表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界最強の冒険者と四人の乙女  作者: 天音シオン
第一部「覚醒編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/14

第9章:鉄の迷宮と七人の連携

第9章:鉄の迷宮と七人の連携


1. 出発前の準備


王都に戻って三日が経った。


その三日間、《夜明けの旅団》の七人はそれぞれの準備に費やした。


アレンは毎朝、城壁の外の広場で《全方位感知斬り》の修練を行った。セリアが相手を務め、模擬戦を繰り返す。最初は感知から動作への変換に〇・一秒ほどのタイムラグがあったが、三日間の修練で、そのタイムラグは半分以下に縮まった。


「感知と動作が、少しずつ一体化してきた」


「まだ完全ではないが、実戦で使えるレベルには達している」


セリアが木剣を構え直しながら言った。


「もう一本、やるか?」


「頼む」


二人は再び模擬戦を始めた。


セリアの剣技は、相変わらず鋭い。しかし、アレンは以前より確実に対応できるようになっていた。


「《全方位感知斬り》——!」


アレンはセリアの動きを感知し、最小限の動きで剣を捌きながら反撃した。


「……上達が速い」


セリアが少し驚いた表情で言った。


「三日でここまで来るとは思わなかった」


「《限界突破》のおかげだ。修練の効果が、通常より速く身につく」


「それだけではない。お前は、感覚で覚えるのが得意だ。理屈より先に体が理解する。それは、稀有な才能だ」


「セリアに言われると、素直に嬉しい」


「……喜びすぎるな。慢心につながる」


「分かっている」


アレンは笑った。


一方、クロエは魔法書の解析を続けていた。


父グレイが残した術式の中に、まだ解読できていないものが複数あった。その一つが、「古代封印術式の応用版」——通常の封印術式より遥かに強力で、神話級の存在にも効果があるという。


「この術式を完成させれば、どんな強敵にも対抗できる」


クロエは夜遅くまで魔法書と向き合い続けた。


リリスは王都の薬草市場を訪れ、珍しい素材を集めた。


「《上位回復薬》の改良版を作れるかもしれない。魔力回復と体力回復を同時に行う《万能回復薬オールキュア・ポーション》——理論的には可能なはずよ」


リリスは宿屋の一室を調合室に変え、実験を繰り返した。


カインは剣技の修練に加え、アレンから《全方位感知斬り》の理論を教わった。


「魔力感知を使いながら剣を振る……俺にはまだ難しいが、感覚は分かってきた」


「焦らなくていい。感覚が分かれば、あとは修練だ」


「アレン、お前は本当に教えるのが上手いな」


「そうか?」


「ああ。難しいことを、分かりやすく伝えられる。それも才能だと思う」


アレンは少し照れた。


「……ありがとう」


ミアは闇属性魔法の新術式を研究し、アリアは聖属性魔法の強化に取り組んだ。


三日間の準備を経て、七人はB級迷宮「鉄の迷宮アイアン・ダンジョン」への挑戦に向けて出発した。





2. 鉄の迷宮の入り口


王都から東へ半日の道のりに、鉄の迷宮はあった。


入り口は、鉄製の巨大な扉だった。高さ五メートル、幅三メートルの扉は、錆一つなく、鏡のように磨かれている。扉の表面には、複雑な幾何学模様が刻まれており、その中央に手形の窪みがあった。


「B級迷宮の入り口は、冒険者の魔力で開く仕組みになっている」


セリアが説明した。


「B級以上の冒険者の魔力でなければ、扉は開かない。俺はE級だが……」


「《限界突破》の魔力なら、等級は関係ないはずだ。試してみろ」


アレンは扉の中央の手形に手を当て、魔力を流した。


扉が低い音を立てて振動し、ゆっくりと内側に開いた。


「開いた」


「やはり、等級ではなく魔力の質で判断しているようだな」


七人は扉の中に入った。


内部は、予想通り鉄で構成されていた。


壁も天井も床も、全て鉄製だ。足音が金属的に響き、空気は冷たく乾燥している。松明の代わりに、壁に埋め込まれた魔石が青白い光を放っており、迷宮全体を薄く照らしている。


