こうやって、大隈特製のカレーは完成した!
【みどり】は、何故か【大隈】に指名され、カレーの野菜を切る事となった。
腑に落ちないでいる【みどり】に、【ハイカラさん】の扇子の風が吹きつける。
すると、【大隈】が、とんでもないことを言い出してしまう。
【みどり】は無事に、野菜を切り、【大隈】は、カレーを作る事が出来るのであろうか……。
私は今、今日の夕飯となるカレーの野菜を一人で切っている。
理由は、私の右隣にいる大隈が私なんかを選んだせいだ。
その大隈は無言で私が野菜を切っているのを見ている。
はっきり言って、やり難い……。
そんな私の後ろから安心出来る声が私だけに聞えた。
「みどりさんは本当に器用ですね」
この声の主は、ハイカラさん。
私の守護霊である。
ハイカラさんは、黒髪で、日本人形のような顔をした、年齢不詳の女性の幽霊だ。
「ハイカラさんに褒めてもらうと、嬉しいな!」
「ほほほ。私は本当の事を申したまでですよ。
それにしても……、色々と面倒な事を押し付けられましたね」
このように、私とハイカラさんは心で会話も出来る。
「まあね。でも、何で大隈君は私なんかに頼んだのかな?」
「知りたいですか?」
「えっ⁉ ハイカラさん、知ってるの?」
「ほほほ。当然です!」
「じゃあ、教えてよ!」
「みどりさんの頼みとあらば、お任せあれ!」
そして、私は風を感じた。
見なくても、分かる。
ハイカラさんは例の扇子を扇いだんだ。
ハイカラさんはあの扇子で色んな奇跡を起こせる。
きっと、今回もそう。
だから、私はその奇跡を待った。
だけど、今回ハイカラさんが起こした奇跡はとんでもない奇跡だった。
「ねえ、小松さん。さっき宮本さんと、キスしたの?」
さっきまで無言だった大隈が、いきなり変な事を言い出した。
変な事を言われたせいで私は思わず包丁を落としてしまった。
「ななな、な⁉ 何言ってるの? そんな訳、ないでしょ‼」
そんな事はしてないけど私は顔を含め、体全体が熱くなってしまった。
そんな私を見て大隈は、はははと笑い、私が落とした包丁を拾ってくれた。
「だよな! お前等がいくら仲が良いからって言ってもそれはないわな!」
「変な事を言わないでよ‼」
「ごめんごめん! 悪かった!」
「でも、どうしていきなり変な事を言うの?」
「ああ、それはな……」
大隈は苦笑いをしながらある事を教えてくれた。
それは、私達が知りたかった事でもあった。
大隈が何故そんな事を言ったのかと言うと、やはり八木のせいである。
八木は私達がソフトクリームを食べている間に、私達がそうしたのだと言いふらしていたらしい。
八木の性格上、それを最初から信じる生徒は少なかった。
だけど、そこに何故か佐藤まで加わっていたので、
八木の言う事を信じてしまった生徒が多くなってしまった。
「何で佐藤さんがそんな事を言ったのかな?」
「言わされたんだろ? 八木らしい性格の悪さだ!」
「大隈君……。そんな事言ってもいいの?」
「別に? 俺、あいつ嫌いだし」
意外だった。
大隈が、そんな事を言うなんて。
まさか、ハイカラさんの不思議な扇子の力で大隈が嘘をつかされているのでは⁉
私が疑っていると、優しい風を感じた。
「彼の言葉に、全て、嘘、偽りはありませんよ」
「ハイカラさん⁉ じゃあ、何をしたの?」
「ほほほ。私がした事と言えば唯、あの殿方の背を押しただけです」
「どういう意味?」
私が軽く振り返ると、そこには穏やかな顔をしたハイカラさんがいた。
そして、ある事を教えてくれた。
「あの殿方はメェメェの偽りの確証がほしかったようです。それが証拠に、みどりさんを選んだ。
ですから、私はあの殿方の背を軽く押し、協力したまでです。
ですが、ここまで打ち明けるとは思いませんでした……」
私は、分かってる。
ハイカラさんの言葉にも、嘘、偽りはないって事を。
ハイカラさんのおかげで私の疑問は、大隈の八木への気持のオマケつきでなくなった。
それから私は残りの野菜を切る事を始めた。
だけど、ここからは大隈が急にフレンドリーに話し掛けてきて、やりやすかった。
少しうるさいくらいだったけど、大隈の希望通り、私は全ての野菜を切る事が出来た。
そして、私は包丁を置いた。
「大隈君、こんなもので良い?」
「完璧だよ、小松さん。これで西園寺達に文句を言われなくてすむよ! ありがとう!」
「それは、良かった」
