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悪役令嬢は妖刀と生きる  作者: 高塚 ミヤビ
第一章

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第二話 前編

不運な事故によりなぜか直前までプレイしていたゲームのキャラクター、悪役令嬢レイラ・ブラックウッドの幼少期に転生してしまった私、葉月レイは、レイラの父親との面会の為にこの動きづらい幼い体を転ばぬように注意しながら、豪華な屋敷の中を必死に歩いていた。


メイドさんに導かれ、広い廊下を歩き続ける。

豪華な装飾品が並ぶ屋敷は、侯爵家の格式を感じさせるが、ところどころに日本を彷彿とさせる和風の装飾品が飾られているのが気になる。

このゲームの舞台は、よくあるファンタジー作品のように中世ヨーロッパを基調とした世界観だったはずだ。

だとしたら、これはレイラの父の趣味なのだろうか。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


辺りをきょろきょろと見渡していたからか、ぎこちない動きを見て心配したからなのか、メイドさんは歩みを止め、こちらの様子を伺う。


「えぇ、大丈夫よ。なんだか動きづらくて」


「やはり、昨夜まで寝込んでいらっしゃいましたから、そのせいでしょうか。今朝は顔色も良いように見受けられたので、通常通り準備いたしましたが、気付かず申し訳ございません。」


彼女の返答で、私は初めて自分がこの体で「寝込んでいた」という事実を知る。

この体が動かしづらいのは転生した直後で前世との体の大きさのギャップに慣れないという理由だけではなく、病み上がりも重なっていたからなのかもしれない。


「もし、体調が優れないようでしたら、ご当主様に面会を取りやめるよう進言しましょうか?」


「そこまでしなくても問題ないわ。心配させてごめんなさい」


メイドさんの提案に、私は首を振って答えた。

彼女の気遣いはありがたいけれど、レイラの父親との面会は、この世界での自分の置かれている状況を把握するためには重要な機会なので逃したくはなかった。


「お嬢様が謝る必要はございません。もう少しでご当主様の仕事部屋へ着きます。もし急に体調が悪くなったらいつでもお声がけください」


メイドさんは優しく微笑みながら言うと、再び歩み始める。

その背中について行き次に足が止まったのはこれまでとは明らかに雰囲気の違った、重厚な扉の前だった。


「レイラお嬢様をお連れしました」


メイドさんは軽くノックをしてそう言うと、中から赤茶髪のメイドさんが現れ、扉が大きく開かれる。


「どうぞお入りください。ご当主様がお待ちです。」


赤茶髪のメイドさんが丁寧に頭を下げ、部屋に誘導してくれる。

開かれた扉の向こうに広がる部屋は、廊下と同じく洋室を基調としつつ、絵画の代わりに掛け軸や刀のような和の要素を感じる装飾と調度品が並んでいた。

そして、中央には机を挟み、黒髪の男性が座っていた。


彼がレイラのお父さん、ブラックウッド家の当主なのだろうか?

黒い髪は短く整えられ、後ろ髪が一房だけ長く伸ばされており、鋭い目元と整った顔立ちが印象的な人物だ。

ゲームでは登場しなかったキャラクターだが、さすがメインキャラの父親だけあって、顔がいい。

これは、若いときは女泣かせだったに違いない。

そんなことを思っていると、お父様から低く落ち着いた声がかかった。


「おはよう、レイラ。調子はどうだ?」


「おはようございます、お父様。少し体が動かしづらいですが問題ありません」


レイラとして振る舞わなければと自分を奮い立たせ、できる限り自然に答えるよう努める。

お父様は私の言葉に小さく頷くと、手元にある書類に目を落とし、淡々とした口調で私を部屋まで連れて来たメイドさんに問答を始めた。


「アトラ、刻印の確認は済んだか?」


「はい、お嬢様の右手の甲に刻印が発現したことを確認しました」


私を部屋から連れて来た彼女はアトラさんと言うらしい。

朝の身支度を手伝いに来た時に確認されたのだろうか。

お父様の問いに、アトラさんは落ち着いた声で答えた。


「やはり、魔力覚醒だったか」


「魔力覚醒…?」


聞き慣れない言葉に、私は思わず口に出してしまう。

頭の中でゲームの設定を必死に掘り返すけど、ピンとくる情報はない。

言葉のまま捉えれば、魔力を使えるように目覚めたということだろうか?


「そう、ここ数日間、レイラが高熱で寝込んでいた原因だ」


私の声に反応して、お父様は視線を上げ、魔力覚醒について詳しく説明してくれる。


「つまり、魔力覚醒した証というのが先ほど話されていた右手の甲にあるこの刻印ですか?」


お父様の説明を要約すると、どうやら、体内の魔力が一定の量を超えると、魔力を放出する回路が形成され、その過程で寝込むほどの高熱が発症し、体のどこかに刻印が現れるとのことだ。


「そうだ。それが魔力覚醒者に発現する印だ。覚醒者は成長するにつれて魔力の保有量も増し、刻印も広がっていくと言われている」


私は自分の右手の甲に視線を向ける。

私がレイラとして目覚めた時にもこの刻印を見て自分が誰なのかを確信できたけど、改めてみると確かに繊細な紋様が浮かんでいる。

ゲームの時の立ち絵では手の甲から手首辺りまで刻印が広がっていたと記憶していたのでお父様の説明でまた一つ疑問が払しょくされた。


それにしても、ゲームではほとんどのキャラクターが使う魔法属性をモチーフにした刻印を持っていたがその刻印が「発現する」なんて設定は聞いたことなかった。

ゲームではただのキャラクターデザインの一部だと思っていたのに、こんな意味があったとは。


「ブラックウッドの家系でも魔力覚醒した者は数人で、ここ数代は見かけていない稀有なものだ。そして、レイラ、お前にはこれから重要なことを伝えなければならない」


お父様の声が一層厳粛なものに変わった。


「お前に刻印が発現したからには、二年後の春を迎えたら魔力覚醒者が集まる魔術学園に通うことになる」


「魔術学園……あの山脈の麓にあるノルディアスにある魔術学園のことですか?」


ゲームの舞台となった学園がある場所のことだろうか。

設定では各国の不可侵領域である大陸の中央にある山脈、その麓にある魔術国家ノルディアス。

その国は始まりの魔女の弟子である6人の賢者たちが運営し、世界で唯一の魔術学校のある国でもある、そんな設定だったはずだ。


「そうだ。本来は家業を手伝わせる予定だったが、刻印を持つ者は身分を問わず必ず魔術学園に通わなければならないと義務づけられている。理由は様々あるが、最低限、魔力の操作を覚えてもらい暴走を抑えるのが目的だと聞いている」


魔力という未知の力が急に体に宿ったら、暴走する可能性は確かにありそうだ。

何もないところからいきなり火や水を出すなんて、ゲームではカッコいい演出だったけど、現実だとそれを手探りでやるだなんて危険すぎる。

コントロールできなかったら、自分が傷つくどころか、周りまで巻き込むかもしれないのだから。

昔の魔法使いたちも、そんな危険性を理解したからこそ、魔術学園なんてものができたんだろう。


「まだ公式には発表はされていないが、お前の婚約者でもある王国のレナード王太子殿下も、刻印が発現されたと言われている。つまり殿下と同じ学園に通うことになる」


「レナード様も…?」


レナードも同じ学園に通うことはゲームの展開上、分かっていたことだが、こんなに幼い頃から婚約も決まっているとは思わなかった。

婚約する前だったら何とか食い止めようと動いていたのだが、それは不可能のようだ。


「ゆえに、王太子殿下と同じ学園に通うことになるお前は、太子殿下の婚約者としても帝国の代表としても恥じない成績を周りから求められ、見定められることになる」


確かに自分の実力が可視化されるのも学園の特徴の一つだ。

学園はエレナス(優等)ゼレナ(一般)オブスクラ(劣等)の三クラスに分けられる。

入学試験を基にしてクラス分けをされ、進級時に年間の成績によって再びクラス分けされる仕組みとなっていたはずだ。


「つまり、私は学園で上位の成績を取り続ければよろしいのでしょうか」


正直言えばオブスクラに入って呆れられて婚約破棄を狙いたいところだが、それだとブラックウッド家に迷惑がかかるのでそれは実行しないでおこう。

私の言葉に納得したようにお父様は頷いた。


「その通りだ。だが、現状の家庭教師との勉強だけでは、それを達成するのは難しいだろう。なので、魔術の講師を呼び寄せることにした」


「魔術の先生ですか…それはどのような方なのですか?」


内心では、どんな人物が来るのか好奇心と不安が入り混じる。

出来ればゲームに登場していた設定上、強かった人物が先生になってくれると心強いのだが。


「現状で多くのことを言えるわけではないが、恐らく帝国の宮廷魔術師の誰かになるだろう」


帝国の宮廷魔術師……そのフレーズで思い浮かべるキャラクターはいないので、ゲームでは登場していた人物ではなさそうだ。

それでも、帝国でも上位に位置する魔術師の一人が来てくれるということだろうか。

諸々の事情は分からないが、正直ありがたいことである。


「私からの話は以上だ。レイラから何か話すことはあるか?」

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