「鉄の迷宮は全七層構造。第一〜三層は鉄製のモンスター、第四〜六層は鉄巨人アイアン・ゴーレムの亜種、第七層のボスは『鉄のアイアン・キング』だ」


クロエが情報を整理した。


「鉄製のモンスターへの有効な攻撃は?」


「物理攻撃は効きにくい。有効なのは、雷属性の魔法か、高温の炎魔法。鉄は電気を通しやすく、高温で溶ける」


「雷属性の魔法は、俺はまだ使えない」


「カインの《炎剣》が有効になる。炎の温度を上げれば、鉄を溶かせる」


「俺の《炎剣》の温度を上げるには……」


「魔力の密度を高めればいい。炎の温度は、注ぎ込む魔力の密度に比例する」


「やってみる」


カインは《炎剣》を発動し、剣に炎を纏わせた。


「もっと魔力を集中させて……」


炎の色が、オレンジから黄色、そして白に近い色へと変化した。


「温度が上がっている!」


「それが《高温炎剣ハイ・フレイム・ソード》だ。通常の《炎剣》より遥かに高い温度で、鉄を溶かすことができる」


「すごい……! 自分でも気づかなかった技が出てきた!」


「魔力の使い方を理解すれば、自然と技は広がる」


「アレン、お前に教わってよかった!」


「俺はきっかけを言っただけだ。技を作ったのはカインだ」


「……そういうとこが、また憎いな」


カインは笑いながら、剣の炎を消した。


「では、行こう」


七人は鉄の迷宮の第一層へと踏み込んだ。





3. 第一〜三層の攻略


第一層に入ると、すぐにモンスターが現れた。


鉄蟹アイアン・クラブ——全身が鉄製の甲殻に覆われた蟹型のモンスター。体長は一メートルほどで、強力な鋏で攻撃してくる。


「《高温炎剣》!」


カインが踏み込み、鉄蟹の甲殻に剣を叩き込んだ。


白い炎が甲殻に触れた瞬間、鉄が赤く溶け始めた。


「効いている!」


「《氷刃》!」


セリアが溶けた部分に氷の刃を叩き込んだ。


急激な温度変化——溶けた鉄が急冷されることで、甲殻に亀裂が入った。


「熱して冷やす……! 金属の熱膨張と収縮を利用した攻撃か!」


「そうだ。鉄は急激な温度変化に弱い。カインの炎で溶かし、私の氷で急冷する。この連携が、鉄製のモンスターへの最も有効な攻撃だ」


「二人の連携が、こんなに有効になるとは……」


「戦術的な連携は、個々の力以上の効果を生む」


鉄蟹を倒した後、七人は第一層を進んだ。


第一層には鉄蟹の他に、鉄蜘蛛アイアン・スパイダー鉄蛇アイアン・サーペントが出現した。


鉄蜘蛛は天井から糸を垂らして奇襲してくるため、アレンの魔力感知が重要な役割を果たした。


「上から来る! 三時方向!」


「《ウェントゥス・ラミナ》!」


アレンが《風の刃》を放ち、天井から降ってきた鉄蜘蛛を迎撃した。


「魔力感知がなければ、奇襲を受けていた」


「アレンの感知は、本当に頼りになるな」


カインが言った。


「俺は感知に集中しているから、攻撃の手が少し遅くなる。そこをカインとセリアに補ってもらっている」


「お互いの弱点を補い合う——それが連携だな」


「そうだ」


第二層では、鉄狼アイアン・ウルフの群れが出現した。


鉄狼は素早く、群れで連携して攻撃してくる。個体の強さは大したことないが、数が多い。


「ミア、闇魔法で動きを止められるか?」


「《闇の拘束シャドウ・バインド》——」


ミアが静かに詠唱した。


床から黒い影が伸び、鉄狼の足に絡みついた。


「動きが止まった!」


「《高温炎剣・薙ぎ払い》!!」


カインが横一文字に剣を振り、拘束された鉄狼を一気に薙ぎ払った。


「ミアの拘束魔法とカインの薙ぎ払いか……これも有効な連携だ」


「ミアの《闇の拘束》は、複数の敵を同時に拘束できる。群れへの対処に最適ね」


アリアが言った。


「アリアは後方支援を頼む。《聖なる光》で、ダメージを受けた仲間の回復を」


「分かった。《聖なる光・回復》!」


アリアの聖属性魔法が、傷を受けたカインの腕を包んだ。傷が急速に塞がっていく。


「聖属性の回復魔法は、リリスの回復薬より速い」


「緊急時には、私が魔法で回復する。薬草は温存しておいて」


「ありがとう、アリア」


「……どういたしまして」


第三層では、鉄亀アイアン・タートルが出現した。


体長三メートルの亀型モンスターで、甲羅の硬さは鉄蟹の比ではない。


「《高温炎剣》でも、甲羅を溶かすのに時間がかかる……」


「甲羅ではなく、首と足の付け根を狙え。そこは甲羅で覆われていない」


「なるほど!」


カインが素早く動き、鉄亀の首の付け根に《高温炎剣》を叩き込んだ。


「ここだ!」


「《ウェントゥス・ラミナ》!」


アレンが同じ箇所に《風の刃》を叩き込んだ。


二つの攻撃が集中し、鉄亀の首の付け根に大きなダメージを与えた。


「弱点を集中攻撃する——これも連携の基本だ」


「七人いると、弱点への集中攻撃がやりやすい。一人が注意を引きつけている間に、別の者が弱点を攻撃できる」


「タンクとアタッカーの役割分担か」


「そうだ。俺が注意を引きつける。セリアとカインが弱点を攻撃する。ミアが拘束魔法でサポートする。クロエが術式で補助魔法をかける。アリアが回復を担当する。リリスが薬草で後方支援する」


