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96……一日村長さん

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


 小さな村の小さな広場、その近くに建つほんの気持ちだけ立派な屋敷にて。

「いただきます」「………………まひゅ」

 朝食を前に、十歳前半、姉妹のような二人は対照的だった。赤毛の少女が元気いっぱいな一方で、金髪の少女は眠っているのとほとんど変わらない表情だで手を合わせた。

「もう、レイミちゃんったら、ほっぺたにケチャップついてるの。子供みたい」

 赤毛の少女ファナがふきんで口元を拭うと、「うぬぬ……」と力のない声が返る。見た目は金髪の少女レイミの方がわずかにお姉さんなのだが、現時点では立場が完全に逆転していた。

「ごちそうさまでした♪」「ごちそうさまじゃ……」

「はい、食後のジュースです。これで一日頑張ってくださいね」

 レイミの身の回りの世話をしている女性がグラスを二つ置いた。並々と注がれている黄金色の液体は、窓からの朝陽を受けてきらきらと輝く。

「リンゴの甘い匂いなのっ」

 鼻を近づけたファナが頬を染める。濃厚ながら飲みやすく、すぐに空っぽに。すると、

「よし、今日も一日頑張るかのう♪」

「れ、レイミちゃんが急に元気になったの」

 先ほどまでの寝ぼけ姿が嘘のように、まっすぐに背筋を伸ばした見た目は少女な村長――レイミの姿がそこにはあった。どうやらそれは日常茶飯事のようで、

「それじゃ、てきぱき着替えてくださいね♪」

 寝間着姿のレイミに、にっこりと笑顔が向けられた。「…………むぅ」


      ♪♪


 学校の授業の一環、お仕事体験。今日のファナは村長の体験だ。

「さて、ファナにはみっちり村長の仕事をしてもらおう。今日の予定はなんじゃったかな?」

「はい。午前中は商店との打ち合わせ六件です。お昼をとって、一時からは集会所で打ち合わせ。四時から夕食の間は特にありませんが、先日の打ち合わせの議事録と、村長のサインが必要な書類がいくつかありますので目を通してください。それから、今度の定例会議で提案する予定の書類についても、いくつか補足資料が届き始めているのでご確認ください」

「……ふむ、今日も大盛況じゃな。平和で良いことじゃ」

「平和? お仕事いっぱいなのに平和なの?」

「平和じゃから本来のお仕事ができるんじゃよ。どれも来月やそれ以上先のことに向けてのお仕事じゃからな。平和じゃなくなったら目の前のことばっかりになるからのう」

「ふあ、レイミちゃん大変なの。お仕事たくさん」

「ま、村長じゃからな。この村で二番目くらいには忙しいからな」

「そうですね。はい、お弁当です」

「うむ。行ってくる」「あ、行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」


      ♪♪♪


「えと、えとっ、ふぁ、ファナに言われてもっ。れ、レイミちゃんっ」

「じゃが今はファナが村長じゃからのう♪」

 お昼すぎ。広場近くの集会所には、村の大人たちが十人ほど集まっていた。お店や工務店の店主たちで、ファナも知っている顔がほとんどだ。今、ファナの前の机には布が二枚置かれていた。一方には花火を模した絵柄が、もう一方には鳥を模した絵柄が描かれている。

「夏祭りの絵柄なんだよね? そんな大事なの、ファナが決めちゃうの?」

「年交代でデザインする人を変えているんじゃが、今年は張り切った者がおって二案できてしまったんじゃよ。まあ、困ったら棒が倒れた方で良いくらいのものじゃよ」

「で、でも……」

「じゃったら、ファナが好きなのでいいんじゃよ。村長は偉いんじゃからな」

「ファナが好きなの? えっと……ファナは…………お花も鳥も可愛し好きだけど、やっぱり――りゅーがいいの」


      ♪♪♪♪


「竜……?」「ああ、竜か」「いいんじゃないか」「いいなそれ」「確かに新しいな」

 ファナの一言で、途端に大人たちの目に火がついた。羽としっぽの飾りだったり、竜を模したクッキーの金型がなんて話まで飛び出している。

「ふふ、決まりじゃな」

「えと……これでよかったの?」

「うむ。楽しいじゃろう? 自分の思ったことをみんなが一緒に頑張ろうってなって」

「……。うん! とってもうれしいのっ」

「村長の仕事が大変なだけじゃないってわかってもらえて妾もうれしいよ」

 レイミはにっこりと笑って、ファナの髪をやわらかく撫でた。






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


どんな仕事でも同じことで,

やるべきことがだんだん溜まっていくとつい目の前の仕事ばかりに目がいってしまいます.

けれど,そんなときこそ,落ち着いて溜まった仕事全部を確認し,

一緒にできることや,期限は先だけど今のうちに仕込みをした方がいいことなどを

見つけることが大切です.


というマネジメントは,レイミ本人ではなくて,

彼女をお世話しているあの女性がやっているのですが…….

秘書すごい.いつか彼女の話も書きます.


夏祭りはもう少し先でしょうか.

けれど,夏のイベントとして確実にやります!


それでは次回,

『97……なつかぜ』

ファナが村長さんをしているその頃リトは――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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