【1-2】一度目の世界
私が『一度目』に召喚された時、不安でいっぱいだった。
いきなり異世界に連れてこられて、いきなり聖女だなんて言われて――ただの女子高生だった私には、世界の命運など重すぎた。
だけど、そんな私を支えてくれたのが、勇者パーティの3人だ。
「僕はジークハルト。勇者として、君を導くよ」
ジークは、いつも私を励ましてくれた。
私と同い年くらいなのに、しっかりしていて。勇者として、王子としての責務を果たそうとしていた。そんな彼を見て、私は彼に恥じない自分でありたいと思った。
「騎士のエドワードだ。命をかけて、お前を守ると誓おう」
エドは、頼りになるお兄さんという感じで、いつも私たちを守ってくれた。騎士としてまっすぐで、いつも真剣だった。彼がいれば大丈夫、そんな安心感をあたえてくれていた。
「魔法師のユリウスです。貴女に魔法を教えます。しっかり学んでいただきますよ」
ユリウスは、スパルタな師匠だった。魔法訓練こそ厳しかったけれど、それはすべて私を助けるためだった。いつもは厳しい口調で私に指導するけれど、魔法がうまくいくと微笑んでくれた。
泣き虫で弱虫だった私を、この3人は支えてくれた。
「頑張ったね、リナ。大分魔法が上達したじゃないか」
「本当?嬉しい!」
「ああ! お前は本当に素質があるな」
「ええ、これなら戦いの場に出ても遜色なく戦えるでしょう。といってもまだまだ改善点がありますが」
「う……」
褒められて浮かれた直後、ユリウスの冷静な指摘にしぼむ。
「ユリウス、お前は素直に喜べないのか」
「私が教えていますので当然の結果です」
「お前な……」
「まあまあ二人とも。けんかしている場合じゃないよ。そろそろ、次の訓練をはじめよう」
次の訓練。その言葉にどきりとする。
「……いよいよ魔物と戦うんだね」
声に出してしまった後、自分の心細さに気づいた。いくら魔法が上達したとはいえ、あんな恐ろしい生き物と戦うなんて、本当は怖い。怪我をしたらどうしよう。失敗したらどうしよう。誰かを傷つけてしまったらどうしよう。
そう考えると、怖くてたまらなかった。
私の不安を感じ取ったのか、ジークは私の手をそっと握って言った。
「ごめんね。君みたいな女の子に世界の命運を背負わせてしまって。本当は僕らの力でなんとかしなきゃいけない問題なのに」
「……大丈夫だよ。最初は落ち込んだけど、最近は少し前向きになれたんだ。だって私の力でみんなが助けられるんだから。みんなの役に立てて、嬉しいよ」
精一杯、強がって笑ってみせた。
その時の私は、本気でそう思っていた。
――誰かの役に立てることが、幸せだと。
***
「ついに聖女様が沼の主を倒したぞ!」
「聖女様! 万歳!」
みんなが私のことを求めてくれる。みんなが私を頼りにしてくれる。それが何よりも嬉しかった。
だから頑張った。もっとみんなの役に立てるように。
そのために、努力を惜しまなかった。
その努力が、全てを壊していくとも知らずに。
***
聖女として各地で活躍するようになって、2年が経った頃だった。
「……ここも結界が壊れてきてる。おかしいよね、ここは前も結界を張ったばかりなんだけど」
「村の人たちが定期的に魔力を補充していれば、持つはずなんだけどな」
最近、謎の現象が増えていた。
張ったはずの結界が、なぜか壊れているのだ。
調査のために村に着くと、村の人々がぞろぞろと集まってきて、懇願し始めた。
「聖女様、作物が枯れてきてしまったんです。なんとかなりませんか?」
「主人の病気がありまして、聖女様どうかお助けください」
「ええっと……」
困惑していると、ジークが私を庇ってくれた。
「皆さん。聖女の力は無限ではありません。聖女の力を使うたびに、彼女も消耗するんです。聖女の力を必要としている人たちはたくさんいます。あなたたちだけを助けているわけにはいかない」
「ですが……もう村はこの有様でして」
「……分かりました。ですが、今回限りとさせていただきたい。自分たちの力で解決してください」
その後、私たちは考えが甘かったことを知った。
***
次に村を訪れた時、そこはめちゃくちゃになっていた。
人々は酒におぼれ、怠惰になっていた。結界はあちこちが壊れ、畑は荒れ放題になっていた。あまりの惨状に言葉を失っていると、見知った顔が現れた。
以前疫病の時に助けてくれた医者の先生だった。
「先生、いったいどうされたんですか。村が病に侵された時、先生はあんなに奔走してくださったのに」
以前は立派だった医者の先生が、呂律の回らない口で言った。
「俺ぁ医者をやめたよ。ヒック……だってよぉ、俺みたいな医者が頑張ったところで、どーせ聖女が治しちまうんだからよぉ」
私は言葉を失った。
(そうか……私のせいだったのか……私がすべて解決してしまったから、彼らの生きる力を失わせてしまった……ッ)
「う……あぁ……お、おぇえ……!」
「リナ! しっかり!」
倒れこむ私をジークが支えてくれた。だけど私はもう、立つことすらできなかった。
村人たちはぞろぞろと集まってきた。
「聖女様! どうかお恵みを!」
「聖女様! 聖女様!」
彼らの声が脳に響く。まるで無数の手に引きずり込まれるような感覚。
「やめてください! 言ったはずです! 自分たちのことは自分たちで解決してくださいと。聖女の力は消耗するんです。このままではリナの命が危ない」
ジークは私を庇おうとした。だけど。
「俺たちが召喚した聖女だ! 俺たちのために力を使え!」
「聖女の力を独り占めするな!」
「そうだ! 聖女の力はみんなのもんだろう!」
ジークの声は、彼らに届かない。
私は、あまりの恐怖に意識を手放した。
そして、すべてが手遅れだったことを知った。




