始まってしまった中学三年生の体育祭
【みどり】は、無事に中学三年生の体育祭に参加した。
そして、準備体操等を終え、体育祭は進み、男女混合リレーが始まった。
【みどり】は無事に、男女混合リレーの女子のアンカーを走り切り、
【西園寺】にバトンを渡す事が出来るのであろうか……。
普段ならあと一時間が味わえたはずの日曜日。
今日の私はそれを味わう事なく中学校にいる。
そう、今日は体育祭だからだ。
私は、中学三年生になってから初めてこの中学の体育祭に参加している。
皆で整列して行進し、体育祭の為に造られたアーチを通り運動場を一周して、
定められた場所で校長先生等の話を聞き終わると準備体操が始まるようだった。
そして、準備体操の模範となる男子生徒が朝礼台に上ったその時、
その男子の横に、もう一人女性が並んだ。
「まあ、このような所で、何をなさるのです⁉」
「ハイカラさん⁉」
朝礼大の上でその男子に声を掛けた、黒髪で、日本人形のような顔をした、
年齢不詳の女性の幽霊は、ハイカラさんだ。
でも、ハイカラさんは私にしか見えない私の守護霊である。
なので、その男子生徒も運動場にいる他の生徒も何事もなく、準備体操を始めた。
「ハイカラさん‼ 気になるから、そこから下りて‼」
「これは、失礼いたしました!」
このようにハイカラさんの声も、私にしか聞こえない。
普通に話し掛けてもハイカラさんには聞こえるけれど、
私が心で話し掛けてもハイカラさんには聞こえる。
だから、人前でハイカラさんと話す時は、私は心で話すようにしている。
「しかし、運動場とは便利な場所が出来たのですね」
「えっ⁉ ハイカラさんの時代に運動場はなかったの?」
「いえ。ありましたが、このように整ったものではなかったのです」
「へえ、そうなんだ」
ハイカラさん曰く、ハイカラさんの体育祭の思い出は小学校の運動会みたいで、
大きな小学校では運動場はあったが、そんなに大きくない学校では運動場はなかった。
だから、特に小学校ではいくつかの学校が集まって運動会を行っていたらしい。
しかも、観衆の数が多く、お祭り騒ぎだったとか。
そして、競技自体は、今とあまり変わらない競技だったらしい。
「ですから、この観衆の少なさは物寂しい気がいたしますね」
「中学にもなるとこんなもんだよ!」
そういう会話をしているといつの間にか準備体操は終わり、待機するテントへ行くようだった。
なので、私は美雪とハイカラさんとでそのテントへ向かった。
それから体育祭は本格的に始まった。
何所の学校も同じかもしれないが、私の中学校ではクラスでチームとなり、順位を争う。
だから、同じクラスの生徒以外にも下級生の同じCクラスの生徒を応援し、活躍すると、喜べた。
そして、いよいよ、三年生による男女混合リレーが始まろうとした。
美雪によると、三年生の男女混合リレーは午前の部の花型競技らしい。
その教義の女子のアンカーを任されていると感じると、私は足がふるえてきた。
「どうなされました?」
「ハイカラさん。何か緊張してきて、足が上手く動かないんだ……」
「ほう。武者震いですね!」
「そんな感じかな……。どうしよう、みんなに迷惑が掛かっちゃう……」
「大丈夫ですよ。みどりさんなら、立派に役目を果たすでしょう。この私が保証いたします」
ハイカラさんは、いつもそうだ。
私に勇気をくれる。
だけど、今日の私はそれだけでは上手くいきそうにはなかった。
だから、私はハイカラさんに少し甘えてしまった。
「ハイカラさん、お願いがあるの」
「分かっております。共に参りましょう!」
ハイカラさんは、分かっていた。
私の気持ちを。
だから、私の手を引いて会場入りしてくれ、私の走る順が来るまで手を繋ぎ一緒にいてくれた。
そうしてくれたから、私の足のふるえはなくなった。
「ハイカラさん、ありがとう」
「いえ。私は、みどりさんの守護霊ですから!」
「そうだったね。ハイカラさん、私、がんばってくる! だから、ここで見守っててね!」
「承知しました!」
そして、私はハイカラさんの手から離れ、レーンに入りバトンを待った。
すると、いつもとは違う緊張感が訪れた。
決して、嫌ではない。
寧ろ、わくわくする緊張感で私は一位でバトンを受け取った。
見てて、ハイカラさん。
このバトンは、このままの順位で西園寺君に渡すから!
そう強く思い、私は大歓声の中、全力で走った。
私のクラスは、まだ一位だ。
雰囲気で分かる。
このまま一位で西園寺にバトンを渡せば、確実に私達のクラスは男女混合リレーで一位を取れる!
そう確信すると、カーブを曲がり切り、西園寺が見えてきた。
「小松‼ そのまま走り切れ‼」
そして、西園寺の声が大歓声の中そう聞え、
私は西園寺の指示通りに走りバトンを西園寺に渡す事が出来た。
それから西園寺は振り返る事なく、そのまま速度を上げた。
バトンを渡すと今まで分からなかったけれど、私は息が上がっていた。
それを整えながらレーンから出ようとしたその時、
私は左側から衝撃を受け、そのまま吹き飛ばされた。
「みどりさん⁉」
「みどりちゃん‼」
ハイカラさんと美雪の叫び声。
それに他の生徒のどよめきが聞えた。
でも、それ以外に、
「このブス‼ ズルしてまでお前のクラスを一位にさせてえのか‼」
と、男子生徒の怒鳴り声が聞えた。
それは、Aクラスの男子、麻生 亮太【あそう りょうた】の声だった。
麻生はAクラスのアンカーである。
何故、麻生が私を罵倒しているのか分からないまま男女混合リレーは終了し、
私は保健室へと運ばれて行った。
そして、私は休憩時間の間、保健室で保健室の先生から治療を受け、
その私の傍では美雪が鳴きそうな顔で見守ってくれていた。
「みどりちゃん、大丈夫? 痛いよね?」
「平気だよ。美雪ちゃん」
「平気な訳ないよ‼ 何なの、麻生の馬鹿‼ 自分からぶつかってきておいて‼」
「そうなの?」
「そうだよ‼ 私、見てたもん‼
麻生は少しでも走る距離を短くする為に内側を走ろうとしてたんだ‼
そうやってズルをしようとして、みどりちゃんを突き飛ばしたんだよ‼」
「そうだったんだ……」
「そうだったんだって‼
もぉーうっ‼ か弱い女子に怪我をさせておいて、麻生の馬鹿は謝りにも来ないんだね‼
サイテーな奴‼」
美雪は一人で怒り続けていた。
その気持ちが嬉しくて、ほんの少しだけど怪我の痛みは薄れていった。
それから美雪と残り少なくなってしまったお昼時間を過ごす為、運動場へと戻った。
すると、そこでは意外な事が起きていた。
「何だろう。義猿が、西園寺を注意してるみたい」
「そうだね」
「でも、西園寺は聞いてないみたい」
「うん」
義猿とは、美雪が付けた石川のあだ名である。
私と美雪が運動場に戻ると、その隅ではあったが石川が西園寺を叱っていた。
その様子を見ていると、ハイカラさんがその理由を教えてきた。
「あの箸を返さない殿方は、みどりさんが治療中、あの卑劣な男子と喧嘩をなさったのです」
「どうして?」
「それは、みどりさんに対しての非礼な行動の数々を許せなかったからでしょう」
「えっ⁉ そ、そんな事で、喧嘩したの?」
「そんな事ではありませんよ‼
あの箸を返さない殿方が怒らなければ、私があの卑劣な男子に仕返しをやっていたのですから‼」
「ハイカラさんまで……」
ハイカラさん曰く、西園寺は麻生がゴールしてから皆が待機するテントに戻るや否や、
麻生を怒鳴り散らしたらしい。
悪いのは、私じゃなく、麻生だと。
そして、私に謝るように言ってくれたらしい。
そこで西園寺は麻生の胸倉を掴んでしまい、それを先生達に止められ、今に至ったという事だ。
その後、麻生が私に謝りにくる事はなかった。
けれど、そんな事をしてもらわなくとも私の心は晴れていた。
だから、母が作ってくれたお弁当を美雪と急いで食べても美味しかった。
そして、私は残りの体育祭に参加する事が出来、中学三年生の体育祭を無事に終了する事が出来た。
私は、小松 みどり。
ハイカラさん、見てた?
私、がんばったでしょ?
えっ⁉
麻生君が謝らないからって、その扇子を出さないでーーー!
そ、それに、そんな事でも、扇子を使おうなんて、思わないでぇーー‼




