左目
突然黒猫の腹が鳴る。
「すまない。魔法を教えてやる代わりに飯を食わせてくれよ。宮廷を出てから殆ど何も食ってないんだ。お前、飼い犬なんだろ」
黒猫は自慢げな態度から一転、申し訳なさげに上目遣いをした。
「それは大変だ。魔法なんて関係なしだ。好きなだけ食べさせてやるよ」
姫に尻尾を振れば何とかなるだろう。
「助かった。恩に着るぜ」
黒猫は俺に付いて来る事になった。
「俺の飼い主に合わせてやるよ」
「お前の主人か。会うのが楽しみだぜ」
黒猫は好奇心をそそられているようだ。
エルフの村へ帰りながら、俺は気になっている事を口にした。
「お前さっき、俺の事を本当に犬かって聞いただろ。その時、俺の左目ばかり見てなかったか」
「さあな。気のせいだろ」
黒猫はとぼけていた。
「俺は昔から自分の左目が気になっているんだ」
俺の言葉に黒猫の足が止まる。
「悪かった。謝るぜ。他人の外観なんてどうでも良いって分かってるのによ。おいらもまだまだだぜ」
とても申し訳なさそうだ。
「いや。誤解しないでくれ。別に責めている訳では無いんだ。ただ、知りたいんだ」
黒猫は探るような眼差しを俺に向けて次の言葉を待った。
「俺の左目が犬では無いとしたら何の生き物に見える」
黒猫は何かを発しようとしたが思いとどまった。
「おいらにそれを聞いてどうするつもりだ」
「分からない。だが知りたいんだ」
俺は正直な気持ちを伝えた。
黒猫はため息をつく。
「さっきも言ったが生き物の外観なんてどうでも良いだろ。それでも聞きたいんだよな」
「ああ」
「聞いて後悔しないでくれよ。本当にどうでも良い事なんだからよ」
「俺が望んだ事だ」
黒猫は深呼吸をした。
ためらいが感じられる。
かなり話したく無い様子だ。
喋り方に似合わず気遣いの出来る奴なんだな。
「えーっと。まあ、そうだな。際立つ白目。緑がかった茶色の瞳。そんな目を持つ野生の動物は見た事が無い。エルフでもドワーフでもない。そう。人間さ。人間の目だよ」
「そうか。人間か」
俺は分かっていた。
出会った事は無いがこれは人間の目だ。
「気分を害したか」
黒猫は心配している。
俺の心に気を配っているんだ。
結構良い奴じゃないか。
「いや。気分を害してなんかいないさ。薄々感づいていたんだ。ただ、誰かにはっきりと言って欲しかったんだ」
「そうか」
それだけ言った黒猫だが、安心した気持ちが伝わって来る。
「人間みたいだなんて言われて良い気で居られる奴は少ないだろうからよ。心配したぜ」
気になる言葉だ。
「まるで人間が嫌われているような言い方だが」
黒猫の耳が跳ね上がる。
驚いたようだ。
「そうか。お前犬だから、知らなくて当然か。特にエルフは嫌ってるぜ」
「何故なんだ」
歩みを止めていた黒猫は地べたに腰を落ち着けた。
「座れよ。エルフと人間の確執って奴を聞かせてやるからよ」
俺が座ると、黒猫はエルフと人間の確執について語り出した。




