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悪役令嬢は妖刀と生きる  作者: 高塚 ミヤビ
第一章

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第九話 前編

俺の名前はエヴィン・アルサケルス。


帝国の宮廷魔術師として、面倒くさい仕事からは逃げ、頼まれごとからも逃げ、最低限の仕事だけこなして日々を過ごしていた。


そんな俺のことを同僚の奴らに聞けば、十中八九「ろくでなし」だとか「極度の面倒くさがり」と悪口三昧だろう。


だが、俺はそれでいいと思っている。


なぜなら、その方が余計な仕事を割り振られる事が減ったりして、都合のいいことの方が多いからだ。

魔術はどうしても軍事と結びつきが強いが、そういった依頼も最後に来ることが多くなり、俺に依存した組織体制になる事もない。

そもそも宮廷魔術師の奴らは元から優秀な奴らだし、団長が頭を張っている内は俺は心置きなく怠け者を続けることができる。

だが、たまにこうやって面倒な呼び出しがかかる。


「宰相閣下から至急、執務室に来るようにとのことです」


いつもの様に城内の見回りという名のお散歩をしながら、次に作る魔道具を考えていると、遠くから見慣れた衛兵が慌てた様子で近づいてきた。

相当探し回ったのか、額に汗を浮かべ息を切らしながらそう告げる。

毎度こうやって使いっぱしりにされて、かわいそうな奴だ。


「あぁ、いつもご苦労さん、気が向いたら行く」


俺は面倒くさがるような態度を取りながら、聞き流すようにその場を離れる。

その態度を見て衛兵の彼は困っているようだが安心してほしい、俺の足取りはちゃんと執務室に向かっているのだから。


「生きてっか、爺さん」


俺は執務室に着くと扉を勢いよく開け、第一声でそう告げた。

すると、書類の山に囲まれた机から初老の爺さんが一度だけこちらに視線を向けると、すぐに手元の書類に意識を戻す。


「ノックをしろと毎回言っているだろ」


宰相の爺さんは大きくため息をつき、呆れた顔でそう返す。

俺は肩をすくめ、遠慮なく近くの椅子に腰を下ろすと、テーブルの上に置かれた茶菓子を摘まむ。

過度な甘ったるい香りが鼻をつくが、これはこれで悪くないな。


「まぁいい、さっそく本題に入るがブラックウッド家の娘が王国の王太子と婚約を結んだことは知っているな」


爺さんは書類仕事を中断し、俺の向かいの席に腰を下ろすと、真剣な表情で話を切り出した。


「今、知った」


俺は、わざとらしい口調で答えると爺さんの眉間に皺が寄る。


「馬鹿も休み休み言え。これは国家の運営にもかかわる話だ。まじめに答えろ」


いつもなら俺の冗談を流して話を進めるのに、今日は随分と真剣だ。

どうやら冗談を言っている暇もないらしい。

俺も茶菓子を摘む手を止め、まじめに答えることにした。


「あぁ、当然、知ってるよ。発表された当時はそこそこ王城でも話題になっていたからな」


帝国の名家であるブラックウッド家の一人娘と隣国の王太子の婚約だ。

城内に入れば自然と耳に入るぐらいには噂が立っていた。

しかし、その婚約と俺が呼び出された事に何の関係があるのかは予想が付かずにいた。


「その婚約を巡って一部の貴族から反発が出ている」


「そんなの無視しとけばいいだろ。どうせ王様や爺さんも許可して、両家が納得して結ばれたもんなんだから」


すでに上層部で話し合われ決まった婚約に対してウダウダ言っている奴らに呆れつつ、面倒な政治の渦中に巻き込まれる可能性を感じ取った俺は、適当に言葉を返し、早急に話を終わらせようとする。

そんな俺に爺さんはゆっくりと首を振り、ため息を漏らしながら出した返答は俺の予想だにしないものだった。


「……儂はこの件に関して、一切関わっておらん。これはブラックウッド家と王が独断で進めた婚約だ」


「なんで爺さんが関わってないんだよ。他国の王太子との婚約だろ?どう考えてもお隣の家同士が結ぶような婚約とは意味合いが違うだろ」


それを聞いた俺は思わず声が大きくなってしまうが、それも仕方がないだろう。

王さまの側近として帝国の内政や外交、軍事、財政などの政務を取り仕切っているのがこの爺さんだ。

その爺さんが重大な外交である隣国の王太子と自国の侯爵令嬢との婚約に関わっていないのはいろんな意味で大問題だ。


「そんな事は儂が一番思っている。事前に知っていればこんな事態には陥っとらんわ」


俺に言われるまでもないと言わんばかりに言い放つと、手元の書類を軽く叩いた。


「それに、両国の貴族からだけでなく、第三国からも問い合わせが来くる事態になっている」


「なんでこの話に関係のない国が出てくるんだよ?」


王様たちが独断で進めた婚約だとしても、なんで関係のない第三国から問い合わせが来るのか見当が付かなかった。


「なぜ王国の王太子の婚約者がブラックウッド家の令嬢なのかと言うことなのだろう」


爺さんの返答に納得がいった。

ブラックウッド家と言えば、帝国が建国する前から仕えている帝国でも有数の名家なのだが、その実態は謎が多い事で有名だった。

社交界にはあまり顔を出さず、政治や軍事にも積極的に関わるわけでもなく、家を大きくする事もしないが、帝国の歴代の王からはなぜか信頼されており、侯爵と言う地位を守り続けている。

そんな侯爵家が突然、王国の王太子と婚約したとなれば、確かに何か裏があると考えるのも無理はない。

なので、どういう意図で結んだ婚約なのか説明を求められている状態なのだろう。


「王はこの件に関しては静観するようだが、そんな事をしていればこの反発は大きくなりかねん」


爺さんはこの件に関して全貌を知らないがゆえに、どういう着地をするのかわからないので、早急に解決したいのだろう。


「どうするつもりなんだ?」


そもそも、何度か会ったことがあるが、まじめが服着てるような人であるブラックウッド家のおっさんが何か企むとは考えにくかった。


(だとしたら、王様の独断の可能性が高いが真意は何だ?)


「ちょうど、ブラックウッド家から魔術師の家庭教師を派遣して欲しいと要請が来ている。それにお前を派遣する」


「家庭教師?なんで俺が?もっと適任な奴がいるだろ」


爺さんの提案に思わず声が跳ね上がる。

宮廷魔術師の中には俺より教えるのが向いている魔術師がゴロゴロいるのに、わざわざ自分を選ぶ理由がわからない。

しかも、様々な責任を負うことになるのが面倒で弟子を取るのを拒んでいた身からすれば、家庭教師とはいえ引き受けたくはなかった。

俺の頭には、面倒な仕事から逃れるための言い訳が次々と浮かんだが、宰相はそんな彼の動揺を意に介さず、淡々と続けた。


「お前の国内での評判は置いといて、その実績は国外にも広く名前が知られている。そんなお前が調査した結果、何の問題が見つからなければ国外の奴らは口を閉ざすことしかできぬだろう」


「そうは言うがそもそも俺は人に―――」


「なんだ他に良い案があるのか?」


俺の言葉を遮るようにそう告げる爺さん。

確かに、代案なんてものは持ち合わせていない。


「いや、ないが」


俺の言葉に、宰相は満足げに頷くと、机の上の書類をまとめ始めた。

その動作は、話が終わったことを明確に示していた。


「だったら話は進めておくから、さっさと準備してブラックウッド家に向かえ。話は以上だ」

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