皇子を配下に加えました
「いや、違う。俺は本当に何も知らなかったんだ」
セドリックが必死に否定した。
「そんな事が信じられるか!」
私は叫んでいた。
「すまん。状況的に誤解されても仕方の無い状況だったのは認める。というか、結果的にユキ姫様をお止めしたのは事実だ。申し訳なかった」
セドリックは今度は素直に土下座してくれた。
なんだこれは?
私に叩き斬れと言っているのか?
しかし、いくら私でも土下座している人間を斬れない。
周りは私が剣を抜かないか必死に見ているし、ドラちゃんなんて私の所にトテトテ歩いてきて私の剣の柄を押さえてくれたんだけど……
私はそこまで鬼畜ではない。
「そのお詫びに帝国の最新情報を伝えよう」
「はああああ? 敵にそんなことしていいのか?」
私は思わず叫んでいた。
「良いんだ。俺は大魔導師に言われた。ユキを好きになったら帝国を捨てる覚悟でないといけないと」
「えっ?」
私はセドリックの言葉に一瞬固まった。
私を好きになったらってどういう事だ?
好きって友人としての好きか?
「帝国軍はエドを捨て置いて全軍こちらに向かっている」
でも、私の疑問は次の瞬間セドリックの言葉でそれどころではなくなった。
「何だと、それは本当か?」
私は思わずセドリックを見つめた。
「事実だ。ボドインはユキ姫さえいなくなれば王国軍は離散すると読んでいる」
「確かに姫様がいなくなれば王国軍は旗印を無くしますが」
サツマが我が軍の弱点を指摘してくれた。
「それと帝国軍は本土から竜使いと三体の竜を呼び寄せた」
「三体の竜だとそんな情報は上っていないぞ」
ヒロトは目を見張ってセドリックを見た。
「転移陣を使ったからな」
「あの大魔導師が俺達を王宮に送ってくれたあれか」
ヒロトの問いにセドリックが頷いた。
「この竜ちゃんが三匹か」
私は少し呆れた顔をしていたに違いない。
「こんなに小さな竜ではないぞ」
「ピー!」
竜ちゃんが剥れた。
「いや、竜ちゃんは今は小さくなっているだけだ」
私は竜ちゃんのために言い訳してやった。
「しかし、帝国の竜は古代竜と呼ばれるとてつもない巨体だ。普通の竜の倍はあるぞ」
「竜ちゃんも古の伝説の竜だ。引けはとらないだろう」
私はそうは話したが……竜ちゃんクラスが三匹か! そう思うだけでうんざりした。
一ぴきは私が、残りの1匹は竜ちゃんがやってくれるだろう。
でも、残りの一匹はどうするか?
ソウヘイかアラレか最強の武士はサツマだが……
「更に帝国は東部方面軍四天王を呼び寄せた。今は三人しかいないが」
魔導師の三人か?
一人はアオイにボコボコにされたが、あんな馬鹿ばかりではあるまい。
三人のうちの一人はアオイを当てれば良いが、強力な魔導師はもういない。
とするとあと2人にアラレ、ソウヘイ、サツマ……か、数が足りない。
「更に帝国軍は五万だぞ」
セドリックの声に私は唖然とした。
こちらは良くて2万だ。
いくらサツマの兵が強くても千だ。
どうしても数が足りない。
「そこでユキ殿、俺から頼みがある」
セドリックは私を見上げてきた。その視線に曇りはなかった。昔のセドリックの視線だ。
いやいやいやいや!
騙されてはいけない。こいつはこの瞳で嘘をつくのだ。
「何だ? 聞くだけは聞いてやろう」
私はセドリックの瞳を睨み返した。二度と騙されてはたまるものか!
「私を是非とも先鋒として使ってほしい」
セドリックが視線を反らさずに私に頼んできた。
「な、何だと」
「帝国の皇子がこちらに寝返るだと」
「信じられん」
周囲がざわめいた。
「何を言う。貴様は帝国の第六皇子であろう。そのような者が何を寝言をもうしておる!」
私はセドリックを睨み付けた。
「私はユキ殿に惚れてしまったのだ。好きな女の味方をするのに、帝国も王国も無かろう」
平然とセドリックが言い出したが、
「姫様、これは何かの陰謀でございましょう。帝国の皇子など信じられませんぞ」
サツマが疑い深そうに言い出した。
「左様。本当に寝返るつもりなら、敵の総大将の首を取って来るのが妥当と言うもの」
サツマがとんでもないことを言い出してくれた。敵の大将の首を取ってくれば勝ったも同然であった。
「サツマ殿。それはさすがに難しかろう」
ソウヘイがセドリックを庇った。
「しかし、皇子が寝返るとなれば全軍で寝返るか、敵の首を取ってくるか、それくらいしか価値が無かろう」
サツマは不敵な笑みを浮かべてくれた。
「そうか、身一つの働きで証明しようとしたがそれでは不適か」
そう言うとセドリックが立ち上がった。
「な、何をする?」
サツマがあわてて、剣の柄に手をかけた。
「知れたことよ。ボドインの首を取りに戻るまで」
その言葉に皆唖然としていた。
「待て、セドリック」
私は立ち去ろうとするセドリックを引き留めた。
「何ですか。ユキ殿。それでも参戦を許して頂けませんか?」
残念そうに言い出した。
「ボドインの首は私が取る」
そう私は宣言したのだ。この前のナニワの時はアラレとアオイに先を越された。今度は私自身が手を下すと決めていた。
「貴様の心意気は判った。貴様の参戦は認めよう」
「本当でございますか?」
嬉々としてセドリックが歩みよってこようとした。
「それ以上姫様に近づくな」
サツマらが剣を抜いて止める。
「姫様、宜しいのですか?」
「どのみち戦力敵に不利なのは代わりあるまい。セドリックが裏切ったらそれまでのこと。その時は今度こそ私がセドリックを斬る」
私は皆に宣言していた。
「有り難き幸せ。このセドリックの命、一生涯ユキ姫様に捧げまする」
そう言うとセドリックは私の前に跪いてくれた。
「その方の忠義受け取ろう」
私は頷いたのだった。