「完璧な役割分担だな」


「まだ完璧ではない。実戦の中で、更に洗練させていく」


第三層を抜けた時点で、七人は一度休憩を取った。


「第四層からは、鉄巨人アイアン・ゴーレムが出現する。これまでのモンスターとは比べ物にならない強さだ」


「どのくらい強い?」


「B級冒険者でも、単独では苦戦する。七人で連携すれば、十分に対処できるはずだが……気を引き締めろ」


「了解」


リリスが全員に《上位回復薬》を配った。


「飲んでおいて。第四層に備えて、体力と魔力を満タンにしておくわ」


「ありがとう」


「リリスは、本当に気が利くな」


カインが言った。


「当然よ。私はサポート専門だもの」


「サポート専門なんて言い方は違う。リリスがいるから、俺たちは安心して戦える。それは、攻撃と同じくらい重要だ」


リリスは少し驚いた表情をしてから、照れたように笑った。


「……ありがとう、アレン」


「本当のことを言っているだけだ」





4. 第四層・鉄巨人との戦い


第四層に入ると、空間が一気に広くなった。


天井の高さは十メートル以上あり、壁の幅も広い。まるで、大型のモンスターのために設計されたような空間だ。


「来る……!」


アレンの魔力感知が、巨大な反応を捉えた。


鉄巨人アイアン・ゴーレム——高さ四メートルの人型の鉄の塊。全身が鉄製で、目の部分だけが赤く光っている。一歩踏み出すたびに、床が振動する。


「でかい……!」


カインが思わず言った。


「落ち着け。大きいだけで、動きは遅い。速度で翻弄しながら弱点を攻撃する」


「弱点は?」


「胸の中央にある魔石だ。鉄巨人の動力源で、そこを破壊すれば倒せる。ただし、魔石は鉄の装甲で守られているため、まず装甲を剥がす必要がある」


「装甲を剥がすには、《高温炎剣》か」


「そうだ。俺が装甲を溶かす。セリアが急冷して亀裂を入れる。その亀裂にアレンが《風の刃》を叩き込んで装甲を剥がす。装甲が剥がれたら、全員で魔石を攻撃する」


「完璧な作戦だ」


「行くぞ!」


鉄巨人が巨大な拳を振り下ろしてきた。


「散開!」


七人が素早く散開し、拳を回避した。


拳が床に叩きつけられ、石畳が粉砕された。


「《高温炎剣》!!」


カインが鉄巨人の胸部に駆け寄り、白い炎の剣を叩き込んだ。


鉄が赤く溶け始める。


「今だ、セリア!」


「《氷刃・急冷》!!」


セリアが溶けた部分に氷の刃を叩き込んだ。


急激な温度変化で、装甲に大きな亀裂が入った。


「《ウェントゥス・ラミナ》!!」


アレンが《風の刃》を亀裂に叩き込んだ。


装甲の一部が剥がれ、内部の魔石が露出した。


「魔石が見えた!」


「全員、攻撃!!」


「《高温炎剣》!!」

「《氷刃》!!」

「《ウェントゥス・ラミナ》!!」

「《闇の拘束》!!」

「《聖なる光》!!」


五人の攻撃が魔石に集中した。


「グォォォォ!!!」


鉄巨人が激しく揺れた。


しかし、倒れなかった。


「まだ生きている!」


「魔石が一つではない! 複数の魔石で動いている!」


「どこに……!?」


「魔力感知で探す!」


アレンは魔力感知を鉄巨人の体内に向けた。


「……三つある! 胸、腹、背中!」


「三箇所同時に攻撃するのか?」


「そうだ。一箇所ずつでは、他の魔石が補完してしまう。三箇所を同時に破壊しなければならない」


「七人を三チームに分けるか」


「そうだ。俺とセリアが胸。カインとミアが腹。アリアとクロエが背中。リリスは後方支援」


「了解!」


「タイミングは俺が合図する。魔力感知で鉄巨人の動きを把握しながら、最適なタイミングを計る」


「分かった!」


鉄巨人が再び拳を振り下ろしてきた。


「散開! ——今!!」


アレンの合図で、三チームが同時に動いた。


「《高温炎剣》!!」「《氷刃》!!」——胸の魔石へ。

「《炎剣・最大出力》!!」「《闇の拘束》!!」——腹の魔石へ。

「《聖なる光》!!」「《古代術式・貫通》!!」——背中の魔石へ。


六つの攻撃が、三つの魔石に同時に命中した。


「グォォォォ!!!!」


鉄巨人の体が激しく振動し——。


ズドォォォォン!!!


