私を騙した帝国皇子が使者として私の前に現れたので叩き斬ろうとしました
我が軍はナニワ城を制圧、私達はキンキ地方を完全に取り戻していた。
私はヒロトを通して全領主に直ちにキョウへ軍を率いて参集するように命じていた。
まあ地方から参集してくるまでには少し時間もかかるだろう。
それよりも帝国に占拠されたエドを早急にヤマトに取り戻して帝国を追い出す必要があった。
このヤマトの地を異国に租借されるなどあってはいけないことだ。
私は戦闘部門の者達を集めて作戦会議を行っていた。
「トウカイドウとナカセンドウの二つに分かれてエドへ進軍すべきだと思う。その案についてヒロトが考えてくれた」
「はい。トウカイドウには主力としてキンキ一円からの領主の軍を主力としてタンバ伯を司令官にエドに向かって頂きます」
「えっ、私が大将ですか?」
タンバ伯は目を見開いて傍のサツマを見ていた。
「そうだ。不満か?」
私が尋ねると
「いえ、不満と言いますか、軍にはサツマ伯や私よりも戦上手な方が多々いらっしゃいます。何故私なのかと」
「サツマに任せたら超強行軍になって兵の大半は脱落してしまうわ。その点タンバ伯は皆の状況をよく見て脱落者の無いように東下りしてくれるだろう」
私はタンバ伯を見た。
サツマは当然だという風に頷いている。まあ、この口煩い奴は私が引き連れていった方が良いだろう。
烏合の衆の統率はタンバの方が優れているはずだ。
「移動はできる限り早くしてほしいが、1ヶ月の余裕を与える。それだけあれば移動できるだろう」
「各地を制圧しながらでは到底間に合わないと思いますが」
タンバが懸念点を上げてくれた。
「おそらく沿線の国々は逆らいますまい。何しろユキ姫様は戦姫様でいらっしゃいます。それに逆らうということはこのヤマト国の神々に逆らうという事。夷人に従えば神の敵として地獄に落ちるであろうと脅せばイチコロかと」
ヒロトが平然と対策を説明してくれた。
こいつは既に多くの領主達をそのように脅しているはずだ。
「なるほど、判りました。この上は身命をかけましてユキ姫様のご指示に従います」
「うん。よろしく頼むぞ」
私が満足にうなずいた時だ。
「失礼いたします」
そこへ文官が飛び込んできた。
「どうした?」
「はっ、帝国より使者が参った由でございます」
文官は私の前に跪いてくれた。
「帝国から? 何しに来たのだ?」
「さあ、それは御使者様は何も申しておられません」
「ふん、まあ、会議の終わるまで待たしておいても良いではございませんか」
サツマが私に勧めてきた。
それもそうだ。勝手に来た奴が悪い。
待たせても問題ないだろう。
どのみちろくでもないことを言ってきたに違いない。
私がそう思った時だ。
「しかし、使者はユキ様とも親交のある帝国の第六皇子セドリック・トゥール様だと申しておられますが」
「何だと、それは誠か!」
私は剣を掴むと立ち上がった。
「いかん、アオイ、ソウヘイ、姫様を止めろ!」
ヒロトが何か叫んでいたが、私はその時は部屋から駆けだしていた。
おのれ、セドリック、良くもおめおめと私の前に出てこれた。
ここで戦の手始めに血祭りに上げてやるわ!
私は謁見の間に向けて駆けたのだ。
そのまま、謁見の間に駆け込むと、剣を構えて、一気に詰めた。
「ユキ、久しぶり……」
こやつはのほほんとして、私を騙したのが嘘のように爽やかな顔をして私を迎えてくれた。
その顔にはもう騙されん。
私は剣を振りかぶった。
「えっ?」
セドリックは驚いた顔をしていた。
そのセドリックに向けて、私は渾身の力で剣を振り下ろしていた。
しかし、剣はセドリックに掠りもしなかった。
ガシン!
剣は地面にのめり込んだ。
セドリックは間一髪で私の剣を避けて横っ飛びに跳んでくれた。
「おのれ!」
私は地面に食い込んだ剣を抜いた。
「ちょっと、ユキ、どうした?」
「貴様、よくも私を騙したな」
もう一度剣で斬りつけた。
しかし、今回も間一髪でセドリックは躱してくれた。
「いや、待て、騙したって何の事だ?」
「しらばっくれるな!」
私は今度は真横に剣を振り払った。
それをセドリックは飛び上がって躱してくれた。
「おのれ、貴様、良くも騙したくれたな」
「待て、俺はユキを騙したことなど無いぞ」
「しらばっくれるな。帝国の侵攻を知って黙っていただろう」
「いや、それはない。俺は何も知らなかったんだ」
「嘘をつけ! 陰で私の馬鹿さ加減を笑っていたのだろう」
私がもう一度セドリックに斬りかかろうとした時だ。
「ひ、姫様。セドリック殿は御使者です」
私の前にアオイが現れた。
「使者だと、それがどうした? 両親の仇だ。 ここで叩き斬って戦の先駆けとしてやるわ」
「姫様、相手は丸腰です。何卒、しばしお待ちくだされ」
後ろからアラレが私にしがみついてきた。
「ユキ、誤解だ。俺は帝国の侵攻など何も聞いていなかったのだ」
「セドリック、頭に血の上った姫様に何を言っても無駄だ。すぐに帰れ」
横でソウヘイがセドリックに促していた。
「ええい、貴様等退け! シンノジョウは私が帰るのが遅かったばかりに処刑されたのだぞ! 私がその馬鹿に騙されてのほほんとしていたばかりに……」
私の瞳から期せずして涙が流れ出していた。
「姫様! 姫様の責任ではございません。帝国の動向をしっかりツ掴んでいなかった私達側近の責任です。申し訳ありませんでした」
私の目の前でアオイが土下座してきた。
別に私はアオイを責めるつもりなど無かった。
「姫様、申し訳ありません。私達がついていながらシンノジョウ様を守り切れず申し訳ありません」
私の後ろでは私にしがみついてアラレが謝ってきた。
「貴様等は関係無い。私がセドリックに騙されてのほほんとしていたのが全ての間違いだったのだ」
私は唇を噛んでいた。
気付けばセドリックはもはやどこにもいなかった。
何も知らされていなかっただ!
帝国の第六皇子が東部方面軍のヤマト侵攻を知らなかった訳がなかった。
嘘ならもっとましな嘘をつけと私は言いたかった。
私はその場に立ってただ涙が流れるの任せていた。
その時私は自分の感情に左右されるどうしようもない施政者だった。
第六皇子を叩き斬るのに失敗してしまいました
次は進軍です








