2.総督の息子の命令で騎士達が私達を拘束しようと向かってきました
「そこのアデラールとやら、貴様、公衆の面前で武士である姫様を侮辱したな」
サツマはアデラールを片目でにらみつつ、私の方を見るという器用なことをやってくれた。
こいつはこのまま斬れと私に合図しているのよ。
帝国の総督の息子を!
確かにこいつは武士を公の場で侮辱するというとんでもないことをやってくれた。
普通ならば無礼打ちにしても良いはずだ。
公衆の面前で武士に恥をかかせるとは、斬られても文句は言えなかった。
例え帝国の法がそれを認めずともヤマトの法が、慣習がそれを認めている。
我が国の法ではそうなっていた。
しかし、相手は帝国の総督の息子だ。
私が手を出した途端に帝国との戦線は開かれる。
そんな危険なことは出来なかった。
私が無視しようと心に決めた時だ。
「姉様!」
私の脳裏に私に甘えるシンノジョウの姿が浮かんだ。
シンノジョウはまだ10才のはずだった。
それをこいつらは処刑した。
父は戦った末に殺され、母は将軍の慰み物にされる前に自害したと聞いていた。
私がヤマトにいれば、そのような横暴を許さなかっただろう。
私は修行と称して冒険の旅に出ていた。
故国が危機という事も知らずに帝国の皇子らと冒険を楽しんでいたのだ。
本当に馬鹿だった。
あのヘボ皇子、帝国が我が国を虎視眈々と狙っていることなどおくびにも出さずに、私に接してきたのだ。そこそこ剣も使えて、気さくな性格に私は気を許していたのだと思う。
帝国の野心に全く気づかなかった私を、さも心のそこから馬鹿にしていただろう。
今度会った時は必ず叩き斬ってやる!
私は心に決めていた。
私は帰ってきた時に、家族のことを叔父から聞いて、呆然自失した。
ショックのあまり、一瞬頭の中が真っ白になった。
そして、何故か、その時に前世の記憶が一気に甦ったのだ。あまりの量の情報が一気に甦って、私は気を失っていた。
前世、私はゲームお宅だった。
学校にもいかずに引きこもって、ひたすらゲームをしていた。小さい頃から、ユーチューブやSNSを見て育ったからか、外で遊ぶよりも一人でゲームをするのが好きだった。
共働きの両親は私にスマホさえ与えておけば静かにしているので、私はいつの間にかスマホゲームに嵌まっていた。
両親に課金がばれてしかられてからは、それがゲーム機のゲームになった。
私はその中でも乙女ゲームに嵌まってしまった。
その中でも私が嵌まったのが、この『春風の聖女』だった。ヒロインはバルバラ、そう、このいけ好かない従姉妹だ。ピンクの髪がサクラの花と同じ色だから春風の聖女……なんとも単純な命名方法だ。
ゲームではもっと良い性格だったのだが、現実はここまで酷いとは思わなかった。
そして、ゲームの中の悪役令嬢はこの私だった。
ゲームでも帝国の大使だったボドイン侯爵の息子のアデラールと婚約していた私だったが、学園でアデラールとバルバラが仲良くしているのに嫉妬して、そのバルバラを苛めまくるのだ。筆舌に尽くせないほどの酷いいじめだった。引っ叩くとかは当たり前、物をとって隠すとかは穏健な方で、それを燃やしたり、はかいしたり、取り巻きとかを使って吊し上げるとかやりたい放題していたのよ。
それを庇うアデラールに対しても、暴力を振るうこともあったわ。
それを見て、私は悪役令嬢ユキをどれだけ酷いと思ったことか。
でもそんなユキも学園の卒業パーティーで、アデラールに婚約破棄されるのよ。今までの悪行を全て証拠として取り上げられて、断罪されたわ。
ユキに甘かったお父様もお母様も帝国からの特使がいたから何も出来なかったのよ。
特使は第六皇子のセドリックだった。
そう、私を辺境の地に足止めして、帝国の侵攻を助けた張本人だ。
セドリックの命令でユキは修道院送りになるのよ。
修道院送りなんてことで許すなよ!
処刑しろよ!