巨大な体が、床に崩れ落ちた。


「……倒した」


七人が荒い息をつきながら、鉄巨人の残骸を見た。


「三チームに分かれての同時攻撃——これは使える戦術だ」


「アレンの魔力感知があってこそだ。タイミングを合わせるのは、感知なしでは難しい」


「七人の連携が、本当の意味で完成してきた気がする」


カインが言った。


「まだ完成ではない。でも、確実に強くなっている」





5. 第五・六層と謎の冒険者


第五層では、鉄巨人の強化版である鉄将軍アイアン・ジェネラルが出現した。


通常の鉄巨人より一回り大きく、動きも速い。さらに、鉄製の盾と槍を装備しており、攻撃と防御の両方が強化されている。


「盾があると、正面からの攻撃が通りにくい」


「側面と背後から攻撃する必要がある」


「ミア、《闇の拘束》で動きを止められるか?」


「……試みる」


ミアが《闇の拘束》を発動した。


しかし、鉄将軍の足には拘束が効かなかった。


「鉄製の足には、《闇の拘束》が絡みつけない……!」


「では、槍を持つ腕を狙え。腕の動きを止めれば、攻撃力が下がる」


「《闇の拘束》——腕へ!」


ミアが術式を調整し、鉄将軍の腕に《闇の拘束》を絡みつかせた。


槍を持つ腕の動きが制限された。


「今だ! 側面から!」


「《高温炎剣》!!」


カインが側面から装甲を溶かし、セリアが急冷して亀裂を入れた。


「《ウェントゥス・ラミナ》!!」


アレンが亀裂に《風の刃》を叩き込み、装甲を剥がした。


「魔石が見えた!」


「《古代術式・貫通》!!」


クロエが古代術式を発動し、魔石を直接攻撃した。


「グォォォォ!!!」


鉄将軍が揺れた。


「もう一撃!」


「《聖なる光・集束》!!」


アリアが聖属性魔法を集束させ、魔石に叩き込んだ。


鉄将軍の体が崩れ落ちた。


「倒した!」


「連携が、更に洗練されてきた」


「それぞれの役割が、自然に決まってきている」


第六層に入った時、アレンの魔力感知が異常な反応を捉えた。


「……人間の反応がある」


「また迷子の冒険者か?」


「違う。この魔力の質は……戦士だ。しかも、かなりの実力者」


「敵か?」


「分からない。悪意は感じない。ただ……」


アレンは少し考えた。


「この魔力、どこかで感じたことがある」


「どこで?」


「……分からない。でも、確かに感じたことがある」


七人は慎重に魔力反応の方向へと進んだ。


第六層の奥に、一人の男性が壁に背を預けて座っていた。


年齢は四十代ほど。白髪交じりの黒髪に、深い傷跡が顔に走っている。黒い旅装束を纏い、腰に一本の長剣を帯びている。目を閉じており、意識があるかどうか分からない。


「……生きているか?」


アレンが近づくと、男性がゆっくりと目を開けた。


その目は深い灰色で、長年の戦いを経験してきた者の目だった。


「……久しぶりに、人に会った」


「大丈夫か? 怪我は?」


「……少し、消耗した。問題ない」


男性は立ち上がろうとしたが、足がふらついた。


「無理をするな」


アレンが支えた。


「……ありがとう」


「名前は?」


男性は少し間を置いてから答えた。


「……ガルド・アイアンウォールだ」


「ガルド……!?」


セリアが目を見開いた。


「冒険者ギルドのマスター、ガルドか!?」


「……そうだ。久しぶりだな、セリア」


「なぜ、こんな場所に……!?」


「調査だ。この迷宮の第七層に、通常では見られない魔力反応がある。それを調べに来た」


「一人でB級迷宮に……!?」


「俺はS級だ。B級迷宮なら、一人でも問題ない。ただ……第六層で予想外の罠に引っかかり、少し消耗した」


「罠?」


「魔力吸収の罠だ。床に仕掛けられており、踏んだ瞬間に魔力を大量に吸収される。俺でも、かなりの魔力を持っていかれた」


「魔力吸収の罠……誰が仕掛けた?」


「それを調べるために来た。この迷宮に、誰かが罠を仕掛けている。それも、かなりの実力者が」


「黒蛇の牙か?」


ガルドはアレンを見た。


「……お前が、アレンか。セリアから話は聞いていた」


「はい」


「黒蛇の牙の可能性は高い。だが、確証はない。第七層を調べれば、分かるかもしれない」


「一緒に行きましょう」


