げるファナ。彼女はいつものように――リトと手をつなごうとしていた。
「……ああ。えっとな、ファナ。中身はファナかもしれないけど、身体はシエルだろ? だから、ファナが手をつないだりいつもみたいにくっついてくると、それはシエルがくっつくことになるわけでだな、つまり、村にそういううわさが広まるとか、でも中身はファナで――」
「リ、リトがいっぱいいっぱいなの……」
「ほら、ファナちゃん。こんなときはあたしとつなげばいいんだよっ」
助け舟を出したのは、シエルの妹のノエルだ。彼女の案なら、仲良し姉妹に見えるだけだし、ファナもノエルと手をつないでいるだけだから違和感も少ないだろう。
そんな感じで歩き方はまとまりそうになった――のだが。
「……あれ? わたし、リトの腕に抱きついちゃっても不自然じゃない流れ……?」
「おい」
「だ、だってなんか急に視線が低くなって、おしりと背中が不思議な感じで歩きにくいし」
彼女の背中には、竜の証である羽としっぽ。どんな感覚なのか、リトには想像もできない。
「そういうときはリトにおんぶしてもらうといいよ!」
「ファナも余計なこと言わないでくれ!」
入れ替わってるのになんでそんなに元気なんだ、心の中でつっこみを入れて、リトは先を、けれどどうしても気になってちらちら振り返りつつ、歩いていく。
♪♪♪
「ほほう」
チャイムを鳴らし、玄関口に出てくるや否や、村長さんは楽しげな笑みを浮かべた。
村長さん――だ。
たとえ見た目が十代半ばであっても。服装が白いフリルやリボンがついた水色のワンピース姿であっても。彼女は、まごうことなく村長さんだ。
曰く、マホウツカイではないが純粋な人間でもないらしい。
マホウ少女じゃな、と笑っていたが、よくわからないので誰もそう呼んだことはない。
「ふむ、つまりは」
村長さんがリトの手にあった赤い本――入れ替わりの原因になっただろうそれを奪い取り、
「えい」
躊躇なく開いた。それから右手でリトに触れる。
「……」
「…….…………なんじゃ、入れ替わらんのか」
「これ以上話をややこしくしないでください! ていうか入れ替わってなにする気ですか!?」
「いや、だって、のう?」
村長さんはノエルに視線を投げかける。視線の高さがほぼ同じであるのはいいとして。
「そうだよ、お兄ちゃん。気づいてなかったの?」
ノエルがリトを見上げる。
「へ? なにに?」
「あのさあ、今日――どっちとお家に帰るの?」
♪♪♪♪
幼馴染の外見をした、お風呂もベッドも一緒がいいと甘える少女と一夜を過ごすのか。
ファナの外見をした、けれど中身が幼馴染な少女と一夜を過ごすのか。
「だから、ここで妾がリトになれば、シエルの外見をしたファナと楽しくしようが、ファナの外見をしたシエルと楽しくしようが、中身は女であるから問題はないじゃろう?」
「問題しかないです!」
けれど、村長と入れ替わっていた方が幸せだったかもしれないと悟るのはもう少し先の話だ。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
入れ替わり2.
入れ変わったもののまだ序の口.
ギャップ・違和感ありまくりの2人の暴走は次回以降?
それでは次回,
『59……洗いっこ』
お風呂回――の予定.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




