28……小さな手
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げ――
♪
ファナは大いに混乱していた。
なぜなら、彼女は村長に会うものだと思っていたからだ。村長は村を治める人だから、きっとおじいちゃんかおばあちゃんなのだろう。怖い人だったらどうしよう、と。
けれど――実際に現れたのは、ファナより少し年上に見えるだけの少女だった。
確かに金色の髪は長くてきれいだし、雰囲気を持った人に見えた。でも……。
「村長さん、なの――なんですか?」
「うむ。見えぬか?」
「……あんまり」
「ふふっ、じゃろうな。昨日まで周りの街の偉いのと会ってたが、面識がなかった連中は驚いておったよ。愉快愉快」
そうして笑いを零す姿は、外見そのままの少女に見えるのに。
「……なん……おいくつですか?」
「ふむ。それは答えられぬな。リトがおる」
村長宅の居間にいる四人の中でリトだけが男だった。マホウツカイ見習いの少年。空から墜落したファナに居場所を提供したのが彼だった。そんなわけで、ファナはリトによく懐いている。ただ、それは家族としての愛情であり、それ以上の感情かは本人もわかっていない。
「……リト、耳ふさいでて」
「お前が行ってこい」
「むぅ、お前じゃないもん。ファナだもん」
子供らしくふくれるしぐさを見せてから、村長である少女の隣へ。ファナの耳に口を近づけて少しして、ファナの、竜の子供である証のしっぽがぱたりとソファを打った。
♪♪
「じゃ、じゃあ、村長さんはずっと村長さんなのっ?」
「そうじゃな。リトがこの村に来たときにはすでにしておったよ。シエルが生まれたときにも、村長として挨拶に行った記憶がある」
「……竜、じゃないよね?」
「しっぽも羽も角もないじゃろう? ま、妾のことは秘密じゃよ。女は秘密が多いほど美しいというじゃろう」
「うん、村長さんきれい」
ファナの素直な言葉が口からこぼれた。その言葉に機嫌を良くして、村長さんは声を潜めて、
「内緒じゃが。妾はハーフじゃよ。なんの、かはやっぱり内緒よ」
くすくすと笑う彼女を、ファナは――きらきらした瞳で見つめていた。
♪♪♪
ファナの瞳に浮かぶ感情は憧れだった。
「ファナも……なれるかな」
「うん?」
「ファナも、村長さんみたいに、かっこよくなりたいの。ファナはリューだから長生きだし成長も遅いけど、でもでもちっちゃくても、みんなの手伝いができて、大切なみんなを守れるようなお姉ちゃんになりたい。いつまでも子供なのはいやなの」
それはリトにも打ち明けたことのない気持ちだった。
「なのに――ファナは飛べなくなって。一人じゃなんにもできない。いっぱいリトに助けてもらってる。ファナはもっと頑張らなきゃって思うのに」
「……そうじゃな」
少女の声に顔を上げたファナは、親のように深い目を見つけた。
「おぬしの手は小さい。さっき握手したじゃろう? 妾の手も、おんなじくらいじゃ。手の大きさに違いはない。ただ違うのは、自分の手の大きさを知っているか、であろう」
「手の、大きさ?」
「できることはできる。できないことは、頑張ったところで、もっと上手な人の方が上手くやるものじゃ。自分にできることがなにかを知る。不得意なことは得意な者に助けてもらえばいい。そして、助けられた分、みんなに、自分にできることで返せばいいだけのこと」
「ファナに、できること」
「簡単でいて、難しいことじゃ。ゆっくり考えるといい。――宿題じゃな」
♪♪♪♪
「あの、村長さん、お名前は?」「名前か? レイミ、じゃ。ふふ、だがこの村でそう呼ぶ者は少ないがの」「ファナは呼んでもいい?」「好きにすればよい。呼び名で怒るほど子供でないという自負はあるからの」「じゃあレイミちゃんだねっ。えへへ――よろしくなのっ♪」
またねっ――手を振り去っていくファナを見送って。
――もっとも、お主は自分にできることを知っておる、と。レイミは心の中でつぶやいた。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
達観した(老成した)小さい子っていいよねという話でした.
今後もなにかと登場してきそうな立ち位置です.
ファナが村のいろいろな人と出会い,どう変わっていくか――
そのあたりがこれから楽しみなところかと.
それでは次回,
『29……いろいろなのっ』
みんなみんなきれいな色をしてるの――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




