52……にがいのっ!
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始め――
♪
コンコン、聞きなれないノックの音に、竜の少女ファナは首としっぽを傾げた。この家では、玄関を除いて初めて聞いた気もする。
「ファナ、入るぞ?」
「リトなのっ! いいよ!!」
風邪をひきベッドで上半身を起こしていたファナが答ええる。眠ったのと、身体を拭いて着替えたのとで少し元気になったらしく、声がさきほどよりも明るく響く。
カチャ、とドアが開き、けれどリトは中をそっと覗いてから、慎重に入ってきた。
「? リト? どうしたの?」
「着替え中だったら怒られるからだ」
ベッドの脇に置いたイスに腰掛ける幼馴染の少女を見る。
淡い水色の髪をお気に入りの青いリボンをポニーテイルにした彼女。ついさっきまで、ファナの身体をお湯で濡らしたタオルで拭き、新しい寝間着に着替えさせていた。
風邪をひいた女の子の世話なんて任せられない――というのが彼女シエルの言い分だ。
「着替え中じゃなくても、勝手に女の子の部屋に入ったら怒るわよ」
「……ここ、俺の部屋なんだけど」
「リトのお部屋にファナがいそーろーしてるの」
「居候は食べ物じゃないからな」
「わ、わかってるしっ」
「じゃあ、どういう意味か知ってるか?」
「知ってるもん。おふろんにいそーろーして一緒にぬくぬくしながら寝たことあるもん」
それは、ファナがまだ別の村にいたときのこと。同じく竜の子供である少女たちと暮らしていたときの話だった。
♪♪
「ま、いいや。それよりも冷めたらもったいないもんな」
リトは一度廊下に出て、床に置いておいたトレーを手に、再び中に入る。
「っ――ごはんなのっ!」
♪♪♪
芋と卵のスープ。とろとろと甘いそれは、風をひいたときのお約束だ。身体が温まり、水分も取れ、飲み下しやすい。それでいて、力になる炭水化物も接種できる。
「ほら。あーん」
「あーん」
ぱくり。リトの差し出したスプーンの数倍の口を開けて、ファナはスープを口に含む。
「はふっ……んぐ。…………おいしい! ……あれ、でも、リトの味つけとちょっと違う?」
「あ、わたしが昔リトに教えたからかも」
「かもな。それに、実践でもシエルにしか作ったことないし。ところで熱くなかったか?」
「ふえ? うん。ファナ、熱いのへいきだよ? 冷たいのよりあったかいののがいい」
えへへと口元を緩める。まだ頬は赤いが、いつものファナらしさが戻ってきていることに、リトは安心した。
「……あ、でもリト。やっぱりちょっと熱かったの。熱くなかったけど、熱かったの……」
「へ?」
(なんでわからないのよ。熱いって言われたらあれやるに決まってるでしょ)
後ろでにやにや見つめていたシエルに、耳元で怒られる。
(あれ……あれかっ)
「ったく。ほれ、ふー、ふー。……あーん」
「あーーんっ」
♪♪♪♪
「やだ! にがいからやなのっ。ファナはりゅーだからお薬飲まなくてもへいきだしっ」
「ちゃんと食べないと大きくなれないぞ?」
「お、お薬飲まなくても大きくなれるしっ。いじわるリトのうそつきっ」
「ま、大きくなれないのは冗談だが。でも、早く治すためにも飲まないとな」
隣でシエルもうなずく。リトとシエルに諭されてしまえば、わがままも言えなくて。
「……あううう、にぎゃぃ」
シエルが家から持ってきてくれた、村の薬師のおばあさん特製の飲み薬。どれだけ苦いかは、何度もお世話になったことがある二人は身を持って知っていた。
口直しは用意してあるけれど、コップ一杯分をきちんと飲まないといけなくて。
「えうう……」
目の端に涙を浮かべる少女に、リトとシエルは黙ってえらいえらいをするしかなかった。
自分たちが幼い頃、親がそうしてくれたことを思い出しながら。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
ファナの風邪シリーズ第4弾.
あーんしたり薬を飲んだり.
……子供の頃の飲み薬(液体)ってあんまり味覚えてないですが.
錠剤が大きすぎて飲み込めないから,スプーンで砕いた記憶はあります.
それでは次回,
『53……おはよう、リトっ』
復活なのっ――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




