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悪役令嬢は妖刀と生きる  作者: 高塚 ミヤビ
第一章

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第十二話 前編

山の中を駆けていた。


「っ……は、ぁ……!」


整備された道などどこにもない、完全な獣道だ。

足を置くたびに土が崩れ、木の根が絡まり、枝葉が顔や腕を容赦なく切り裂く。

視界も悪く、木漏れ日がチラチラと差し込むだけで、足元はほとんど見えない。

それでも私は止まらなかった。


なぜこんなことをしているかというと、前回の魔鉱石を変色させる課題で覚えた魔力のコントロールを応用した「身体強化」の練習、そして純粋な体力強化のために、スカイランニングのように山頂を目指して走らされていた。


体内を巡る魔力を意識的にコントロールし、筋肉や骨に流し込むことで、通常ではありえない動きや力を発揮できる。


最初にやったときは——


「うわ、すごい……!」


体力の消耗は激しいが、普段ではありえない跳躍や加速ができることに興奮した。

普段から体を動かしているわけでもないのに、身体強化を繰り返し動き回った。


その結果。


「うぅ……起き、られない……」


翌朝は全身が筋肉痛でベッドから一歩も動けなかった。


その時のことを思い出すと、今でも腹立たしい。


「プ…ハハハハ、やっぱりそうなったか!」


「笑いすぎです、エヴィン先生……いたたた!」


あの人は本当に楽しそうに笑っていた。


(この人、絶対こうなることを知っていながら、わざと説明しなかったわよね……)


そんな少し苦い思い出が頭をよぎると、私は少しだけ歯を食いしばり、歩みを速めた。

そして走り続けると——視界が開けた。


「……はぁっ、はぁ……つい、た……!」


やっとの思いで雑木林を抜け、山頂にある一本杉のそびえる小さな広場に辿り着いたとき、私は膝に手をついて大きく息を吐いた。

汗が目に入り、視界が滲む。


「ようやく着いたか」


声のする方に視線を向けると、あくびをしながら木の根元に腰を下ろしているエヴィン先生の姿があった。


「以前に比べたら…大分早くなったと思うのですけど」


「大差ないだろ」


先生は肩をすくめ、立ち上がりながら軽く首を回した。

相変わらずの厳しい評価だ。


「そもそもなぜ、道無き道で山頂を目指さないといけないんですか?おかげで擦り傷だらけですよ。」


私は自分の腕を見下ろしながら文句をこぼした。


「そっちの方が足腰鍛えられていいだろ、それに切り傷だらけなのは単にお前の実力不足でしかない、俺を見てみろ切り傷なんてどこにもないだろ?」


言われて改めて見ると、確かに先生の肌には一切の傷がない。


「たとえ裸で走っても傷つかねぇ自信あるぞ」


「それはちょっと意味わかんないです」


思わず呆れた声が漏れる。


「まぁ息も整っただろ、雑談は終わりだ」


「……はい」


「武器持て。やるぞ」


その一言で、空気が一変する。

私はエヴィン先生が持ってきた様々な木製の武具から直剣を選び、手に握る。


「ルールは変わらねぇ。利き手と魔術を使わない俺をこの縁から出すか、一撃入れたらクリアだ」


これはスカイランニングが終わり、小休憩ののち始まる近接戦闘の打ち込みだ。


「オレの弟子なら当然、近接戦闘ができなきゃはなしにならない」


そうエヴィン先生に告げられ始まった近接戦闘の訓練。

複数の武器からどれか一つ選ばせ、先ほど説明してくれたルールのもと、私に打ち込みをさせている。


「行きます」


私は地面を蹴り、エヴィン先生と距離を取る。


身体強化をして加速する。

正面からただ突撃しても避けられるか、受け止められて吹き飛ばされるのが目に見えている。

なのでフェイントを入れながら拾った小石などを飛び道具として使い、タイミングをずらす。


だが、エヴィン先生は足運びだけで小石を避ける。


なので今度は地面に向かって木剣を横に薙ぎ払い、土煙を立て視界を悪くし、小石を投げつけながら切りかかる。


「発想自体は悪くないが、まだまだ甘いな」


「っ!?」


エヴィン先生はなにごともなかったかのように片手で私の攻撃を受け止める。


ここからはアドリブだ。

感覚に頼り雑に数合切り結ぶ。


「ほら、いま適当になってたぞ、思考を止めるな」


「っ、く……!」


エヴィン先生は太刀筋から私が乱雑に切り結んでいることを見抜くと容赦なく吹き飛ばされる。


(ここまで実力差が離れている相手から一撃を取るとなると…)


