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悪役令嬢は妖刀と生きる  作者: 高塚 ミヤビ
第一章

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第十話

エヴィン先生は私の魔術属性を判別するために、ある課題を設けた。

課題の内容は特殊な加工を施した魔鉱石を変色させるというもの。

しかし、魔鉱石を変色させるためには魔力を吸収させればいいとだけ説明をされ、肝心な魔力を吸収させる方法については教えてはくれなかった。

それなのにもかかわらず、エヴィン先生はさらに追い打ちをかける様に、この課題を一週間以内で終わらせるように要求してきた。


そんなエヴィン先生の理不尽に感じられる課題設定や放任主義な態度に憤り、意地でもこの課題を一週間とかからず自力で終わらせ、あの人生は惰性と言わんばかりのエヴィン先生の鼻を明かして見せると決意した。


「そう決意したはいいものの、どうしたものかしら」


とりあえず、課題を解決するために現状を整理することにした。

まず、この魔鉱石は魔力を吸収する事で、その魔力が一番干渉しやすい属性に対応した色に変色するものだ。

この結晶に魔力を吸収させる方法は……エヴィン先生が実演した時は、ただ持っているだけで一瞬で色が変わった。

でも、私が同じことをしても何も起きない。

この二つの明確な違いは、魔力を結晶に流す方法を知っているか、知らないかの違いだ。


「魔力って何なのかしら」


そもそも、私は魔力について何も知らない。

前世では観測すらされていないものだったし、ゲームでは初めから魔術を使えていたから、深く考えた事もなかった。

なので、魔力が体から自然に溢れ出ているものなのか、何かしらの手順を踏むと放出できるものなのか、それすらもわからない。

あえて魔力について知っている事といえば、お父様が魔力を放出する回路が形成される過程で、体のどこかに刻印が現れると言っていたことぐらいだ。


「私が持つ手掛かりは……この刻印だけか」


目を閉じ、脱力して肌に触れる空気、太陽の温かさを感じながら精神を統一していく。

次の瞬間、目を見開き、刻印の発現した手で魔鉱石にかざすような動作をし力を送り込む。


「……やっぱりだめよね」


前世の創作物でよく見た手法を試してみたのだが、やはり魔鉱石に変化は現れなかった。

手の甲にできた小さな刻印を眺めるも、そちらも当然何の変化もみられなかった。


「まずは魔力について、もっと知らないと……知覚する方法を見つけなきゃ」


まず私は、短期的な目標として魔力を知覚できるようになる事を目標として定めることにした。

このまま理屈を理解しないでがむしゃらにやっていても、いたずらに時間を消費するだけなのは目に見えていた。

なので、短期的な目標をいくつか設定し、少しずつこの課題のクリアに近づいていくことにした。


「だけど今、書庫に行くのはちょっと…」


書庫に行けば魔術について調べることはできるだろうが、今の心情的に素直にエヴィン先生の助言を聞きたくはなかった。

なので、書庫に行かずとも魔力について知る方法はないかと考える。


「そうだ、魔力を持つものに触れてみれば何かわかるかも」


私はまだ魔力を保有するものを見たことも触ったこともないので、実際に触れてみれば理解できるかもしれないと考えた。

例えば、魔石や魔鉱石のような魔力を帯びた物体だ。

ゲームでもドロップした魔石や魔鉱石を換金できるショップに卸して、金策をしていたので流通はしているはずだ。

それに侯爵家なら、そういったものが屋敷のどこかに保管されている可能性は高い。

思いついた私は急いでアトラさんに聞いてみることにした。


「アトラ、この屋敷に魔石とか魔鉱石みたいな、魔力を帯びたものってあるかしら?」


「魔力を帯びたものですか?……そうですね。いくつか心当たりはありますが、それらを許可なく使用するのは難しいかと」


保有している在庫が少ないのか、希少性から使えないのかわからないが、どうやら思っていたより気軽に使えるようなものではなさそうだ。

他の方法を模索するべきか悩んでいると、見かねたアトラさんが使用許可を取りに行ってくれた。

少し経つとアトラさんが小さな木箱を抱えて戻ってきた。


「担当者に確認しましたらこちらの魔石は交換期限が近い物だそうで、自由に使ってよいと許可がもらえましたのでお持ちしました」


「ありがとうアトラ、使わせてもらうわね」


アトラさんから木箱を受け取り、机で蓋を開けると、中には拳ほどの大きさの宝石が一つ収まっていた。

