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戦死した俺は異世界で犬の生活  作者: ウエンズディー・S・水田
魔犬編

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地水火風

 大きな木のたらいに、沸かした湯を入れ水で温度調整。

 俺はその中に入って姫に体を洗ってもらっている。


 もちろん姫は裸ではない。

 水不足が解消して温泉に行くこともなくなった。

 また温泉に行きたいな。


 別に姫の裸を見たいわけではない。

 良い年をした俺がそんな事を望んだら変だろう。

 ましてや俺は犬だ。おかしすぎる。

 妻に申し訳ない。いや女主人。いや妻か。

 はっ。

 俺は犬だ人ではない。


 またおかしな思いが浮かぶ。

 もしかすると。前世の記憶。

 いや、あり得ないだろう。

 だが、ふとした拍子に湧き上がるこの奇妙な思い。


 もし、前世と言う物が有るならば。

 記憶のかけらを持っていたとしたならば。

 俺は前世で女主人に尻尾を振って。

 喜んで付き従っていたのだろう。

 様々な命令をこなしながら。


 浮かんでくるのは。

 美しい妻。三人の子供たち。下の子のはまだ幼く。

 えっ。今のはなんだ。

 何かおかしい。俺は犬だ。

 辻褄が合わない。

 俺は人では無い。


 やはり単なる妄想か。しっかりしないとな。


 体を洗い終えると、姫と侍女は二人係で俺の体を拭いてくれる。

 体の大きな俺を拭くのは重労働だ。

 ドライヤーが有れば姫一人でも何とか出来るかも知れないが。


 はっ。

 ドライヤーとは何だろう。

 考えないでおこう。


 別の侍女が厨房で夕食を作っている。

 初めの頃は姫も食事作りを頑張っていたらしい。

 そして出た結論は。

 無理。

 と言うことだった。


 味見した時は美味しいのだが、完成するとまずくなるそうだ。

 呪いにかかっているのではと思える程だとか。


「このくらい乾けば大丈夫ね。綺麗になったわ」


 姫も侍女も満足そうだ。

 侍女は姫に挨拶して厨房に向かう。

 料理作りに参加して侍女二人で作り始めた。


 姫はそんな二人を見つめていた。

 俺が言葉を発する事が出来たなら。

 姫の料理がまずく訳が俺には分かる。

 努力家の姫だ。

 味見で気を良くして更に手を加えてしまうのだろう。


「食事が出来るまで私の部屋にいましょう」

 私室に向かう姫に俺もついて行く。


 部屋に入るとすぐに姫は気づいた。

「あら、本が開きっぱなしだわ」

 不思議そうに小さなテーブルに向かう。

 本は開いたまま。

 俺の仕業だ。


「地水火風のページだわ。グラッドかしら。でもあの人、魔法には本当に疎いし」

 姫は本を閉じた。


 地水火風。魔法。

 やはり魔法の本だったのか。

 期待した通りになった。


 だが。

「きっと風のいたずらね」

 そう言って姫は本を棚にしまった。

 棚は高くて俺には届かない。

 困った。

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