驚愕
俺は何を話したいのか分からない。
ただただ話しがしたかった。
口を開いて声を出す。
だが出たのは犬の喜び声だった。
激しく尻尾を振りながら。
まるで帰ってきた飼い主に甘える犬だ。
見た事もない思いが心に浮かぶ。
「あら。なんて可愛いのかしら。これを持ってらして」
女性は銀の弓を男に無し付けた。
「えっ。姫。これは王妃殿下の形見。おいそれと他人に」
「私が許します」
女性は俺に向かって歩き始めた。
「姫。お待ちを。危険で御座います」
構わず俺の前に来る。
「本来であれば、一国を背負ったであろうこの私。これほどか弱い動物を前にして何を臆する事が有りましょうか」
女性はかがんで俺の顔を覗き込む。
フードをそっと後ろに払いのけた。
女性の素顔が露わになる。
銀色に輝く髪。
透き通る白い肌。
彫刻のように整った顔立ち。
大きなアーモンド型の眼。
人間とは思えない程に青く澄んだ瞳。
長く尖った耳。
嘘だろう。これは人間ではない。
エルフだ。
おとぎ話に出てくる、あのエルフだ。
有り得ない。この世にいるはずがない。
俺は何故これほどまでに驚いているのだろう。
根拠が無い。
おとぎ話とは。分からない。身に覚えがない。
なのに強い感情が湧き上がる。




