51……シエルお姉ちゃん
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始め――
♪
「……ぁぅ、ちょっとはずかしいの」
ベッドの脇に腰掛けたファナが、風邪なのもあるのだろう、弱々しい声で言った。
十歳ほどの小さな身体。いつもは元気に溢れているから気づきにくいが、こうして改めて見ることで驚かされる。――こんなに小さかったんだ、と。
それが、シャツを脱ぎ、上半身を露わにしたことで、よりいっそう顕著になっていた。
細い首筋、わずかに日焼けした肩、かすかに女の子らしさを見せる胸元、うっすらと浮き出るあばら、細い腰、白いお腹に、ちょこんとへこんだおへそ。
「ほら、手」
両手を足で挟むように身を縮めているのを注意される。
「で、でもぉ」
「それじゃ拭けないでしょ?」
と。お湯で濡らしたタオルを手にして言うのは、ファナの保護者代わりの少年であるリト――ではなくて、
「あぅぅ、シエルお姉ちゃんもいじわるなの」
彼の幼馴染であるシエルだった。
♪♪
「ほら、いい子だから」
ファナの赤い癖っ毛を撫でる。汗で少し硬くなっているのに気づいて、心がちくりとする。
風邪をひいてつらいのは身体だけではなく。お見舞いに来てくれた人に、手入れが不完全な自身の身体を見られることもだ。相手が気になる人ならなおのこと。
もっとも、リトはちっとも気にしなかった。それは嬉しかったけれど、悲しくもあった。
「くすぐったい」
「いやだった?」
「べつにやじゃない、の。うう……でも、シエルお姉ちゃんがなんだかリトみたい」
まゆを寄せ、頬をわずかに膨らませる。
「幼馴染だもの。相性ばっちりってやつ?」
「むぅ……ファナもリトとばっちりがいいの」
「あら、わたしにはそう見えるけどなぁ。ほら、手、伸ばして」
ファナの腕を取って、タオルで拭く。温いタオルが肌をなぞる慣れない感触に、ファナのしっぽがくにゃりと揺れる。
もう一方の手。それから首元。肩、わきの下。
体つきは子供なのだが、無駄なものがない肌に少し妬けてしまう。
「ふあっ――くしゅ、くしゅぐったいのっ」
「がまんがまん♪」
「うゆ……ぜ、ぜったいわざとやってるの」
♪♪♪
「はい、背中向けて」
口では反抗しても、身体は素直に言う通りにする。ベッドの上に足を上げて、開脚の格好でシエルに背中を見せる。
「お姉ちゃんに羽、ちゃんと見せるの初めて……だよね?」
羽――それはファナが竜の子供である証だ。深緑色の一対のそれ。
「そうね。えっと……、背中拭いてから、羽を拭いたらいい?」
「……うん。お願いなの」
羽があるからだろう、ファナはワンピースや背中の開けたシャツをよく着ている。でもそれは、背中に自信がなければ着られない服でもある。ファナ自身は気にしていないだろうが、シエルからすればどうしても気になってしまう。
(って、なんでファナちゃんの肌に妬かないとだめなのよっ)
わかっていても、すべすべできれいな、健康的に薄く焼けた肌はうらやましい限りで。
(竜だから? それともやっぱりこれが若さ)
と、やはり悩んでしまうシエルだった。
♪♪♪♪
「ふにゃっ、あう、だめっあううっ――――そんなことされたらお嫁さんにいけないのぉっ」
新しい肌着と寝間着姿のファナは悲鳴を上げていた。羽にもしっぽにも力が入らない。
いやいやする身体をどうにかしようと枕をぎゅっと抱くけれど、敏感なところを何度も触られると、どうしても声が出てしまう。
「あううう」
目の端に涙をためる。けれどシエルは、心を鬼にしてそこをきれいにしようとする。
ファナの小さな――足の指を。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
あれ,サブタイトル詐欺?
内容的には「はずかしいの」とか「そこはだめなのっ」とか,
「およめさんにいけないの」とかですね.
ファナの風邪シリーズ第3弾.
お風呂に入れないので,タオルで拭いてもらうなお話です.
拭くのがシエルなのは察してください.
ルル×ファナでもありかと思ったんですが……はい.
……なにも言うまい.
それでは次回,
『52……にがいのっ!』
風邪その4.
楽しい嬉しい「あーん」の後に待っているのは――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




