世捨て猫
「猫がしゃべっている」
俺は驚き呟いた。
「良かった。言葉が通じるぜ」
黒猫は嬉しそうだ。
今、俺は会話をしたのか。
会話なんて初めての経験だ。
相手は猫だよな。一応確認してみるか。
「お前は誰なんだ」
「誰って、見た通りの猫だよ」
やはり猫か。猫と会うのはこれが初めてだ。
犬と猫ならば会話が出来るのか。
犬同士でも会話が出来ないのに。
「それより、おいらがの方が聞きたいぜ。お前は何者なんだ」
「何者って、犬だが」
俺たちは本当にしゃべっているのか。
猫の発声に意識を向ける。
「犬か。まあそうだよな。犬だよな」
なる程。俺達はしゃべっていない。
お互いに鳴き声を発しただけだ。
だが、会話と思えるほどに意志疎通が出来ているのだ。
これはどう言う事だ。
猫ならば知っているだろうか。
「聞きたいんだが、犬と猫はこんな感じで会話が出来るのか」
俺の問いかけに黒猫は一瞬驚き、しばらく考えていた。
「分からない。おいらはいろんな奴に話しかけたが、こんな事は初めてだ」
「お前もか」
「まあ、そうだな」
お互いに初めてなのか。
「なぜ俺たちだけ」
「さあな。似た者同士だからじゃないのか」
黒猫はそう言い放つと愉快そうに笑い出した。
猫は笑えるのか。
俺の想像とは違っていた。
猫はもっとよそよそしい生き物だと思っていた。
だが実際に会うと、なかなか気さくな生き物だ。
取り敢えず自己紹介しておくか。
「俺の名はシェパード」
「へえー。お前名前が有るのか。なら誰かに飼われ。おっと、これは失礼。俺も名乗るべきだな」
そう言って、一瞬口ごもる。
「悪いな。名前はもう無い」
名前はもう無いとはおかしな言い回しだった。
「宮廷を飛びだした時に名前は捨てたのさ。今は世捨て猫だ」
宮廷か。貴族にでも飼われていたのだろうか。
それにしても世捨て猫とは。




