境界の子守唄編 37話 同じ歌の渡し場
王都を離れたリシアとシルは、春の街道を進んでいた。
重い出来事を越えたばかりの旅路は、シルの木の実騒動で早くも賑やかになる。
茶色いリスたちに囲まれ、隠していた木の実を返すことになったシルは、少しだけ分け合うことを覚えた。
その後、街道沿いの小さな茶屋で、リシアは人間領と魔族領の境にまつわる噂を聞く。
夜になると、谷の方から子守唄が聞こえる。
それは、人間の母親が昔から歌っていたものと同じ旋律だったという。
歌詞帳には、変わらず一文が淡く光っている。
『境界で、同じ子守唄が泣いている』
境界の子守唄編 37話 谷へ降りる歌
丘を越えた先で、道の空気が変わった。
春の草原はまだ続いている。
花も咲いているし、空には薄い雲がゆっくり流れている。
けれど、リシアの耳には、そこに混ざる心歌の色が少しずつ硬くなっていくのが分かった。
街道を行き交う人の数が減っている。
荷馬車の轍は残っているのに、新しい足跡は少ない。
道端の標識には、何度も書き直されたらしい墨の跡があった。
南へ行けば王都。
西へ行けば穀倉地帯。
そして北西へ折れれば、境谷。
人間領と魔族領の境に近い谷間の土地。
女将が教えてくれた場所だ。
リシアは標識の前で足を止める。
古びた木の板には、境谷の文字だけが少し深く削られていた。
まるで、誰かが何度も刃物でなぞったように。
「ここから先かな」
肩の上のシルに声をかける。
シルは干し豆を一粒抱えたまま、標識を見上げていた。
朝から少しずつ食べているので、女将にもらった豆はもう半分ほどに減っている。
それなのに、本人、いや本リスはまったく危機感を持っていない。
「シル、その豆、今日中になくなるよ」
ちい。
「分かってるって顔じゃないね」
ちい。
「夕方になってから、ないって顔をするんでしょ」
シルは目を逸らす。
ごまかし方が昨日より上手くなっている気がする。
成長の方向が少し間違っている。
リシアは苦笑しながら歩き出した。
境谷へ向かう道は、王都近くの街道に比べるとずっと細い。
両側には低い石垣が続き、その向こうには小麦畑が広がっている。
ただ、畑には人の姿が少ない。
畝は整えられているが、ところどころで作業が止まっていた。
畑の端には、使いかけの鍬が立てかけられている。
干された麻袋が風に揺れ、納屋の扉は半分だけ閉じていた。
暮らしはある。
けれど、その暮らしの上に薄い緊張が降りている。
それは王都の凱旋前のざわめきとは違う。
もっと小さく、もっと長く続いてきた恐れ。
リシアは胸元の歌詞帳にそっと触れた。
『境界で、同じ子守唄が泣いている』
文字は開かなくても、そこにある気配が分かる。
リシアの歩幅に合わせるように、ページの奥で微かな震えが続いていた。
ふと、道の先から鈴の音が聞こえた。
荷馬車だ。
小さな馬が一頭、ゆっくりこちらへ歩いてくる。
荷台には麻袋と木箱が積まれており、その上に布をかぶせた籠がいくつも並んでいた。
御者台に座っているのは、日焼けした中年の男だった。
濃い灰色の髪を後ろでひとつに束ね、肩には古い革の外套を掛けている。
男はリシアの姿を見ると、少しだけ目を細めた。
旅人を見る目。
それから、胸元の徽章を見る目。
最後に、肩の上のシルを見る目。
そこで表情が止まる。
「……リスか」
「はい。相棒です」
「相棒」
男は馬を止め、シルをじっと見た。
シルも豆を抱えたまま、男を見返す。
短い沈黙。
男はなぜか真剣な顔で言った。
「荷台の胡桃には近づけるなよ」
シルの尻尾がぴくりと動いた。
リシアはすぐに頭を下げる。
「すみません。まだ何もしていませんが、先に謝っておきます」
「先に謝るのか」
「はい。経験上、その方が早いので」
男は一瞬だけ黙り、それから喉の奥で笑った。
「正直な旅人だな」
「正直なのは私で、こちらは怪しいです」
ちいっ。
シルが抗議する。
しかし、その抗議の間にも、視線は荷台の籠へ向いていた。
とても説得力がない。
男は苦笑しながら、荷台の布を少し直した。
「俺はマウロ。境谷から来た荷運びだ。あんたは?」
「リシアです。旅の歌魔術師をしています」
「歌魔術師か」
マウロの声色が少し変わる。
露骨な拒絶ではない。
けれど、警戒はある。
この反応にも、リシアは少しずつ慣れてきていた。
歌術師という言葉は、人によって違う記憶を連れてくる。
感謝。
希望。
恐怖。
怒り。
戦場。
死者。
それらのどれが目の前の人に響くのか、リシアにはまだ分からない。
だから、急がない。
「境谷へ向かっています」
リシアが言うと、マウロの眉がはっきり動いた。
「悪いことは言わない。今日はやめておけ」
「何かあったんですか」
「毎晩、歌が聞こえる」
マウロは短く答えた。
それだけで、シルの体がわずかに強張る。
リシアも胸の奥が小さく震えた。
「子守唄ですか」
「知ってるのか」
「茶屋で噂を聞きました」
「あの女将さんか。口が軽いようでいて、必要なことしか言わない人だからな。なら、少しは聞いているんだろう」
マウロは周囲を見回した。
畑の方に人影はない。
風だけが麦の若葉を揺らしている。
「歌が聞こえるようになったのは、十日ほど前からだ。夜半になると谷の奥から女の声がする。赤ん坊を寝かしつけるみたいな、古い子守唄だ」
「魔族側から?」
「そう言う奴もいる。いや、実際、谷の向こうは魔族領に近い。声がそっちから流れてくる夜もある」
マウロは口元を引き結ぶ。
「けどな、その歌を聞いて泣いた年寄りがいる。昔、人間の村でも歌っていたものだって」
「同じ歌……」
「ああ。おかげで村は変な空気だ。あれは魔族が人間を惑わすための呪いだって言う者もいる。いや、もともと人間の歌を魔族が奪ったんだって怒る者もいる。逆に、昔は何かつながりがあったんじゃないかって言う者もいてな」
「マウロさんは、どう思うんですか」
リシアが尋ねると、マウロは困ったように笑った。
「荷運びに難しいことを聞くな。俺に分かるのは、荷物が濡れているか、乾いているか。馬が疲れているか、まだ歩けるか。胡桃の袋が破れていないかくらいだ」
その言葉に、シルがまた反応した。
胡桃。
今の単語だけは正確に聞き取ったらしい。
リシアはシルを手で押さえる。
「動かない」
ちい。
「今のは聞き間違い」
ちい?
