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悪役令嬢は妖刀と生きる  作者: 高塚 ミヤビ
第一章

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第一話

「もうダメかもしれない…」


痛みに苛まれ、意識が薄れていくのを感じていた。

バイトからの帰り道、交通事故に遭い、大学生活も希望も全てを失った私が最後に口にしたのは、後悔と未練の言葉だった。


(まだやり残したことが…あるはずなのに…)


心の中で呟く。

しかし、どんな願いも叶わないのが現実である。

遠ざかる意識の中、白い光が現れ始めた。

目の前がキラキラと光り始めると、私は何かに引きずられるように意識を取り戻す。

ぼやけた視界が鮮明になると、自分が生き残ったことへの喜びよりも、見慣れない光景が広がっていたことへの驚きが勝った。


(ここは……どこ?)


本来、交通事故に巻き込まれた人が居るべき場所は病室のベッドの上であるべきだと思うのだが、そうではなかった。

周りを見渡すと、そこは病院の個室とは思えないほど広々とした部屋だった。

内装もまた、私の知る病院の雰囲気とはかけ離れている。

高い天井には美しいシャンデリア、豪華な装飾が施された家具、そして壁に飾られた絵画。


そう、この部屋はまるでゲームやアニメに出てくる貴族の部屋そのものだ。

私は慌ててベッドから起き上がり、足を踏み出す。

しかし、なぜだか空を踏み抜いてしまい、そのままベッドから転げ落ちてしまった。


「痛っ、どうなっているの」


自分の体を確認すると明らかに以前より体が縮んでおり、髪の毛の長さ、その色までも変わっていることに気づく。

混乱していた思考がさらに悪化していくがその中で私は一つの予測が思い浮かんだ。

私は確信を得るため、鏡の前へと向かう。


「あぁ……私『転生』しちゃったんだ」


鏡の前に立つ少女は、腰ほどまで伸びたロングでシルバーブロンドの髪色、左右でわずかに異なる色の瞳を持っており、幼いながらにすでに整った容姿をしていた。


「でも、この子どこかで……この顔でこの髪色」


私の知る限り、この特徴を持つ人物はそんなに多くないはずだ。


「……ッこの刻印‼」


左手の甲に刻まれている小さな刻印を見つけた瞬間、私は確信を得た。

私の知るこの特徴を持つ女性はこんなにも幼くはなかったけれども、これはどう見ても私が前世で事故直前までプレイしていた育成型戦略恋愛シミュレーションRPG「アリステラと夢幻の魔術学園」のキャラクター、悪役令嬢レイラの持つ特徴に酷似している。


「なんで寄りにもよって悪役令嬢のレイラなんかに転生してしまったの」


悪役令嬢レイラ・ブラックウッド。

彼女はゲーム内では帝国の侯爵家の長女であり、王国の王太子殿下であるレナード・フォン・ノグルティスの婚約者として登場し、主人公である聖女の素質を持つ少女の恋敵として登場。

また、ゲームで発生する数々の事件を背後で暗躍し、数多くの人の魂を刈り取ることで魔人を復活させ、世界を滅ぼそうとしていた悪役令嬢として描かれていた。


「でも、これ以上彼女について知らないのよね」


私が持つこのゲームに関しての知識は、事故に遭うまでプレイしていた所まで。

具体的にはレイラの悪事が白日の下にさらされ断罪された後、おそらく逆恨みから魔人を復活させようとしているシーンまで。

その後に語られるであろう、レイラの過去や背景、そもそもなぜ、事件に裏から暗躍していたのかなどといった情報を私は何も知らないのだ。


「けれど、私がレイラに転生したのだとしたら、悪事に加担しない限り断罪されることはない?」


でも、そうなると聖女と王太子が結ばれずに私が王妃になってしまうのか?


それは困る、ゲームだったから良かったが将来、国の王様を支えていくだなんて一般人だった私には不可能だ。


「そうなると私は、聖女が王子を攻略し邪魔になるタイミングで「婚約破棄」をしてもらいつつ、悪事を企てずに「断罪」される未来の回避を目指せば割と平穏に生きていける?」


だとしたら、しばらくの間はレイラのふりを演じなくてはいけない。

急に性格や言動が変わったとして監禁や追放でもされたら生きていける自信はないからだ。


「でもどうしたら…」


レイラは世界を滅ぼそうとするような行動を起こす人物だったがゲーム内でのセリフ数は多くなく、どう演じたらよいか分からない。


様々な疑問が渦巻くなか、不意にノックの音が鳴り響く。


突然のノックに心臓が高鳴るのを感じながら音の鳴る方へ目線を移す。


誰が来たのか分からず、不安が募るもゆっくりと「どうぞ」と声をかけると、ドアが開き、一人の若いメイドさんが入って来た。


「おはようございます、レイラお嬢様。朝の支度をさせていただきますのでこちらへ」


彼女はそう言うと持ってきていた立ち鏡や衣装を出し、慣れた様子で私の身支度を進めていく。

私は渡された暖かいタオルで顔を拭き、準備されたドレスに袖を通すと、すぐさま着付けてくれる。

着替え終わると今度はドレッサーへ誘導され、髪を整えてもらい、軽めの化粧を施される。

淀みないその動作にプロのメイドとはこういうものかと感心していると、再びメイドさんに声を掛けられる。


「レイラお嬢様、本日のご予定ですが、レイラお嬢様の準備が終わり次第ご当主様と面会がございます」


ご当主ということは、レイラの父親の事だろうか。

ゲーム内では登場しなかったキャラクターなので先の展開が全く読めない。

下手に行動を起こすわけにもいかないので流れに乗るしかないが、ここで一つ不安を払拭する。


「お父様と会う前に一つ聞きたいことがあるのだけど」


「いかがされましたか」


不安というのは、周りからは私がレイラとして違和感を持たれていないかということだ。

ゲームでのレイラは活発な少女ではなかったので、とりあえずおとなしくしているが幼少期から大人しかったとは限らないし、すでに仕草や癖などから違和感を持たれているかもしれない。


「私、変じゃない?」


彼女が素直に答えてくれるか分からないが、メイドさんは一瞬きょとんとした表情からすぐに笑顔になると、鏡越しに視線を下げて答えてくれる。


「えぇ、お嬢様は今日もとてもお綺麗ですよ」


どうやら彼女は私が身なりについて聞いていると勘違いしたようだがその返答から特に違和感を感じている様子は見られなかった。


「それではご当主様の元へ参りましょうか」


メイドさんに導かれ、広い廊下を歩き始めた。レイラ・ブラックウッドとしての新たな人生が、今まさに始まろうとしていた。




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