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戦死した俺は異世界で犬の生活  作者: ウエンズディー・S・水田
飼い犬編

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31/63

独白

 姫は俺の体をブラシで丁寧に洗ってくれている。

 皮膚を伝わるブラシの毛先が心地よい。

 侍女にさせないのには何か訳が有るのだろうか。

 今はまだ分からないことだらけだ。


「あなた。こんなに真っ白だったのね。可愛い」


 姫は俺の額にキスをした。

 俺は慌てて飛び退く。

 こんな所を見られたら言い訳出来ない。


 あれっ。まただ。この気持ち。誰に言い訳をしようと思ったのだ。

 もしかして、前世のご主人か。

 エルフと出会ってから俺の感情が益々おかしな事になっている。


「あっ。驚いたの。ごめんなさい。あなた野犬だものね」

 姫は俺の反応に申し訳なさそうだ。


「もう少し滝の近く。こっちに来て」


 俺と姫は侍女から離れて湯に浸かる。

 姫はしゃがんで肩まで。

 俺は立ったまま肩まで。


「聞いてもらいたいのに誰にも話せないの。でもあなたなら大丈夫」


 姫は俺に体を寄せた。俺は犬だ。謎の罪悪感は無視しよう。


「本当の事を言うと、私、後悔してるんだ。家を飛び出しちゃった事。セバスティーノとテロワールに勧められたけど、踏みとどまれば良かった。グラッド達まで巻き込んじゃつて」


 会った事のない者の名前が出てきて分かりにくいが、どうやらこの姫様は家出をしたようだ。

 しかも、多分、王家を。


「あの地震の後、井戸水が減っちゃうし、最近は狩りに出てもあまり動物がいないし。みんな困ってる」


 この地形を見れば分かる。

 ここは大地の裂け目だ。

 地殻変動の中心地。

 地震も多いし水脈への影響も大きいだろう。

 森の中に開けた土地が出来ているのもきっとそのせいだ。


 もしかするとエルフはこの知識を持っていないのか。

 世界地図を広げ向かい合う陸地の海岸線に着目し、大陸移動の着想を得たのは誰だったか。

 エルフでは無い気がする。

 もしかして、これを知っているのは俺だけか。


「私、頑張らなきゃって思ってる。皆の先頭に立って、真っ先にやるべき事をして、努力してる。でも私、これからもずっとやれるのかな」


 そうか。やっぱり姫はエルフの群のリーダーだったんだ。

 狩りも先頭に立っているのだろう。

 今だって他人任せにせず、自分の飼い犬の世話を自分でしている。

 侍女が手を出さない所を見ると、姫の覚悟がエルフの群れにしっかりと伝わっているのだろう。


 姫の心の内がはっきりと伝わってきた。

 どんなリーダーも孤独を抱えているんだな。

 弱音を吐きたくても相手が居ないならば尚更だ。


 俺はさっきまで、飼い犬らしく何もせずに暮らして行こうと思っていた。

 だが、やめだ。

 俺はナンバーツーになる。

 ナンバーツーになって、姫を助ける。

 俺の群のナンバーツーのように。

 群れのリーダーを助ける。


 まずは村の困りごとを何とかしないとな。

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