歓喜
「どうしたのです」
優しげな声がした。
声と共に木の陰から現れた女性は、白いフードとローブで身を包んでいた。
雰囲気からしてかなり若い。二十歳にも届かないか。
銀色の弓を持ち、どことなく高貴な雰囲気を漂わせていた。
「姫。お下がりください。魔犬です」
声をかけられた男は慇懃な態度で答えた。
「魔犬。この子がですか」
姫と呼ばれた女性は不思議そうに俺を見ているが、その素顔はフードに隠れて見えない。
「我々に石を投げて来たのです」
「魔力投石ですか」
「いえ、口に咥えて」
「口ですって。まあ。なんてお利口なのでしょう」
女性は感嘆の声を上げた。
「姫。お利口などと口にされては。犬はこのような事をしません。とてもふつうの犬とは」
「ですから物凄くお利口さんなんです。絶対です」
「そこまで断言なされなくとも」
「お願いですから弓を下ろしてあげて」
「はあ。姫の願いとあらば致し方有りません」
彼らの会話を聞いているうちに、俺の高揚感が喜びに変わって行く。
そうだ。俺は。俺は人の声が聞きたかったのだ。
何年も何年も誰とも言葉を交わしていなかった。
常に孤独を感じていた。
どれほど人と話したかったことか。
どれほど人の声が恋しかったことか。
人の声。そうだ。人の声だ。
話したい。会話をしたい。人と心を通わせたい。
ここに言葉の通じる者が居る。
俺は喜びを爆発させた。




