表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

【1-1】プロローグ 聖女は悪女を演じ切る

「聖女様、よくぞ我らが呼びかけに応じてくださった!」


高らかに響く声は、荘厳な大広間の天井に反響しながら、私の耳を打った。

ぼんやりと目を開けると、そこは壮麗な神殿のような場所。

大理石の床にきらめくステンドグラスの光が降り注ぎ、柔らかな金色の光が空間を満たしている。目を引くのは、私を取り囲む中世ヨーロッパ風の衣装を纏った人々。その目には期待と好奇の入り混じった光が宿り、まるで珍しい動物でも見るように私をじっと見つめていた。


「聖女様、我々は魔王という危機に瀕しております。どうか我々の世界をお救いください!」


中心にいる神官らしき男が、深々と跪き、力強い声で懇願する。いわゆる『聖女召喚』というやつだ。異世界転移ものの小説でよく見るやつ。ありがちな展開の舞台で、ありがちな神官が目の前で傅いている。

でもね、私はありがちな反応なんてしない。


「もちろん、断るわ」


口元に浮かべた最大級の笑顔とともに告げたこの一言で、場の空気が凍りついた。


「ええ、ありがとうございま…って、はい?」


神官の顔が面白いほど歪む。困惑、驚愕、そして明らかな怒り。目を見開き、しばらく言葉を失っている彼に、私はもう一度しっかりと告げる。


「断ると言ったの。あなたたちの世界なんて、私にとってはどうでもいい。勝手に死になさい」


ざわざわと広間に騒ぎが広がる。貴族らしき者たちが互いに顔を見合わせ、何かを囁き合っている。神官の男はまるで現実を理解できていないかのように震え始めた。そして、その口から絞り出されるのは、非難の言葉だった。


「なんて酷いことを! あなたには大切な人たちを失う苦しみが分からないのですか!?」

「分かるわよ」


私は声を張る。空間に響き渡るように。


「だって私はもう、元いた世界に帰れないのよ。家族にも、友人にも、もう二度と会えない。あなたたちに奪われたのよ。そんな私に、助けろと?」


少しずつ苛立ちが込み上げる。私は感情の波に飲まれながらも、意識的に冷徹なトーンを保ち続けた。


「では、我々は、どうすれば」

「簡単よ。自分たちで戦いなさいよ。異世界の他人に責任を押し付けて、自分たちはのうのうと生きてるなんて。そんな性根の腐った人間は滅びればいい」

「そ、そんな…」


ざわめきが一瞬静まり返った後、怒りの声が飛び交い始めた。


「なんてやつだ! こちらがこれだけ頭を下げているというのに!」

「聖女ではない! この女は悪魔だ!」


侮辱の声が次々と浴びせられる。昔の私だったら、こんな場所は耐えられなかっただろう。


でも『今回』は違う。


私は悪女を演じ切ってみせる。

たとえ、かつての仲間に憎まれても。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