アリアが言った。


「俺たちも第七層のボスを倒しに来た。一緒に行けば、調査もできる」


ガルドは七人を見回した。


「……七人か。なかなかの布陣だ」


「《夜明けの旅団》です」


「いい名前だ」


ガルドは立ち上がり、剣の柄に手をかけた。


「では、一緒に行こう。第七層のボスについては、俺も情報を持っている」


6. ガルドの過去と第七層への道


第六層を進みながら、ガルドはアレンたちに話しかけた。


「お前たちの連携を見ていた。なかなかのものだ」


「見ていたのか?」


「ああ。壁の陰から、少しな。七人がそれぞれの役割を理解し、自然に動いている。短期間でここまで連携を高めるのは、並大抵ではない」


「まだまだです。ガルドさんの目から見て、改善点はありますか?」


ガルドは少し驚いた表情をした。


「……素直に教えを請うか」


「強くなるためには、経験者の意見が重要です」


「……そうだな。一つ言うとすれば、アレン、お前は感知と指示に集中しすぎて、自分の攻撃が少し遅れる場面がある」


「感知と指示と攻撃を、同時に行うのは難しい」


「難しいが、できるようになれば、お前の戦闘力は更に上がる。感知と指示は意識の表層で行い、攻撃は無意識の領域で行う——それができれば、三つを同時にこなせる」


「無意識の領域で攻撃する……《全方位感知斬り》の完成形に近い」


「そうだ。お前が目指している境地は、正しい方向だ」


「ありがとうございます」


「礼はいらない。強くなれ。それが、俺への最大の礼だ」


セリアがガルドに話しかけた。


「ガルド、一つ聞いていいか」


「何だ?」


「……師匠の死について、何か知っているか?」


ガルドは少し沈黙した。


「……イリス・フロストブレードのことか」


「ああ」


「知っている。だが、今は話す時ではない。この迷宮を出た後で、話そう」


「……分かった」


セリアの表情が少し曇った。


アレンはその様子を見て、何も言わなかった。


セリアの師匠の死については、以前から気になっていた。しかし、セリアが話したくない時は、無理に聞くべきではない。


「第七層の入り口だ」


ガルドが立ち止まった。


第七層への扉は、これまでの扉とは異なっていた。


鉄製の扉に、複雑な魔法陣が刻まれており、その中央に赤い宝石が埋め込まれている。


「この扉……通常の鉄の迷宮の扉ではない」


「そうだ。誰かが、この扉を改造している」


「改造?」


「元々の扉は、もっとシンプルなものだった。この魔法陣は、後から追加されたものだ」


クロエが扉の魔法陣を調べた。


「……この術式は、魔力吸収の術式よ。扉を通過する者の魔力を一定量吸収する仕組みになっている」


「つまり、第七層に入る前に、魔力を消耗させる罠か」


「そうね。ボス戦の前に魔力を削ることで、冒険者を弱らせる目的があるわ」


「誰がこんな罠を……」


「黒蛇の牙の可能性が高い。彼らは各地の迷宮に罠を仕掛けて、冒険者を弱らせている。その目的は……まだ分からないが」


「術式を解除できるか?」


「できる。少し時間をちょうだい」


クロエは魔法書を開き、術式の解除に取り掛かった。


十分ほどで、術式の解除が完了した。


「解除できた。これで、魔力を消耗せずに扉を通れる」


「さすがだ」


ガルドが言った。


「クロエ・ルーンスクリプト——グレイの娘か」


「……ご存知なんですか?」


「グレイとは、昔から知り合いだ。優秀な魔法使いだった。娘も、同じく優秀だな」


「父を……知っているんですか?」


「ああ。詳しい話は、迷宮を出た後で」


クロエは少し複雑な表情をしたが、頷いた。


「……分かりました」


七人とガルドは、第七層への扉を開けた。





7. 第七層・鉄の王との決戦


第七層は、これまでの層とは全く異なる空間だった。


広大な円形の空間で、天井は二十メートル以上の高さがある。床は磨き上げられた鉄で覆われており、鏡のように七人の姿を映している。


空間の中央に、玉座があった。


玉座に座っているのは、鉄のアイアン・キング——高さ六メートルの巨大な鉄の人型モンスター。通常の鉄巨人より遥かに大きく、全身に精巧な装甲が施されている。頭部には王冠型の突起があり、胸には大きな赤い魔石が輝いている。


