観察
姫の服は滝壺の手前にある岩の上に、綺麗に畳んで置いてあった。
侍女がその横でうやうやしく控えている。
あの軽装は入浴の為だったのか。
いきなり裸を見せ付けられて動揺しかけた俺だが、まずは気持ちを落ち着かせた。
邪念を払い心の中を整理する。
冷静になれ。今の情況を分析しろ。物事を客観的に判断するんだ。
まずここは温泉だ。
裸になるのは当然だ。
次に、俺は犬で彼女はエルフ。
彼女にとって俺は動物だ。
動物に裸を見せることに何の抵抗が有ろうか。
もう少し事態を俯瞰してみよう。
そもそも犬を洗うのに温泉に来る必要が有るのか。集落の水で洗えば良いのでは。
いや。何か事情が有りそうだ。
そう言えば食料事情を気にしていた。
食料問題に水不足が絡んでいるとしたら。
だとしたら大問題だ。
何とかしなくては。
しまった。また俺の考え癖が始まった。
そもそも俺は何を焦ったんだ。
妻も子もいるこの俺が、今更女性の裸に動揺するなど情けない。
この機会に俺はエルフの体を観察する事にした。
これがエルフか。確かに美しい。
均整の取れた体つき。
すらりと伸びた手足。
古代より伝わる美の女神をかたどった彫刻に血肉が宿って目の前に現れたらこうなるのでは無いだろうか。
だがこの体、我が妻の圧勝だな。
なにしろ妻が街を歩けば、すれ違う男どもは皆ふりかえり、妻の体に視線を走らせたものだった。
俺はそんな男どもに目で圧をかけ。
はっ。
俺は何を考えているんだ。
今のは何だ。
この思いはどこから来た。
訳が分からなくなった俺は、激しく体を振るわせた。
勢いよく体の水気が飛び散った。
「きやっ。やめてよ。シェパード」
姫は少女の様な声を上げた。
表情がとても無邪気だ。
これが本来の姿なのだろう。
どうやら俺の名はシェパードに決まったらしい。
名前に複雑な違和感を感じるが、俺はこれ以上考える事をやめにした。