前世にこの大きさの宝石があれば博物館に展示されていてもおかしくないと思うが、その大きさ以外は、普通の宝石のようにしか見えない。


「これを魔鉱石に近づけて…」


この魔石が本当に魔力を帯びているのか確かめるために、課題の魔鉱石を近づけてみることにした。


「やっぱり、魔石なだけあって魔力はあるみたいね」


二つを近づけ、観察していると魔鉱石の一部が緑色に変色しているのに気づいた。


その後も魔石を手に取り観察を続けるも、それ以上の手がかりを掴むことはできなかった。

水に入れて水面を観察したり、味の変化を見たりどれも変化はみられなかった。

けれど、アトラさんはこの魔石は使用期限が近いと言っていたので何かしらの手段で魔石の魔力を引き出していたはずだ。


「何かしらってなに?」


そう言えば、この魔石は元々何に使われていたものなのか聞いていなかったことを思い出した。

魔石の魔力を引き出すことができるものがあるなら、それを見れば手がかりがつかめるはずだ。


「アトラ、この魔石って何に使われていた物なの」


「もともとは、お屋敷内の空気が澱まないように空気を循環させ空気調和をするための魔道具に使用されていたようです」


アトラさんの説明からすると、魔石を動力にするものは魔道具というのだろうか。

要するに換気扇の様な物だろうか。


「その魔道具は見ることはできるかしら」


私の要望に応え、アトラさんは魔道具がある部屋まで案内をしてくれた。

魔道具のある部屋に入ると想像していたよりも遥かに大きい機械?装置?が部屋の大半を占領していた。


「これが魔道具…」


この魔道具は今もなお稼働しているようで、目立つ位置には、私が観察したものと同じおおきさの宝石が嵌め込まれていた。


「これが魔石だとしたら、この部分が魔力を引き出しているの?」


近づいて観察をしたものの、魔石を動力としてどのように魔力を引き出しているのかは、まったく見当がつかなかった。

それは、素人が機械の内部を覗いても仕組みが理解できないのと同じで、魔道具の内部を見ても複雑な回路が組まれていることしか分からなかった。


「やっぱり書庫に向かうしかないのかしら」


今日一日を振り返ってみると、結局のところ私には知識が決定的に足りていない事を実感する。

私は魔石を握った手を頭上に掲げ、まるで降参の意を示すように肩をすくめた。


「はぁ…」


力なく腕を下ろしかけたそのとき——魔石を持っていた手の甲がむずがゆく、少し暖かい感じがする。

違和感の先に目線を向ける。


パキッ


「へ?」


手元から不穏な音がした瞬間、足元からものすごい風が吹き荒れる。

突然の突風が部屋の空気をかき乱し、ドレスの裾を激しくひるがえし、髪の毛を逆立てる。

風は唯一の逃げ道である出入り口の扉を勢いよくこじ開けるほどの勢いだったが、数秒するとピタリと収まった。

部屋には微かな埃が舞い、私の荒い息遣いだけが残されていた。


「お嬢さま、怪我はありませんか?」


立ち尽くしていた私にアトラさんは慌てて私に駆け寄り、私の安否を確認すると外傷はないか確認していく。


「なんともないわ、ただ…」


私は呆然と自分の手を見つめる。

握られていたはずの魔石は粉々に砕け、無数の欠片となって足元に散らばり、そのどれもが先ほどまでの宝石としての輝きは失われていた。

そして、手の甲の刻印が、ほんのりと熱を帯びていてむずがゆいという違和感がまだ消えない。


「いまのが魔術を行使した感覚なの?」


何が原因かはわからない。

何かをコントロールしたつもりもなかったし、何かを意識していた訳でもない。


「アトラごめんなさい、私先に戻るわね」


様々な憶測が私の頭を駆け巡る中、その真偽を確かめるために私は急いで砕けた魔石をかき集めテラスに向かった。

心配してくれているアトラさんには申し訳ないが今はこの未知の感覚への好奇心の方が勝ってしまう。

なにせ、初めて魔力に関する手がかりを手にしようとしているのだから。


「やっぱり、アレは魔石が保有した魔力を消費したことで起きたものと思って間違いなさそうね」


前回、魔石を課題の魔鉱石に近づけた時は少し待つと一部が緑色に変色したが、砕けた魔石の欠片を近づけ、観察していても魔鉱石が変化を見せることはなかった。

偶然なのか何なのかはわからないが、あの現象は魔術で間違いなさそうだ。


「あの時の感覚を再現できれば、魔鉱石も染め上げることができるかもしれない」


その後、何度かあの時の感覚を再現するはできたが、魔鉱石を変色する事はかなわず、その日を終えた。

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