灰色熊
この年は何かがおかしかった。山の食べ物が不足している。
鹿の数が減り俺達の食糧が足りない。
雨が少なく川底が見えていた。
犬と狼の勢力争いも激しくなっていた。
そんな時だ。山奥から灰色熊が現れたのは。
これまで出会った黒い熊とはまるで違う。
明らかに体が大きく危険な匂いを放っている。
全身から殺気が立ち昇っていた。
俺達を獲物として見ているのは明らかだ。
犬達は怖じ気づいて動けない。
やるしかない。
俺は行動を起こした。
俺は熊に吠えかかる。
俺達が厄介な相手だと学習させなければやられてしまう。
だが熊は動じない。
俺を驚異と見ていないのだ。
ならばこちらから仕掛けるか。
危険な相手だ。今まで出会ったことが無いほどの。
相手の行動を予測しなければ勝ち目は無い。
俺は全身の感覚を研ぎ澄ます。
相手は油断している。
俺は相手の鼻を狙っていきなり飛びかかった。
だが俺は甘かった。相手の強さを正確に見抜けていなかった。
強さが俺の想像を大きく越えていたのだ。
飛びかかった俺は木に叩きつけられた。
地面に落ちる。
何が起きたのかわからない。
視界が暗くなる。
ひどい耳鳴りだ。
鼻先には土の匂い。
気を失うな。
俺は立ち上がった。
少しずつ周りが見えて来る。
体に感覚が戻ると脇腹に凄まじい痛みが走った。
皮膚が深く裂けている。
熊の爪痕だ。
幸い内蔵には達していない。
だが酷い出血だ。
飛びかかった俺は熊の前足で弾き飛ばされたのだ。
全く見えなかった。早すぎる。
俺がまだ生きているのは本能的に体を丸めて身を守ったこと。
そして熊が俺にすぐとどめをささなかったこと。
急いでとどめをさすほどの相手とは思われていないのだろう。
無理だ。
知恵で勝てるような相手では無い。
強力な武器が無ければ無理だ。
そんなものが犬の俺達に有るはずがない。
武器。まただ。
記憶に無い物が思いとして心に浮かんでくる。
武器とは一体なんなんだ。