「……でかい」


カインが呟いた。


「鉄の王は、B級迷宮の中でも最強クラスのボスだ。単独で挑むS級冒険者でも、苦戦する」


ガルドが静かに言った。


「でも、八人いる」


「そうだ。連携すれば、十分に倒せる」


鉄の王がゆっくりと立ち上がった。


玉座から立ち上がる動作だけで、床が振動した。


「グォォォォ……」


低い唸り声が、空間全体に響いた。


「作戦を確認する」


アレンが言った。


「胸の魔石が弱点だが、鉄の王の装甲は通常の鉄巨人より遥かに厚い。《高温炎剣》でも、すぐには溶かせないかもしれない」


「では、どうする?」


「ガルドさん、何か情報はありますか?」


「鉄の王の装甲には、一箇所だけ薄い部分がある。左の脇腹だ。そこを集中攻撃すれば、装甲を剥がせる」


「左の脇腹か。でも、そこに近づくには、鉄の王の攻撃をかいくぐる必要がある」


「俺が注意を引きつける。お前たちが脇腹を攻撃しろ」


「ガルドさんが囮になるんですか?」


「S級の俺なら、鉄の王の攻撃を受け流せる。心配するな」


「……分かりました」


「行くぞ」


ガルドが前に出た。


「《鉄壁の構え(アイアン・ウォール・スタンス)》!」


ガルドの体が鈍い光に包まれた。


防御特化のスキル——ガルドの異名「鉄壁」の由来となった能力だ。


鉄の王が巨大な拳を振り下ろした。


「《鉄壁》!!」


ガルドは盾を構え、拳を受け止めた。


床が大きく凹んだが、ガルドは一歩も動かなかった。


「今だ! 左の脇腹へ!!」


「《高温炎剣・最大出力》!!!」


カインが鉄の王の左脇腹に全力の《高温炎剣》を叩き込んだ。


白い炎が装甲を溶かし始めた。


「《氷刃・急冷》!!」


セリアが急冷し、亀裂を入れた。


「《ウェントゥス・ラミナ・連続》!!」


アレンが連続で《風の刃》を亀裂に叩き込んだ。


装甲の一部が剥がれ、内部が露出した。


「魔石が見えた! 全員、攻撃!!」


「《高温炎剣》!!」

「《氷刃》!!」

「《ウェントゥス・ラミナ》!!」

「《闇の拘束・強化》!!」

「《聖なる光・集束》!!」

「《古代術式・貫通》!!」


六人の攻撃が魔石に集中した。


「グォォォォ!!!!」


鉄の王が激しく揺れた。


しかし、まだ倒れない。


「魔石が一つではない! 複数ある!」


「何箇所だ!?」


「……五箇所! 胸、左脇腹、右肩、腹、背中!」


「五箇所同時か……!」


「ガルドさん! 引き続き注意を引きつけてください! 俺たちが残りの魔石を探す!」


「任せろ!」


ガルドが鉄の王の正面に立ち、連続で攻撃を受け続けた。


「《鉄壁・絶対防御》!!」


ガルドの体が更に輝き、鉄の王の攻撃を全て受け止めた。


「……S級の実力、本物だ」


アレンは魔力感知で五箇所の魔石の位置を正確に把握した。


「チームを五つに分ける! 俺と——」


「待て」


ガルドが言った。


「七人を五チームに分けると、各チームの攻撃力が下がる。俺が一箇所担当する。お前たちは残りの四箇所を二人ずつで担当しろ」


「ガルドさんが攻撃に参加するんですか?」


「防御だけが俺の役目ではない。見ていろ」


ガルドは鉄の王の注意を引きつけながら、素早く動いた。


「《鉄壁・反撃》!!」


ガルドの剣が鈍い光を放ち、鉄の王の胸の魔石に叩き込まれた。


「《鉄壁・反撃》は、受けたダメージを攻撃力に変換する技だ。鉄の王の攻撃を受け続けることで、攻撃力が上がっていた」


「受けたダメージを攻撃力に……! それがS級の技か!」


「行くぞ! 同時攻撃!!」


「《高温炎剣》!!」——右肩へ。

「《氷刃》!!」——右肩へ。

「《ウェントゥス・ラミナ》!!」——腹へ。

「《聖なる光・集束》!!」——腹へ。

「《闇の拘束・貫通》!!」——背中へ。

「《古代術式・貫通》!!」——背中へ。

「《鉄壁・反撃》!!」——胸へ。

「左脇腹——《全方位感知斬り》!!!」


アレンは魔力感知で全ての魔石の位置を把握しながら、左脇腹の魔石に《全方位感知斬り》を叩き込んだ。


八人の攻撃が、五箇所の魔石に同時に命中した。


「グォォォォ!!!!!!」


鉄の王の体が激しく振動し——。


ズドォォォォン!!!!