私は叫んでいた。
そして、ゲームもそれで終わらなかった。
帝国に指嗾された民衆が反乱を起こしたのよ。
大挙した民衆が王宮を襲って私を庇おうとしたお父様もお母様もそしてまだ小さいシンノジョウをも殺してくれた。
私は修道院から引き出されて処刑されてしまうのよ。
今まで国民を搾取して、餓えさせていたと。
その後ヤマト王国は帝国のボドイン侯爵が王になって治めてシャンシャンになっていたのよ。
今世では反乱は無く、叔父の裏切りによって帝国に占領されたのだが……
私は叔父の命令でそのアデラールと婚約させられていた。
娘のバルバラと婚約させれば良いのでは?
私はそう主張したのよ。
「そうよ、お父様。アデラール様もそれを望んでいらっしゃるわ」
バルバラもそう頷いてくれた。
「しかし、ボドイン侯爵様がな……」
叔父が言うにはボドイン侯爵がどうしても王族の直系の私を息子の嫁にしたかったらしい。私は仕方無しにアデラールの婚約者になっていたのだ。
しかし、ここでもゲーム通りに婚約破棄されてしまった。しかし、私は一切バルバラを苛めていないのに。寧ろ私の方が苛められていたくらいだ。私のものを隠すのは当たり前、集団で取り囲んで私を詰るのは日常茶飯事、一々反論するのも面倒くさいから、言わせるだけ言わせていたのだが、それが良くなかったのか?
「アデラール様、私はバルバラを苛めたことなどございませんが」
私は冷たい声で反論してやった。
「嘘をつくな」
「そうですわ。私はユキさまに何回頬をひっぱたかれたことか」
「そうですわ。私も確かにバルバラ様がユキ様に引っ叩かれるのを見ました」
アデラールにバルバラ、それとサイタマまでがありもしないことを証言してくれた。
「ほおおお、そこの小娘、姫様がそこのバルバラの頬を張り倒したと言うのか?」
出てこなくて良いのにサツマが出てきてくれた。
「はい確かに見ました」
頷かなくて良いのにサイタマは頷いてくれた。
「貴様、嘘はいかんな」
サツマが笑ってくれた。
こいつは帝国とやる気満々なのよ。
それも私を焚き付けて、抜けられぬようにして、帝国と開戦させようとしている……
私はため息をつきたかった。
「何が嘘なのよ!」
「そうですわ。私はユキさまがバルバラ様の頬を思いっきり張り倒されるのを見ました」
バルバラとサイタマがはっきりと反論してくれた。
「とするとここにおるバルバラは幽霊だと言うのか?」
いやらしい笑みを浮かべてサツマが言い放った。
「はああああ! 私が偽物だと言うの?」
「そうですわ。バルバラ様はご本人ですわ。」
「それは可笑しいな。姫様が本気で張り倒すとドラゴンでも一撃で倒されるのだぞ。人間が張り倒されて、無事でいるわけはないわ。普通は死亡、運が良ければ全治三ヶ月の重傷だ。普通はこのようなところに立っていられるわけはないのだ。
とするとそこに立っているのは偽物か、嘘をついているかのどちらかだ」
刀の束に手を掛けてサツマは言いはなっていた。言い逃れは許さんと睨み付けながら……
「そんな、ユキさまがドラゴンを張り倒されるなんて嘘ですわ」
サイタマが必死に反論してくれた。
「その方潜りか? 姫様が素手でドラゴンを退治されたと言うのはヤマトの民ならその辺りの子供でも知っておるわ」
サツマが大袈裟に発言してくれたんだけど……
「サツマ、それは誇張だ。私は剣で叩き斬っただけだ」
私は仕方なしに反論した。
「それでも、ドラゴンを叩き斬るなど普通の人間には出来ません」
こいつは私を化け物扱いしないと済まないのか!
私は切れそうになった。
「ええい、貴様等煩いわ。いい加減にしろ!」
それまで黙って聞いていたアデラールが私とサツマに叫んでくれた。
「騎士達、直ちにこの2人を拘束しろ」
いつの間にか私達の周りにいた騎士達が私達を拘束しようと群がって来た。
絶体絶命のユキの運命や如何に?
次回お楽しみに








