95……お泊りのおしごと
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。
学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。
そうして、初めての夏がやってきて――
♪
「お家と違うお風呂はそわそわするの……」
小さな身体をさらに小さくするのは、十歳くらいの赤毛の少女だった。いつもは元気に跳ねている癖っ毛も、湯気ですっかり大人しくなっている。
「ほれ、座るんじゃ。髪も背中も全部きれいにしてやろう」
もう一人は腰に手を当てた、色々とあけっぴろげな十代前半の少女だ。
彼女の言葉に促されて、赤毛の少女――ファナはイスに腰を下ろした。きゅっと閉じた足に両手を挟み、身体をますます小さくする。
借りてきた猫――そんな言葉が似合うが、ファナはもちろん猫ではない。
とはいうもののヒトでもなくて。
「ふむ、近くでまじまじ見たことはなかったが、きれいなものじゃのう」
「あ、だ、だめなの。羽としっぽはだめなのっ」
みずみずしい張りのある背中から伸びるのは深緑色の竜の羽。しっぽはいやいやするように、身体の前の方に逃げている。
ファナは竜の少女だ。そうはいっても、羽としっぽ、そしておでこに小さな角がある以外は普通の女の子。健康的に焼けた肌と日焼けしていないまぶしい肌の模様は年相応だ。
「すまぬ。よし、髪から洗うぞ」
「あ、待ってなの。まだ準備が」
ファナは目をぎゅっとつむった。それから何度も深呼吸して、
「い、いいよ」
「ふふ、よし、いくぞ」
♪♪
交代なの――髪も背中もすっかりきれいになったファナは、レイミと場所を替えた。するとレイミの長い金髪がすぐ目の前に。濡れていてなお素直な髪は、洗うのが楽しくて。
「……えへへ、レイミちゃん、どう?」
「うむ、なかなか良いものじゃな」
「ルルの髪、いっつもファナが洗ってたもん。だから、長い髪もちゃんと洗えるの♪」
ファナがご機嫌に答える。と、その手が止まった。
「……ファナ?」
「っ、あ、なんでもないのっ」
髪を洗い、背中を流し終える。ファナよりなお白い肌が、さらに白さを増したように見えた。
「さて、それじゃ、今度は前も洗ってやろうかの」
「ふえ? 前…………まえ!? い、いいのっ、前は自分でできるのっ」
「ふっふっふ、自分でできても、他人にやってもらった方がきれいにできるんじゃよ?」
「や、やなのっ、レイミちゃん目がこわいのっ、肉食どーぶつなのっ」
「可愛い可愛いちっちゃな竜を食べちゃうのじゃー、がおー」
「にゃ、にゃーっ!!」
♪♪♪
「……ぐったり」
パジャマに着替えたファナは、レイミの部屋のベッドにぱたりと倒れた。
「……うう、レイミちゃん、思ったよりおっきかったの。だまされたの」
触っていいと言うからちょっとだけ触ってみた。あんなにやわらかいなんて不思議だ。いったい、なにが入ってるんだろう?
「着やせするタイプじゃからのう。ほれ、そんなファナにプレゼント、じゃ」
「ふえ? ――っちゅめちゃいのっ」
ほっぺたに触れたものの冷たさにしっぽが跳ね上がる。
振り返ると、レイミがビンを手にしていた。それは、ファナも知っているもの。朝起きたとき、それと新聞を玄関に取りに行くのがファナのお仕事のひとつだ。
「牛乳なの!」
♪♪♪♪
「さ、もう寝よう」
「うう……せっかくのお泊りなのに。もっとお話ししたいの」
「でも明日はきっちりみっちり一日中お仕事体験じゃからな。寝ないと身体がもたぬぞ」
「わかってるけど」
学校の授業の一環でのお仕事体験。いっぱい頑張るために、今日はたくさん寝ておかないと。
「ふふ、寝るのもお仕事じゃよ。ファナがたくさん遊んで眠るのと同じようにな」
「寝るのも……お仕事?」
「そう。ぐっすり眠って、翌日の仕事に備える。大事なことじゃ。おしゃべりするお泊りはまた今度、ノエルやシエルも交えてやろう。だから、今はおやすみ」
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
体調管理も仕事の内.そんな話です.
休日の前の日はつい夜更かししてしまいますが,
普通に眠って,朝から起きた方が翌日が有効に使えるようにも思います.
なので休日の前の日は早く寝ましょう!
夜中に翌朝更新分の話を慌てて書くなんてもっての外です!
それでは次回,
『96……一日村長さん』
ま、毎日こんなお仕事してたら大変なの――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




