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悪役令嬢は妖刀と生きる  作者: 高塚 ミヤビ
第一章

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第十一話 後編

そして、迎えた五日目の夕方。

課題の締め切り日ではないがこの日が私の定めたデッドライン。

エヴィン先生の鼻を明かすため、この日に向けて出来うる努力はしてきた。

魔力ついて知ることから始まり、魔力の視認、魔力のコントロール、それらすべてを全力で取り組んできた。


「いくわよ……今度こそ」


私は意を決して魔鉱石の前に立った。

両手で透明な魔鉱石をそっと囲み、ゆっくりと魔力を放出し始めた。

魔力の粒を丁寧に集め、指向性を与えながら魔鉱石の表面へ導く。

しかし、それだけではまだ色はつかない。


「集中……集中……」


魔力を放出する出力を徐々に上げる。

それに合わせてコントロールする魔力の流れを増やしていき、魔鉱石に魔力の粒を吸収させていく。


「うっ……!」


放出する魔力の出力が限界まで達すると、まるで奔流のように手のひらから魔力の粒が溢れ出る。

指向性を与えた魔力の粒が、無数に渦を巻き、魔鉱石の表面で激しくぶつかり合う。


「はぁ……はぁはぁ」


ここからは私の体力との勝負。

数秒経つごとに疲労感は増していき呼吸もだんだんと浅くなっていく。

今私が出せる全部を出し切るのだ。


「あああっ!」


私は視界もぼやけ息切れも止まらない中、魔鉱石を囲っていた両手を恐る恐る離す。

そこにあった魔鉱石、その色は――黒が混じったような、暗い青に染まっていた。


「や…やった!!」


足がもつれそうになりながらも、私は魔鉱石を両手で掴み、胸に抱きしめた。

全身が汗だくで、息が荒く、視界がまだ少しぼやけている。

それでも、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。


私はふらつく足でビーチチェアでくつろぎながら書類に目を通しているエヴィン先生の前まで行くと誇らしげに染め上げた魔鉱石を見せつけた。


「思ったより早くできたじゃないか」


エヴィン先生はビーチチェアに深く腰掛けたまま、片方の眉を上げて私を見た。

いつものように面倒くさそうな声だったけれど、どこか楽しげな響きが混じっている気がした。


「どうです、私だってこれくらいやればできます!」


私は胸を張って答えた。全身がまだ震えていたけれど、達成感で体が熱かった。

汗で張り付いた前髪を指でかき上げながら、両手で魔鉱石を突き出す。

暗い青に染まった結晶は、陽光を浴びて微かに光っていた。


「そうか、お前の魔術属性は水だったようだな」


「だが若干俺の知っている色とは違うようだが、粗悪品の魔鉱石だからしかたねぇな」


「粗悪品?」


「ん?まぁ細かいことは気にすんな、それより、お前それどうやって染めたんだ?」


先生は上体を少し起こし、目を細めて私の手元を覗き込んだ。

いつものヘラヘラした笑みが消え、珍しく本気で興味を持ったような表情になる。

私はニヤニヤと笑みを浮かべながら、胸を張ったまま説明を始めた。

ようやく先生の鼻を明かせる瞬間だと思ったから、言葉が自然と弾んだ。


「それはですね……放出した魔力をすべて細かくコントロールするのは今の私には無理でした。なので、全力で魔力を放出して、その中で偶然でもコントロールできた分を魔鉱石に叩き込む――そんな力技で染め上げました。」


先生は一瞬、目を丸くした。

すぐにいつもの余裕を取り戻そうとしたけれど、声にわずかな動揺が混じっていた。


「お前、書庫には行ったんだよな?」


「はい、行きましたよ。エヴィン先生の助言と私の求める知識が同じ場所にあったので不本意でしたけど」


私は肩をすくめて答えた。

意地を張って書庫を避けていたことを思い出すと、少しだけ後悔がよぎった。

でも結果が出た今、胸がすっきりしていた。

先生は小さく舌打ちをして、膝の上に置いていた本を手に取った。


「なら、なんで補助具は使わなかったんだ」


「補助具?」


私は首を傾げた。初めて聞く言葉だった。

先生は呆れたように息を吐き、持っていた本を私の目の前に広げて見せた。


「ほらこういうヤツだよ、書庫に行ったんだったら書いてあっただろ?」


ページには、杖や指輪のような小さな道具の図解と、魔力操作を補助する仕組みが細かく記されていた。

私はそのページをじっと見つめ、ゆっくりと首を横に振った。


「いえ、書庫にある魔術関連の書籍は一通り目を通しましたがそんな記述ありませんでしたよ」


先生の表情が一瞬、固まった。

次の瞬間、彼は「あ」と小さく声を漏らし、慌てて本を閉じようとした。

その仕草があまりにも怪しげで、私は思わず目を細めた。


「エヴィン先生、まさかそれ書庫にあった記載されていたって言う、本じゃないですよね」


先生はバツが悪そうな顔で肩をすくめ、ヘラヘラと笑いながら手を振った。


「まぁまぁ、落ち着け、結果的に課題はクリアできたんだからよかったじゃねぇか」


「良くないですよ、その本を読んでたらこんな苦労しなくてすんだんですから」


私は頰を膨らませて抗議した。全身の疲労が一気に噴き出してくるような気がした。

あの全力放出の反動で、足がまだ少しふらついている。

先生はため息を一つ吐き、ビーチチェアの背もたれに深くもたれかかった。


「まぁまぁ、そう言うなって、それは極めればそれはいい意味で個性になる」


「個性?」


私は魔鉱石を胸に抱いたまま、先生の顔をまじまじと見つめた。

先生は軽く肩をすくめ、いつもの気だるい口調で続けた。


「補助具なしでも魔術は行使できるが、規模が大きい魔術は俺でも補助具なしでは厳しい、それがいつかはできるようになる可能性がでてきたってことだ」


私は少し驚いて目を瞬いた。

先生の言葉が意外に真剣に聞こえたからだ。


「でもそれって意味あるんですか、補助具を使えばできることをあえて使わずにいるメリットが釣り合わないと思うのですが」


先生はニヤリと笑って、指を一本立てた。


「そうでもないぞ、補助具がなければ実力が発揮できないというのはデメリットでしかないからな」


彼はさらに指を二本立て、ゆっくりと説明を続けた。


「それに、長期的に見れば補助具を使っている奴らより魔力を制御する精度は間違いなく上になるだろ」


私は黙って頷いた。

確かに、今日の力技で感じた魔力の流れは、補助具に頼っていたら絶対に得られなかったものだった気がする。

手のひらに残る熱と、刻印の微かな疼きがその証拠のように思えた。


「そんなにメリットがあるのに何でそれが主流にならないのですか?」


先生は空を見上げ、遠い目をした。


「もともとはそれが主流だったさ、けど手っ取り早く本来の実力以上の魔術を行使できるようになるとわかればみんなそっちに流れたくなるだろ」


私は胸の内で小さく頷いた。

先生の言葉が、妙に説得力を持って響いてきた。

ゲームの知識では知らなかった魔術の裏側を、初めて実感したような気がした。


「まぁ最終的に決めるのはお前だが、俺は限界を感じるまではこのまま補助具なしで行くことをお勧めする」


先生はそう言い終えると、再び本を開いて視線を落とした。


この課題をクリアした今、次に待っているのはもっと本格的な魔術の授業だろう。

私は胸の奥で小さな興奮と、不安が混じり合うのを感じていた。

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