もし私がエヴィン先生に一撃を入れる事が可能になるとしたら、それは不意を衝くしかない。

そのためにはエヴィン先生に私が想定した反撃をしてもらう必要がある。

つまり反撃を誘い出さなければ―――。


私はわざと間合いを見誤ったかのようにエヴィン先生の前で空振る。

明らかな隙を見せ、エヴィン先生に上段からの振り下ろしによる反撃を誘う。


「ふーん…」


エヴィン先生に視線を向けると、その表情はニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。

おそらく、私が何か狙っている事は見抜いているようだったが、あえて誘いに乗って来てくれるようだ。


振り下ろされる一撃。


「くっ……!」


そのまま受け止めたのでは腕力の差から、私の防御の上から確実に切り伏せられてしまう。

なので、剣と剣がぶつかるその瞬間、剣の角度を変え、その一撃を直剣の刃に添わせるように受け流すことで凌ぎ私は反撃に転じようとする。

しかし、インパクトが伝わったから衝撃を受け流したせいでわずかに腕に衝撃が残ってしまう。


「受け方は悪くないが甘いな」


私が怯んでいるのを見て、エヴィン先生は追撃してくる。

その追撃に対応が徐々に間に合わなくなっていく。


私は数合打ち合った後、苦し紛れの薙ぎ払いをして距離を取る。


それらの一連の対応を見て、先生はふと口を開いた。


「なぁ」


「……はい?」


「なんでお前、直剣にこだわってんだ?」


それは唐突な問いだった。

別にこだわっているつもりはなかったが、確かにここ何回かは直剣を選んで使っていた。


「こだわっているつもりは……ただ私の知ってる一番強い人が使っていたのが直剣だったので」


ゲームで登場した武器を使うキャラクターで思い浮かべるのは、やはりメインキャラクターであり主人公と同世代で最強だったレナードだろう。

そんな彼が使っていた武器だったので形から真似てみただけだった。


「そんな褒めんなよ」


「いや先生のことじゃ——」


「でもな、直剣はお前に合ってないぞ」


先生は軽く笑ってそれを遮るように続けた。

ゆっくりと首を傾げながら私の構えを上から下まで眺めた。


「え?」


「お前の戦い方は基本受け身でカウンターを主としているが、直剣みたいに威力を出すために重くなっているものだと、狙ったタイミングで動き出してもうまく決まらないことが多くなる……というか、実際そうだろ?」


私は言葉に詰まった。

確かに先ほどの打ち合いでも、エヴィン先生の振り下ろしを狙ったタイミングで衝撃を受け流せず、カウンターをする瞬間を逃してしまったのを思い出す。


「だから、お前みたいのはどちらかというと、技術を求められるが軽くて切れ味を生かすようなものを使った方がいい。」


エヴィン先生はそう言いながら、木製の武具の中から一本を取り上げた。

細身で、刃の部分がしなやかに湾曲した形状をしている武器だ。

彼はそれを軽く振り、風を切る音を響かせた。


「例えばこれとかな」


エヴィン先生が手に取った武器を見て、私は言葉を失った。


「というか、お前これ以外は一通り試したのに何でこれは試さないんだ?」


「そ、それは」


おそらく刀が一番自分に合うことは触れる前から理解していた。

けれど、この武器の使い手になってしまえば、ゲームのレイラに近づいている気がして嫌だったのだ。


「何事も食わず嫌いは得しねぇ」


先生は軽く笑いながら木刀をこちらに放ってきた。

私は慌ててそれを受け取り、柄を握る。

予想以上に軽く、しかし芯の通ったバランスが手に馴染む気がする。


試しに軽く振り下ろしてみると、直剣の時のような重さや抵抗がなく、風を切る音が鋭く響く。

体の動きに剣がぴったりとついてくるような感覚があった。


「なんだ、やっぱり直剣よりあってるじゃねぇか」


エヴィン先生は腕を組んで満足げに頷いた。

私は木刀をもう一度構え直し、ゆっくりと息を吐く。

確かに、これならさっきよりも戦いやすいかもしれない。


「エヴィン先生、もう一度お願いします」


私はゲームの記憶がよぎるのを振り払い、木刀を振るいエヴィン先生に挑むのだった。

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