どら×どら3……ファナのお世話
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始め――
……これは、ファナがまだ竜の村にいたときのお話。
♪
ここはとある山深く。周囲を深緑色の険しい山々に囲まれた、周りに比べて頭ひとつ高い山の上。そこに、ひっそりとたたずむ小さな村があった。
名前はない。
なぜなら、名前をつけたがる人間がその村の存在を知らないから。そして、住人達も名前を必要としていなかったからだ。
そんな名もなき村に建つ、名もない木造建築――便宜上、宿舎と呼ばれていたそこの一室。
二つある二段ベッドの一方、その下側に薄い毛布にくるまる少女の姿があった。
「あー、うー」
「……うなっても変わんない。諦めて横になって」
「うう~…………ずずっ――。むう~~」
徹底抗戦の構えをとるのは、赤い癖っ毛の、十歳ほどの少女だった。元気あふれる笑顔はないが、それでも勝気な目元は変わらない。
そのベッドに身を乗り出すようにして頬を膨らませるのも、同い年くらいの女の子。長い黒髪を素直に垂らす外見と幼い顔立ちとで、お人形のような可愛らしさがある。
「むうーじゃない」
「なんでルルが怒るのっ」
「怒ってないし」
「怒ってるし」
「怒ってない」
ルルと呼ばれた少女は「……怒ってないのに」とつぶやくと、ふぅと深呼吸をした。口げんかするために残ったんじゃない、心を落ち着ける。
と、その頬に赤毛の少女の手が伸びた。
「……ルル、つめたい」
「ファナが熱いの。自分の体温、どれだけか知ってる?」
「えっと…………。おひさまくらい?」
「……そんなに熱かったら溶けちゃう」
空元気と下手な気遣い。長い付き合いからそうだとわかって、黒髪の少女ルルは笑ってファナの手を握った。
♪♪
「ファナほっといて遊びに行ったらよかったのに」
「……。迷惑、だった?」
「っ……ご、ごめん。えっと、言い方がよくなかった……と思う」
失敗した。せっかくルルが笑ってくれたのに。
もちろんさっきもルルが怒っていないのはわかっていた。でも、いつも通りの表情だった。ルルは感情をあまり表に出さないけれど、二人きりなのだから笑ってほしいと思った。
だから、ルルが笑ってくれて嬉しかった。
笑ってるルルともっとたくさん話がしたい――ファナはそう思っていた。
「どうしてルルは、お留守番にしたの?」
「……べつに。じゃんけんで負けただけだし」
ぷいとそっぽを向いて答える。
その姿に思うことがあって、ファナは「うーんっ」とけだるい身体を一度大きく伸ばして、それから横になった。
「……まくら」
ルルがすかさず、ずれていた枕に手を伸ばした。「ちょっとだけ我慢」とファナの後頭部に手を添えて持ち上げ、枕の位置を微調整する。それから、薄い毛布を丁寧に掛けて。
それで満足したようで、ルルはベッドから降りた。手近なクッションを引っ張ってきて、ファナに背を向けて三角座りをする。
「……ルルって二人きりだとけっこうしゃべるよね」
「……。ファナとレアがうるさい……たくさんしゃべるから。あたしは無口なくらいでいい」
「でも、そうやって、自分のやりたいこととか黙ってるの。ルルは――」
「あたしはそれでいい」
「むぅ。ファナがやなの……。もっと、ルルのこと知りたいのに。幼馴染だから。けっこう知ってると思ってたけど、あんまり知らないのかもって」
「たとえば?」
「ファナのこと、きらいじゃないのかなって」
「えっ――そ、そんなことっ」
「……だから、ルルが残ろうとしてるのわかって、ちょっとびっくりして……うれしかった」
「だからじゃんけん」
「うん」
今朝、ルルがみんなと出ていったときに、出掛けるときはいつも持っている薄赤色の肩掛けカバンを置いていったことにファナは気づいていた。
でも、ルルが違うと言うのなら、それでいいと、ファナは思った。
思えば、ルルはいつだって、一歩引いたところからみんなを助けていた――気がする。
その優しさをみんなに見えないようにする彼女。
そんなルルに、どうやったらありがとうを伝えられるだろう――ファナはぼんやりする頭でそんなことを考えていた。
♪♪♪
「……ん」
「起きた?」