巨大な体が、床に崩れ落ちた。


静寂が訪れた。


「……倒した」


アレンは荒い息をつきながら、鉄の王の残骸を見た。


「よし!!!」


カインが拳を突き上げた。


「B級迷宮、攻略だ!!!」


「お疲れ様でした、ガルドさん」


「……お前たちこそ。見事な連携だった」


ガルドは静かに言った。


「特に、最後の同時攻撃。八人がそれぞれの攻撃を、五箇所の魔石に同時に命中させた。あれは、普通の冒険者パーティにはできない芸当だ」


「アレンの魔力感知があったから」


「それだけではない。全員が、アレンの指示を信頼して動いた。信頼なくして、あの連携はできない」


「……ありがとうございます」





8. 迷宮核と黒蛇の牙の痕跡


鉄の王を倒した後、七人とガルドは第七層の奥を調べた。


「ガルドさんが言っていた、異常な魔力反応はどこですか?」


「この奥だ」


ガルドが案内した先に、小さな部屋があった。


部屋の中央に、迷宮核が置かれている。通常、迷宮核はボスを倒した後に出現するものだが、この迷宮核は最初からここに置かれていたようだ。


「……これは」


クロエが迷宮核を調べた。


「通常の迷宮核ではない。誰かが、迷宮核に術式を追加している」


「どんな術式だ?」


「……魔力収集の術式よ。この迷宮を通過した冒険者の魔力を少しずつ吸収して、ここに蓄積している」


「魔力を収集して、何に使う?」


「分からない。でも、かなりの量の魔力が蓄積されている。これだけの量があれば……大規模な術式を発動できる」


「大規模な術式……」


「黒蛇の牙の目的が、少し見えてきた気がする」


ガルドが静かに言った。


「各地の迷宮に罠を仕掛け、冒険者の魔力を収集する。その魔力を使って、何かをしようとしている」


「何を?」


「……まだ分からない。だが、規模から考えると、相当に大きな何かだ」


クロエが術式を解析し続けた。


「……この術式の設計者、分かるかもしれない。術式には、設計者の魔力の癖が残る」


「誰だ?」


「……まだ確信はない。でも、この術式の設計は……父の設計に似ている」


「グレイが……?」


「父が、黒蛇の牙のためにこの術式を設計した? でも、なぜ……」


「クロエ」


アレンが静かに言った。


「今は、迷宮を出ることを優先しよう。ここで考え込んでも、答えは出ない」


「……そうね」


クロエは迷宮核の術式を記録し、立ち上がった。


「この術式の記録を持ち帰って、詳しく解析する。そうすれば、父の関与が本当にあるかどうか、分かるはずよ」


「それでいい」


「……ありがとう、アレン」


「礼はいらない。行こう」





9. 迷宮の外・ガルドの話


迷宮を出ると、夕暮れの空が広がっていた。


七人とガルドは、迷宮の入り口近くに腰を下ろした。


「約束通り、話す」


ガルドが言った。


セリアが静かに頷いた。


「イリス・フロストブレードは、五年前に死んだ。黒蛇の牙の幹部に殺された」


「……誰に?」


「ラヴィア・ブラッドソードだ」


セリアの表情が、わずかに変わった。


「ラヴィアが……師匠を」


「そうだ。イリスは、黒蛇の牙が各地の迷宮に仕掛けた罠を調査していた。その過程で、ラヴィアと遭遇し、殺された」


「……なぜ、今まで教えてくれなかった?」


「お前が復讐に走ることを、恐れたからだ。イリスは、お前のことを非常に心配していた。『セリアには、復讐ではなく、自分自身の剣を見つけてほしい』と言っていた」


「師匠が……」


「イリスは、ラヴィアに殺される前に、俺に一つのことを頼んだ。『セリアが十分に強くなった時に、真実を話してくれ』と」


「……今が、その時だと?」


「そうだ。お前の剣は、今や師匠を超えている。真実を知る資格がある」


セリアはしばらく沈黙した。


その表情は、怒りでも悲しみでもなく、静かな決意に満ちていた。


「……ラヴィアと、いずれ決着をつける」


「復讐か?」