「じゃあ、色々注文して悪いんだけど、あっちにその野菜を運んでもらえるか?」
「分かった」
「遅せえぞ、大隈‼」
私が切った野菜を運ぼうとすると、西園寺が現れた。
しかも、不機嫌で。
「悪い悪い、西園寺。俺がやったらもう少し早かったんだが……」
「小松なんかに頼むな‼ どう見ても、トロイだろうが‼」
「そっかぁ? そんなに遅くなかったかと……」
「いいから早くしろよ‼」
「何怒ってんだよ……」
そして私が運ぼうとした野菜は西園寺によって全て運ばれていった。
首を傾げている大隈はその西園寺の後に付いて行った。
「西園寺君、何か機嫌が悪いね」
「ですね」
「何かあったのかな?」
「知りたいですか?」
そう言って、ハイカラさんは例の扇子を取り出した。
少しその理由を知りたかったけど、また、さっきみたいになっても、困る。
なので、
「いえ、結構です……」
と、私は断り、西園寺達の所へハイカラさんと向かった。
そこに着くと、真っ先に美雪が私に話し掛けてくれた。
「みどりちゃん、お疲れ様!」
「ありがとう、美雪ちゃん!」
「すぅんごく、綺麗に切ってたね! さすが、みどりちゃん!」
「そ、そんな事ないよ」
「あるの‼ でも、その手柄を大隈達が横取りするんだから……。本当、最悪なんですけど?」
「まあまあ。後は、大隈君が料理してくれるんだし……」
「これで美味しくなかったら、許さないんですけど‼ 絶対、先生に言い付けるんだから‼」
美雪は色々な事に怒っていたけど、そこが上手くいけば機嫌が直りそうだった。
私はそうなってほしかったので、大隈のカレーが上手く出来るように祈った。
すると、野菜に火が通った良い香りが漂ってきた。
「ほら、美雪ちゃん。美味しそうな匂いだよ!」
「これぐらいで許せないもんね‼」
美雪は大隈のカレーに期待していなかった。
だけど、この後それは少しずつ変わる事となる。
その第一歩は、野菜を炒めていく内に野菜の香りを引き立てるスパイスの香りも紛れてきた事だ。
「これ、野菜だけの香りじゃないね!」
「そう言えば、大隈君。何か色々と調味料を持ってきたとか、言ってた」
「うーーん……。お腹、空いてきたじゃん……」
そして、第二歩目。
その香りに肉の香りが加わってきた。
「美雪ちゃん、これ、鶏肉だね!」
「本当だ! 家は牛肉だし、珍しい!」
後で大隈に聞いた話だが、やはりこういったキャンプ場の火力では中々火は通らないらしい。
なので、、この鶏肉を使うのもかなり拘りがあってこその事みたいだ。
そんな大隈のカレー作りは西園寺と伊藤がいるせいもあり、見る事は叶わなかった。
どういう風に作ったのか、香りと音以外全く分からないまま大隈の特製カレーは完成した。
そして平井により大隈特製のカレーは盛り付けられた。
それから、
「おっし! まあまあだが、みんな、食ってくれ!」
と、大隈の言葉で皆で大隈特製のカレーを食べる事となった。
大隈特製のカレーは、少し辛かった。
まあ、私のカレーの中には鷹の爪が入っていたせいもあるけど……。
それでも今まで食べたカレーの中で、ずば抜けて美味しかった。
それは、美雪も同じだったみたいで、
「こんなに美味しいんなら、許してやるか!」
と、機嫌は直ったようだった。
そして、皆、大隈特製のカレーを満喫し、完食した。
それから片付けを始めようとした時、私は、大隈と話した。
「大隈君、とっても、美味しかったよ!」
「それは、どうも! だけど、小松さんのおかげだぜ!」
「えっ⁉ 私?」
「ああ。小松さんが上手く野菜を切ってくれなかったら、ここまで美味しくならなかったさ!」
「そんな、大そうな事じゃないんだけど……」
「いやいや。本当、助かったぜ! ありがとな!」
「それは、どうも!」
「それ、俺の真似か?」
「ふふっ、かも!」
今まで話した事はなかったけど、平井も、大隈も話してみるととても楽しい。
私はこのキャンプに来て良かったと思えた。
だけど、その私を気に入らない人が私達の間に入ってきた。
俺は、大隈 誠司。
忘れないように、フルネーム、言っとくぜ?
そうそう、小松さん。
本当に助かったぜ!
今度は、俺が全てやるから、その時は食ってくれよ!
い、痛っ⁉
西園寺、何で叩くんだよ?
そんなに急がなくったって、あれは大丈夫だろうが!
悪い、小松さん。
西園寺がうるさいから、俺、行くな!




