独白
姫は俺の体をブラシで丁寧に洗ってくれている。
皮膚を伝わるブラシの毛先が心地よい。
侍女にさせないのには何か訳が有るのだろうか。
今はまだ分からないことだらけだ。
「あなた。こんなに真っ白だったのね。可愛い」
姫は俺の額にキスをした。
俺は慌てて飛び退く。
こんな所を見られたら言い訳出来ない。
あれっ。まただ。この気持ち。誰に言い訳をしようと思ったのだ。
もしかして、前世のご主人か。
エルフと出会ってから俺の感情が益々おかしな事になっている。
「あっ。驚いたの。ごめんなさい。あなた野犬だものね」
姫は俺の反応に申し訳なさそうだ。
「もう少し滝の近く。こっちに来て」
俺と姫は侍女から離れて湯に浸かる。
姫はしゃがんで肩まで。
俺は立ったまま肩まで。
「聞いてもらいたいのに誰にも話せないの。でもあなたなら大丈夫」
姫は俺に体を寄せた。俺は犬だ。謎の罪悪感は無視しよう。
「本当の事を言うと、私、後悔してるんだ。家を飛び出しちゃった事。セバスティーノとテロワールに勧められたけど、踏みとどまれば良かった。グラッド達まで巻き込んじゃつて」
会った事のない者の名前が出てきて分かりにくいが、どうやらこの姫様は家出をしたようだ。
しかも、多分、王家を。
「あの地震の後、井戸水が減っちゃうし、最近は狩りに出てもあまり動物がいないし。みんな困ってる」
この地形を見れば分かる。
ここは大地の裂け目だ。
地殻変動の中心地。
地震も多いし水脈への影響も大きいだろう。
森の中に開けた土地が出来ているのもきっとそのせいだ。
もしかするとエルフはこの知識を持っていないのか。
世界地図を広げ向かい合う陸地の海岸線に着目し、大陸移動の着想を得たのは誰だったか。
エルフでは無い気がする。
もしかして、これを知っているのは俺だけか。
「私、頑張らなきゃって思ってる。皆の先頭に立って、真っ先にやるべき事をして、努力してる。でも私、これからもずっとやれるのかな」
そうか。やっぱり姫はエルフの群のリーダーだったんだ。
狩りも先頭に立っているのだろう。
今だって他人任せにせず、自分の飼い犬の世話を自分でしている。
侍女が手を出さない所を見ると、姫の覚悟がエルフの群れにしっかりと伝わっているのだろう。
姫の心の内がはっきりと伝わってきた。
どんなリーダーも孤独を抱えているんだな。
弱音を吐きたくても相手が居ないならば尚更だ。
俺はさっきまで、飼い犬らしく何もせずに暮らして行こうと思っていた。
だが、やめだ。
俺はナンバーツーになる。
ナンバーツーになって、姫を助ける。
俺の群のナンバーツーのように。
群れのリーダーを助ける。
まずは村の困りごとを何とかしないとな。