「胡桃なんて言ってない」
「言ったぞ」
マウロが真顔で訂正した。
リシアは小さく息を詰まらせる。
「そこは聞かなかったことにしてほしかったです」
「悪い。俺は嘘が下手でな」
シルの目がきらきらしている。
リシアは肩の上の相棒を両手で包むようにして抱えた。
「今、境谷の危険な話をしてるんだよ」
ちい。
「分かってる?」
ちい。
「本当に?」
シルは少し考え、こくりと頷く。
そして、マウロの荷台を見る。
「全然分かってないね」
マウロは腹を抱えて笑った。
張り詰めていた空気が、少しだけ緩む。
それでも、笑いが消えた後の彼の目には、やはり疲れが残っていた。
「旅の歌魔術師さん」
「はい」
「あんたが何をしに行くのかは知らない。けど、境谷で歌うなら気をつけろ」
「歌わない方がいい、ということですか」
「そういう時もある」
マウロの声は重い。
「村には、息子を魔族に殺された者もいる。逆に、魔族の子を逃がしたせいで裏切り者扱いされた者もいる。歌で優しくすれば、みんな泣いて仲直りする。そんな簡単な場所じゃない」
「……はい」
「それでも行くのか」
リシアは少しだけ考えた。
行く理由は、歌詞帳に示されたからだけではない。
子守唄が泣いている。
それを聞いてしまった。
聞いた以上、知らなかったことにはできない。
「行きます。でも、歌うためだけではありません。まず聞きに行きます」
マウロはリシアを見つめた。
やがて、小さく頷く。
「なら、谷の入口までなら乗せてやる」
「いいんですか」
「歩いて行くには少し遠い。それに」
マウロはシルを見た。
「そいつを見張っておかないと、俺の胡桃が危ない」
ちいっ。
シルが抗議する。
「信用されてないね」
ちい。
「昨日の木の実事件があるからね」
ちいっ。
「自業自得だよ」
マウロは笑いながら、荷台の後ろを示した。
「乗りな。そこの樽は空だ。胡桃の袋からは離れて座れ」
リシアは荷台へ乗り込む。
シルは少し不満げだったが、リシアの膝の上に置かれると、しぶしぶ丸くなった。
ただし視線は胡桃の袋へ向いたままだ。
馬車が動き出す。
車輪が土の道を噛み、鈴が小さく鳴った。
揺れは大きい。
リシアは樽の縁を掴みながら、荷台から流れる景色を眺める。
畑が少しずつ減り、代わりに低い岩場が増えていった。
道は谷へ向かって下っている。
遠くの空に、黒い鳥の群れが見えた。
魔物ではない。
普通の鳥だ。
けれど、境が近づくほど、普通のものにも意味があるように感じてしまう。
リシアは苦笑した。
自分で思うより、少し緊張しているらしい。
膝の上で、シルがもぞもぞ動く。
「どうしたの?」
ちい。
シルは前足でリシアのポーチを叩いた。
歌詞帳が入っている場所だ。
「歌詞帳?」
シルは小さく頷く。
リシアは周囲を見る。
マウロは御者台で馬に声をかけている。
荷台にはリシアとシルだけ。
リシアはそっと歌詞帳を取り出した。
開いたページには、いつもの一文。
『境界で、同じ子守唄が泣いている』
だが、先ほどよりも文字が濃い。
ページの端に、淡い線が浮かんでいる。
それは譜面のようで、谷の地形図のようでもあった。
リシアが指を近づけると、耳の奥に短い旋律が触れる。
女将がうろ覚えで歌ったものと似ている。
けれど、こちらの方がもっと古い。
もっと遠い。
そして、もっと寂しい。
――ねむれ。
言葉ではなく、意味だけが届く。
――怖い夜が、あなたを見つけませんように。
リシアの指先が止まった。
子守唄。
子どもを眠らせるための歌。
けれど、その願いの奥にあるのは、ただの穏やかな眠りではない。
何かから隠したい。
何かに見つからないでほしい。
そんな切実さが滲んでいる。
リシアはページを見つめたまま、息を整えた。
深く聞きすぎてはいけない。
まだ相手の顔も知らない。
この歌を誰が歌い、誰が聞き、何を失ったのかも分からない。
今ここで無理に残響を追えば、また自分の感情と混ざる。
シルが前足を伸ばし、歌詞帳の端を軽く押さえた。
閉じろ、と言っているようだった。
「うん。まだ早いね」
リシアは歌詞帳を閉じる。