「……うん」
返事をしたら、ぐぅとお腹の虫が鳴いた。風邪をひいていても食欲は変わらないらしい。
「あう……」
「ふふ。ちょうどお昼。お日様がてっぺんにある」
ルルは部屋の真ん中、テーブルのお弁当を示した。
「ごはん」
「うん。でもその前に、手、洗わないとだめ」
「うう、ルル厳しい。ビョーニンにはやさしくって」
「……病竜? お手洗いまでだっこで連れてってほしいの?」
「っ――ふぁ、ファナそこまでジューショーじゃないしっ」
なのに、どうしてこうなっているのだろう――ファナは毛布にくるまりながら思っていた。
「はい、あーん」
「あ、あーん」
お弁当はおいしい。いつも通りだ。トマトにウィンナー、たまご焼き。どれもおいしい。
でも、どうしてルルが食べさせてくれているんだろう。
自分で食べれると言ったはずなのに、気がつけばルルが主導権を握っている。
もちろんいやじゃないし、ただ照れくさくはあるけれど。そう、自分がお礼をしたいのに、助けてもらってばっかりだ。どんどんありがとうが溜まっていって、返すのがとても大変。
「お返し……」
「?」
お茶を飲み下したところで、ファナは口を開いた。
「ルルにいっぱい助けてもらって、お礼、しないと」
「……。いい」
「え?」
「お礼とか、べつにほしくない」
「でも――」
「いらないったら、いらない……。風邪ひきのファナは大人しくしてたらいいの」
そこまで言われてしまったら、ファナにはもう返す言葉がなくて。
ご飯を全部食べて、少しだけ休憩してから横になった。
(…………うう、また怒らせた。どうして)
ファナは枕に顔をうずめながらうなっていた。
「……っファナ。ファナ」
「ふぁ?」
「まくら。こっちと交換」
水色のそれを差し出してくる。それはファナのものだ。
そういえばそう、今使っている布団もまくらも、ルルのもの。風邪をひいたファナを上に行かせるわけにもいかず、布団を動かすのは大変だからとルルが無理やり押し込んだのだった。
「これ、ルルの……。……このまま使ってたらだめ?」
「顔、埋められるとはずかしい」
「でもルルのだし。ルルの匂いがして、安心するの。ぽかぽか?」
「っ――だ、だめっ」
ファナの枕をファナに押しつけ、その上からぽかぽかと力なく叩く。
「ご、ごめん。そだよね、ルルがファナのまくらになってやだよね。うん」
「えっ――べ、べつに――――じゃ、ないけど……」
「ふぇ?」
「っなんでもないっ。寝るのっ寝なさいっ」
♪♪♪♪
自分の枕をぎゅっと抱きながら、ルルはすやすやと眠るファナを眺めていた。
枕にちょっとだけファナの匂いが混じっている。ただ、いつものお日様の匂いは少しだけ弱くて、それがさみしい。ファナには、お日様の温かな匂いがよく似合うのだ。
「ファナが早くよくなって、一緒に遊べるようになるのがいちばんのお礼」
やわらかな頬をぷにっと触って、ルルはほんとに小さな声で言ったのだった。
そうして静かな時間が流れ、やがてお出掛けから帰ってきた同室の二人がドアを開けた。
夕日色に染まる部屋の中、ベッドの少女と、ベッドに上半身を預けて眠ってしまった少女。
双子のように仲良く手を繋いでいるのを見て、二人は少しうらやましく感じたのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます.
週末更新なのがずれこんで申し訳ないです。
今週末はちゃんと次話を掲載します。(やります)
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
ちっさい子が背伸びしてちっさい子を看病する。
布団直して、タオル換えて、あーんして、身体拭いて、服着せて。
みたいのを書きたかったはずなのに……。
水着回・お風呂回かなと思っていたけど、
サービスシーンのひとつもありませんでした。
口移しの隙すらなかったです。
健全化のマホウでもかかっているんでしょうか。
じ、次回こそは!
それでは次回,
『51……シエルお姉ちゃん』
は、はずかしいの――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




