表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

【1-2】一度目の世界

 私が『一度目』に召喚された時、不安でいっぱいだった。

 いきなり異世界に連れてこられて、いきなり聖女だなんて言われて――ただの女子高生だった私には、世界の命運など重すぎた。


 だけど、そんな私を支えてくれたのが、勇者パーティの3人だ。


「僕はジークハルト。勇者として、君を導くよ」


 ジークは、いつも私を励ましてくれた。

 私と同い年くらいなのに、しっかりしていて。勇者として、王子としての責務を果たそうとしていた。そんな彼を見て、私は彼に恥じない自分でありたいと思った。


「騎士のエドワードだ。命をかけて、お前を守ると誓おう」


 エドは、頼りになるお兄さんという感じで、いつも私たちを守ってくれた。騎士としてまっすぐで、いつも真剣だった。彼がいれば大丈夫、そんな安心感をあたえてくれていた。


「魔法師のユリウスです。貴女に魔法を教えます。しっかり学んでいただきますよ」


 ユリウスは、スパルタな師匠だった。魔法訓練こそ厳しかったけれど、それはすべて私を助けるためだった。いつもは厳しい口調で私に指導するけれど、魔法がうまくいくと微笑んでくれた。

泣き虫で弱虫だった私を、この3人は支えてくれた。


「頑張ったね、リナ。大分魔法が上達したじゃないか」

「本当?嬉しい!」

「ああ! お前は本当に素質があるな」

「ええ、これなら戦いの場に出ても遜色なく戦えるでしょう。といってもまだまだ改善点がありますが」

「う……」


 褒められて浮かれた直後、ユリウスの冷静な指摘にしぼむ。


「ユリウス、お前は素直に喜べないのか」

「私が教えていますので当然の結果です」

「お前な……」

「まあまあ二人とも。けんかしている場合じゃないよ。そろそろ、次の訓練をはじめよう」


次の訓練。その言葉にどきりとする。


「……いよいよ魔物と戦うんだね」


 声に出してしまった後、自分の心細さに気づいた。いくら魔法が上達したとはいえ、あんな恐ろしい生き物と戦うなんて、本当は怖い。怪我をしたらどうしよう。失敗したらどうしよう。誰かを傷つけてしまったらどうしよう。

 そう考えると、怖くてたまらなかった。


 私の不安を感じ取ったのか、ジークは私の手をそっと握って言った。


「ごめんね。君みたいな女の子に世界の命運を背負わせてしまって。本当は僕らの力でなんとかしなきゃいけない問題なのに」

「……大丈夫だよ。最初は落ち込んだけど、最近は少し前向きになれたんだ。だって私の力でみんなが助けられるんだから。みんなの役に立てて、嬉しいよ」


 精一杯、強がって笑ってみせた。


 その時の私は、本気でそう思っていた。

 ――誰かの役に立てることが、幸せだと。


***


「ついに聖女様が沼の主を倒したぞ!」


「聖女様! 万歳!」


 みんなが私のことを求めてくれる。みんなが私を頼りにしてくれる。それが何よりも嬉しかった。

 だから頑張った。もっとみんなの役に立てるように。

 そのために、努力を惜しまなかった。

 その努力が、全てを壊していくとも知らずに。


***


 聖女として各地で活躍するようになって、2年が経った頃だった。


「……ここも結界が壊れてきてる。おかしいよね、ここは前も結界を張ったばかりなんだけど」

「村の人たちが定期的に魔力を補充していれば、持つはずなんだけどな」


 最近、謎の現象が増えていた。

 張ったはずの結界が、なぜか壊れているのだ。

 調査のために村に着くと、村の人々がぞろぞろと集まってきて、懇願し始めた。


「聖女様、作物が枯れてきてしまったんです。なんとかなりませんか?」

「主人の病気がありまして、聖女様どうかお助けください」

「ええっと……」


 困惑していると、ジークが私を庇ってくれた。


「皆さん。聖女の力は無限ではありません。聖女の力を使うたびに、彼女も消耗するんです。聖女の力を必要としている人たちはたくさんいます。あなたたちだけを助けているわけにはいかない」


「ですが……もう村はこの有様でして」

「……分かりました。ですが、今回限りとさせていただきたい。自分たちの力で解決してください」


 その後、私たちは考えが甘かったことを知った。


***


 次に村を訪れた時、そこはめちゃくちゃになっていた。

 人々は酒におぼれ、怠惰になっていた。結界はあちこちが壊れ、畑は荒れ放題になっていた。あまりの惨状に言葉を失っていると、見知った顔が現れた。

 以前疫病の時に助けてくれた医者の先生だった。


「先生、いったいどうされたんですか。村が病に侵された時、先生はあんなに奔走してくださったのに」


 以前は立派だった医者の先生が、呂律の回らない口で言った。


「俺ぁ医者をやめたよ。ヒック……だってよぉ、俺みたいな医者が頑張ったところで、どーせ聖女が治しちまうんだからよぉ」


 私は言葉を失った。


 (そうか……私のせいだったのか……私がすべて解決してしまったから、彼らの生きる力を失わせてしまった……ッ)


「う……あぁ……お、おぇえ……!」

「リナ! しっかり!」


 倒れこむ私をジークが支えてくれた。だけど私はもう、立つことすらできなかった。

 村人たちはぞろぞろと集まってきた。


「聖女様! どうかお恵みを!」

「聖女様! 聖女様!」


 彼らの声が脳に響く。まるで無数の手に引きずり込まれるような感覚。


「やめてください! 言ったはずです! 自分たちのことは自分たちで解決してくださいと。聖女の力は消耗するんです。このままではリナの命が危ない」


 ジークは私を庇おうとした。だけど。


「俺たちが召喚した聖女だ! 俺たちのために力を使え!」

「聖女の力を独り占めするな!」

「そうだ! 聖女の力はみんなのもんだろう!」


 ジークの声は、彼らに届かない。

 私は、あまりの恐怖に意識を手放した。

 そして、すべてが手遅れだったことを知った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