その時、荷馬車が大きく跳ねた。
「わっ」
リシアの体が傾く。
膝の上のシルもころんと転がった。
そして、よりによって胡桃の袋のすぐ近くで止まる。
シルの目が開く。
胡桃の袋。
シル。
リシア。
時間が止まる。
「シル」
ちい。
「今、考えたでしょ」
ちい。
「駄目」
ちい。
「絶対駄目」
シルはゆっくりと前足を伸ばす。
「シル」
伸ばした前足が止まる。
しかし、袋の口から胡桃が一つ、ころりと転がった。
シルは動いていない。
胡桃の方から来た。
これは不可抗力。
そう言いたげな顔で、シルはリシアを見る。
「その理屈は通らないよ」
ちい。
「通らない」
ちい……。
シルは世界の理不尽を噛みしめるような顔で、そっと胡桃から離れた。
リシアは感心する。
「偉い」
シルの顔がぱっと明るくなる。
「あとで一粒、マウロさんにお願いしてみようね」
ちいっ。
完全に機嫌が戻った。
そのやり取りを聞いていたのか、御者台からマウロの声が飛んでくる。
「一粒だけならやるぞ。ただし袋を破ったら全部没収だ」
シルが姿勢を正した。
背筋があるのか分からないが、とにかく正した。
リシアは笑ってしまう。
「よかったね。正式にもらえるって」
ちい。
シルは誇らしげに鳴く。
まるで、最初から交渉するつもりだったと言いたげだ。
「本当かな」
ちい。
「嘘が下手だね」
馬車はさらに谷へ下っていく。
空の色が少しずつ変わった。
高い山肌が両側に迫り、風が細くなる。
谷の入口には、小さな見張り小屋が建っていた。
木材と石を組み合わせた簡素な建物で、屋根には古い旗が垂れている。
王国の紋章。
ただ、その隣にもう一つ、小さな灰色の布が結ばれていた。
何の印かは分からない。
人間側のものにしては、少し見慣れない模様だった。
御者台のマウロが手綱を引く。
「着いたぞ。ここが境谷の入口だ」
リシアは荷台から降りた。
シルは約束通り、マウロから胡桃を一粒もらっている。
両前足で大事に抱え、まるで勲章を授与された騎士のような顔をしていた。
「ありがとうございます」
リシアが頭を下げると、マウロは手を振った。
「礼はいい。俺は荷を届けたついでだ」
「それでも、助かりました」
「なら一つだけ覚えておけ」
マウロの目が、先ほどより真剣になる。
「境谷では、夜に外へ出るな。歌が聞こえても追うな。泣いているように聞こえても、すぐ手を伸ばすな」
その言葉は、リシアの胸に静かに沈んだ。
すぐ手を伸ばすな。
セレナにも似たようなことを言われた。
心歌が聞こえるからといって、理解したつもりになるな。
「分かりました」
「本当に分かってる顔だな」
「分かっていたい、という顔かもしれません」
マウロは少しだけ笑う。
「正直だな。じゃあ、気をつけろ」
荷馬車は見張り小屋の横を抜け、谷の村へ向かう道へ入っていった。
リシアはその背中を見送る。
シルは胡桃をかじろうとして、ふと手を止めた。
そして、谷の奥を見る。
リシアも同じ方向へ視線を向けた。
谷間には小さな村があった。
石造りの家々が斜面に寄り添うように建ち、細い川が村の中央を流れている。
煙突からは薄い煙が上がっている。
暮らしの匂いがする。
けれど、村を囲む柵は高い。
見張り台には弓を持つ人影があり、川にかかる橋には鎖が巻かれていた。
守っている。
閉じている。
その両方が、同じ景色の中にあった。
リシアはゆっくり歩き出す。
見張り小屋の前に近づくと、若い男が出てきた。
年は二十代半ばほど。
短く刈った黒髪に、古い革鎧。
槍を持つ手には力が入っているが、目の下には疲れが見える。
「旅人か」
「はい。リシアといいます。歌魔術師です」
その瞬間、男の表情が固くなった。
「歌術師は今、歓迎されない」
まっすぐな拒絶だった。
リシアは胸の奥に小さな痛みを覚える。
けれど、驚きはしなかった。
「分かりました。無理に入ろうとはしません」
男は少しだけ目を見開く。
拒絶すれば押し返されると思っていたのかもしれない。
あるいは、歌術師なら自分の正しさを歌で示すと思っていたのかもしれない。
