死を悼む犬
俺は狼のからだをなめ続けた。
唸る狼から怒りの感情が消えて行く。
やがて俺と狼の間に信頼感が生まれた。
狼の心が穏やかになった。
俺達は似ている。
群れを追われた孤独な狼。
群れを率いながら孤独な俺。
気が付いたら俺は群れにいた。
知恵が働く俺はリーダーになった。
なのに孤独だ。
雌犬と子供を作る気も起きない。
何か大切な物を裏切る気がするのだ。
俺は犬の中で犬ではなかった。
俺になめられながら狼は静かに目を閉じる。
狼の意識が遠のいて行く。
終わりの時が近付いていた。
狼はかすかに甘えるような声を出した。
口がしきりに何かを吸うように動いている。
母親を思い出しているのだ。
俺を母親と思っていいぞ。
ミルクを飲んで、こうして舐めてもらってたんだな。
可哀想に。
俺が看取ってやるからな。安心しろ。
俺は優しく舐め続ける。
やがて狼は静かに息を引き取った。
とても穏やかな表情だった。
恐らく母はもういないのだろう。そんな気がする。
あの世で母親と暮らせると良いな。
俺は苦労して狼の体を河原から引き上げた。
俺は何をしているのだろう。
だが、こうせざるを得なかった。
俺は狼の体を苦労して森の中まで運び込むと大きな木の根本を深く掘った。
狼の体を穴にいれ土を被せた。
木の根本にこんもりとした山が出きる。
これだけでは足りない。
俺は幾つもの石を山の上に乗せ、最後に花を乗せた。
しばらく山の前で伏して首部を垂れた。
俺は何をしているのだろうか。
生きるために戦うととに意味はある。
だが俺は今の生き方を好んでいない。
俺はこの時はっきりと感じた。
やがて俺は群れの元に帰った。




