罪
後頭部を打った骨は跳ね飛び俺は地面を転がった。
すぐに立ち上がり視線を大岩に向ける。
狼のリーダーは声を上げる間もなく地面に倒れていた。
意識を失っている。
今、奴は無力だ。
喉に噛みつき暫く締め上げていれば、目を覚まさずに死ぬ。
俺は狼に向かって歩こうとした。
だが、何故だろう。
俺の足が止まる。
突然全身に嫌な感覚が沸き起こる。
嫌悪感。恐怖心。
自分への嫌悪感と取り返しが付かない事への恐怖心だ。
俺は何をしようとしているのだろう。
狼は俺を襲っていない。
なのに殺すのか。
この森の誰がその様なことをするだろうか。
俺達動物は今を懸命に生きている。
先の事は考えない。
今生きる事が全てなのだ。
まだ起きていない事を想定して、予め狼を殺しておく。
俺だけが先の事を考えている。
俺はいったい何なんだ。
あのエルフの女性は熊を食べることで償いとした。
なら俺は狼を食べるのか。
いや、犬は狼を食べない。
俺は狼を殺せない。
俺は狼に近づく。
頭から血を流している。
鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。
狼は死んでいた。
一瞬俺の心に喜びが走る。
喉を締め付けなくて済む。
これで狼の群れは弱体化した。
ナンバーツーが立派なリーダーに育つまでの時間が稼げる。
だが、喜びは直ぐにかき消された。
激しい後悔の念が沸き起こる。
してはならない事をしてしまった。
こんな事をする動物はいない。
この森で起こってはならないことだ。
森の摂理に反している。これは罪だ。
俺は罪を犯してしまった。
俺はこの森で生きて行く資格がない。
森が拒絶している。
罪の意識が俺を苛む。
森の中を意味もなく走り回る。
川の水が足元で跳ねる。
俺は駆け回った。
やがて俺はエルフの女生と出会った場所に来ていた。
足元にエルフの匂いが残っている。
匂いは森の外へと続いていた。
俺は何かをしたいわけでは無かった。
何の希望も感じなかった。
俺の心は空だった。
ただ意味も無くエルフの匂いを辿りながら森の外へと歩いて行った。