「……なぜ来た」
「子守唄の噂を聞きました」
男の手が槍の柄を握り直す。
「またその話か」
「今、村でその歌が問題になっているんですね」
「問題どころじゃない」
男は低く言う。
「昨夜、その歌を聞いた子どもが一人、家を抜け出した」
リシアの呼吸が止まる。
シルの胡桃を抱える前足も止まった。
「見つかったんですか」
「川辺で見つかった。無事だ。ただ、本人は何も覚えていない。夢の中で誰かが呼んでいたと言っている」
「誰かが……」
「母さんの声だった、と」
男は奥歯を噛むように言った。
「その子の母親は、三年前に魔族との小競り合いで死んでいる」
風が谷を抜ける。
その風には、まだ歌は混ざっていない。
けれどリシアには、見えない場所で何かが震えている気がした。
母の声。
子守唄。
境界。
魔族。
同じ歌。
どれもまだ線にならない。
けれど、ばらばらの欠片が足元に落ち始めている。
リシアは男を見る。
「その子に会えますか」
「会わせると思うか」
「思いません」
即答すると、男はまた少し意外そうな顔をした。
「でも、会えないなら、まず村の話を聞かせてください。歌を止めるためではなく、何が起きているのかを知るために」
「歌を止めに来たんじゃないのか」
「止めるべき歌なのか、まだ分かりません」
リシアは正直に答えた。
「歌は人を救うこともあります。でも、傷つけることもあります。だから、先に決めたくありません」
男は黙った。
谷の風が二人の間を通る。
やがて、彼は小さく息を吐いた。
「……俺はラグス。境谷の見張りだ」
ラグス。
リシアはその名を心の中で繰り返す。
新しい土地の、新しい声。
「リシアです。こちらはシル」
シルは胡桃を抱えたまま、ちい、と鳴く。
ラグスは一瞬だけシルを見た。
「リスか」
「はい。相棒です」
「胡桃を持っているな」
「正式にもらったものです」
リシアがすぐに言うと、ラグスは不審そうにシルを見る。
シルは胸を張った。
堂々としている。
昨日と違い、今回は本当に正当な所有物だ。
「……まあいい」
ラグスは槍を少し下げた。
「村長に話を通す。ただし、勝手に歌うな」
「はい」
「夜に歌が聞こえても外へ出るな」
「はい」
「そのリスが勝手に走ったら?」
リシアはシルを見る。
シルは胡桃を抱えたまま固まっている。
「全力で止めます」
「頼む」
ラグスは本気で言った。
リシアも本気で頷いた。
谷の村へ向かう門が開く。
軋む音が、冷たい空気に混ざった。
リシアは一歩を踏み出す。
村の中からは、人々の生活音が聞こえてくる。
鍋の音。
誰かが薪を割る音。
子どもの泣き声。
それを叱る大人の声。
普通の村だ。
ただ、そこに薄い恐怖が重なっている。
リシアは歌わない。
まだ、歌わない。
まずは聞く。
人の声を。
沈黙を。
子守唄が泣いている理由を。
その時、村の奥から、小さな歌声が聞こえた。
昼間なのに。
まだ夜ではないのに。
ほんの一節だけ。
子どもが口ずさんだような、細い声。
「……ねむれ、ねむれ」
ラグスの顔色が変わる。
近くの家の扉が、ばたんと閉まった。
シルが胡桃を抱えたまま、毛を逆立てる。
リシアは足を止めた。
歌声はすぐに途切れる。
けれど、その残響は谷の石壁に触れ、細く揺れながら消えていった。
リシアの歌詞帳が、胸元で微かに震える。
そして、まだ開いていないページの奥から、ひどく小さな泣き声のような音がした。
歌は、もう始まっている。
リシアはそう感じながら、境谷の村へ足を踏み入れた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
今回は、リシアとシルが境谷へ向かう道中と、村の入口へ辿り着くまでを描きました。
シルは相変わらず食べ物に弱いですが、今回は正式にもらった胡桃なので、少しだけ成長した……かもしれません。
一方で、子守唄の噂は少しずつ形を持ち始めています。
歌う前に、まず聞く。
リシアにとって大切な姿勢を、改めて確かめる回になりました。
今回も読んでくださり、ありがとうございました。




