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温泉
野犬の群れを率いて森を駆け回っていたこの俺がこれからは飼い犬か。
野犬のリーダー。
思い返せば充実した毎日だった。
だが今の俺は空っぽだ.
飼い犬になって意味も無く生きて行くのも悪くは無い。
今までの俺よりも犬らしいじゃないか。
犬の寿命は十五年くらいだったか。
何年生きたか分からないが、恐らく俺も良い年だろう。
余生は犬らしく暮らして行こう。
「さあ。体を洗いに行きましょう」
一旦姿を消した姫は着替えて戻って来た。
法衣の様な重々しい服から軽そうな薄手の服に変わっていた。
額のサークレットも外している。
俺は姫に連れられて開けた土地を歩く。
侍女一人と二人の兵士がお供に付いている。
土地は起伏に富んでいて、小さな丘を登ったり下ったりした。
いつしか俺は渓谷を下り始めていた。
開けた土地に大きな窪地が広がっていたのだった。
既に俺の耳は滝の音を捉えていた。
そして硫黄の匂い。
水と硫黄。
この先には温泉が有るのか。
姫は体を洗うと言ってたな。
もしかすると、俺を温泉に入れてくれるのか。
俺は無意識に尾を振っていた。