「違う。師匠の死の真相を、ラヴィア自身の口から聞く。そして、師匠が守ろうとしたものを、俺が守る」


「……イリスが聞いたら、喜ぶだろう」


「師匠には、まだ会えない。でも、いつか胸を張って報告できるようになりたい」


「なれる。お前なら」


ガルドは静かに言った。


クロエが口を開いた。


「ガルドさん、父のことを教えてください」


「グレイか……」


「父が黒蛇の牙のために術式を設計していたとしたら、なぜですか? 父は悪人ではないはずです」


「グレイは悪人ではない。だが、弱い人間だった」


「弱い?」


「グレイは、家族を守るために、黒蛇の牙に協力した。組織に脅されて、術式の設計を強いられた。本人は、それを非常に苦にしていた」


「……脅されて」


「そうだ。グレイが失踪したのは、黒蛇の牙から逃げるためだ。術式の設計を拒否した結果、命を狙われた」


「では、父は今も生きているんですか?」


「……分からない。失踪後の行方は、俺にも掴めていない。ただ、死んだという情報もない」


「生きている……かもしれない」


「可能性はある」


クロエは手紙を懐から取り出し、見つめた。


「父の手紙には、『いつかまた会える日を信じている』と書いてあった。だから……きっと、生きている」


「……そうだな」


ガルドは静かに言った。





10. 次なる旅路と新たな決意


夜が深まる中、八人は焚き火を囲んだ。


「ガルドさん、一つお願いがあります」


アレンが言った。


「何だ?」


「黒蛇の牙の情報を、共有してもらえませんか? 俺たちは、黒蛇の牙の真の目的を突き止めたい」


「俺も同じ目的だ。情報を共有することは、お互いにとって利益になる」


「ありがとうございます」


「ただし、一つ条件がある」


「何でしょう?」


「無謀な行動は慎め。お前たちは強い。だが、黒蛇の牙の全容は、まだ分かっていない。焦って動けば、罠にはまる」


「分かりました」


「それと——アレン」


「はい」


「お前の《限界突破》は、まだ本来の力の一部しか発現していない。その力が完全に覚醒した時、お前は今とは比べ物にならない強さになる」


「……どういうことですか?」


「《限界突破》は、単なる魔力増幅のスキルではない。それは、人間の可能性の限界を突破する力だ。魔法、剣技、感知——全ての能力を、人間の限界を超えて高める」


「それは……」


「今のお前は、その力の三割も使えていない。残りの七割は、まだ眠っている。それが完全に覚醒した時——お前は、この世界で最強の冒険者になる」


「最強……」


「目指すべき場所が、まだ遥か先にあるということだ。焦らず、着実に強くなれ」


「……はい」


アレンは静かに頷いた。


《限界突破》の力の全容——それを知ることが、アレンの新たな目標となった。


カインが言った。


「次はどこへ行く?」


「北の街ノースゲートだ。アリアの母の呪いを調べる」


「了解。俺たちも一緒に行く」


「ガルドさんは?」


「俺は王都に戻る。迷宮核の術式の件を、ギルドに報告しなければならない。また情報が入ったら、連絡する」


「ありがとうございます」


「お前たちの旅に、幸運があることを祈っている」


ガルドは立ち上がり、王都の方向へと歩き出した。


その背中を見送りながら、アレンは思った。


この世界には、まだ知らないことが無数にある。


黒蛇の牙の真の目的、父グレイの行方、《限界突破》の本来の力——。


全ての謎を解き明かすために、《夜明けの旅団》の旅は続く。


「行こう」


アレンが言うと、六人が頷いた。


「ああ」

「うん」

「……ええ」

「もちろん」

「……ん」

「行きましょう」


七人は焚き火を消し、夜の道を歩き出した。


北の空に、明るい星が輝いていた。





第9章 了 続く



第九章終わり!明日で10分の1完了!

みなさん楽しんでいただけてますでしょうか!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