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異世界最強の冒険者と四人の乙女  作者: 天音シオン
第一部「覚醒編」

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第10章:北の街と貴族の陰謀

第10章:北の街と貴族の陰謀


1. ノースゲートへの道


鉄の迷宮を攻略した翌朝、《夜明けの旅団》の七人は北の街ノースゲートへ向けて出発した。


王都から北へ三日の道のりだ。


道中は、なだらかな丘陵地帯が続く。夏の終わりを告げる風が草原を渡り、遠くに雪を頂いた山脈が見える。空は高く澄み渡り、旅には絶好の天気だった。


「ノースゲートは、どんな街なんだ?」


カインが歩きながらアリアに聞いた。


アリアは少し間を置いてから答えた。


「北方の要衝ようしょうです。王国北部の防衛拠点であり、同時に北方交易の中心地でもあります。人口は王都の半分ほどですが、貴族の密度は王都より高い」


「貴族の密度が高い?」


「北方を治める大貴族家が複数あり、それぞれが街に屋敷を構えています。私の家——ヴァルハート家も、その一つです」


「ヴァルハート家……アリアの家は、大貴族なのか?」


「北方四大貴族の一つです。代々、北方の防衛を担ってきた武家です」


「そんな家の出身なのに、なぜ冒険者に?」


アリアはしばらく黙った。


「……話すと長くなります」


「時間はある。聞かせてくれないか?」


アリアは少し考えてから、静かに口を開いた。


「私は、ヴァルハート家の長女です。本来なら、家を継ぐか、政略結婚をするかのどちらかが定められた未来でした」


「政略結婚……」


「北方の別の大貴族家、クラウゼル家との婚約が、私が十五歳の時に決まりました。相手は、クラウゼル家の次男、ロード・クラウゼル」


「どんな人物だ?」


「表向きは温厚で礼儀正しい貴族です。しかし……」


アリアは言葉を選ぶように間を置いた。


「実際は、非常に残酷な人物です。使用人への扱いが酷く、弱い者を虐げることに喜びを感じる。そういう人間でした」


「それで、婚約を断ったのか?」


「断ろうとしました。しかし、父は聞き入れませんでした。ヴァルハート家とクラウゼル家の同盟は、北方の安定に不可欠だと言って」


「……」


「その頃から、母の体調が悪化し始めました。最初は単なる病気だと思っていましたが、宮廷医師も原因が分からない。体が衰弱していくだけで、何の治療も効かない」


「呪いだったのか?」


「後になって分かったことですが、そうです。誰かが母に呪いをかけた。その目的は……おそらく、私を婚約に縛り付けるためだと思います。『婚約を破棄すれば、母の呪いは解けない』という暗黙の脅しです」


「卑劣だ……」


「私は、婚約を受け入れるふりをしながら、呪いを解く方法を探し始めました。そして、ある日、家を出ました」


「家出か?」


「正確には、冒険者として旅に出ることを選びました。呪いを解く方法は、各地の迷宮や遺跡に眠る古代の知識の中にある。そう信じて」


「一人で旅に出たのか?」


「はい。最初は一人でした。その後、カインとミアと出会い、三人で旅をするようになりました」


「カインとミアとは、どこで出会ったんだ?」


「E級迷宮の入り口で、モンスターに囲まれているところを助けてもらいました」


カインが苦笑した。


「あの時は、俺たちも余裕がなかったけどな」


「でも、助けてくれた。それが全ての始まりです」


アレンは静かに聞いていた。


アリアの話は、想像以上に重い過去だった。


「呪いを解く方法は、見つかっているのか?」


「まだです。でも、クロエが術式を解析できるなら、手がかりが掴めるかもしれない」


「クロエ、どうだ?」


クロエが答えた。


「古代の呪術については、父の魔法書に記述がある。ノースゲートに着いたら、アリアのお母さんを直接診させてもらえれば、呪いの種類を特定できると思う」


「ありがとう、クロエ」


「礼はいらない。呪いを解くのは、術師として当然のことよ」


「……それでも、ありがとう」


アリアは静かに微笑んだ。


その笑顔は、普段の凛とした表情とは異なり、どこか幼い少女のような柔らかさがあった。





2. ノースゲートへの到着


三日後の夕暮れ時、七人はノースゲートに到着した。


街は、想像以上に大きかった。


高い石造りの城壁に囲まれており、北の山脈を背景に堂々とした姿を見せている。城門は二重構造で、武装した衛兵が厳重に警備していた。


「さすが北方の要衝だ。警備が厳しい」


「北方には、時折魔物の大群が現れます。その防衛のために、街の守りは常に万全に保たれています」


城門を通過すると、街の内部が広がった。


石畳の大通りには、様々な店が並んでいる。武具屋、薬草店、宝石商、食料品店——王都とは異なる、北方の実用的な雰囲気が漂っている。


「まずは宿を取りましょう。その後、母のところへ」


「分かった」


七人は大通り沿いの宿屋「北の星亭」に部屋を取った。


宿屋の主人は、アリアを見て驚いた表情をした。


「……これは、ヴァルハート家のお嬢様では?」


「久しぶりです、ハンスさん」


「いつお戻りに? ご家族はご存知で?」


「まだ知らせていません。今夜は、こちらに泊まらせてください」


「もちろんです。最上階の部屋を用意いたします」


「普通の部屋で構いません。仲間と同じ部屋数で」


「……かしこまりました」


宿屋の主人は、アリアに対して明らかに敬意を持った態度で接した。


「ヴァルハート家のお嬢様は、この街では相当な名士なんだな」


カインが小声でアレンに言った。


「そうみたいだ。アリアが普通の宿を希望したのも、目立ちたくないからだろう」


「家に帰ることを、誰かに知られたくないのか?」


「おそらく。クラウゼル家に知られると、面倒なことになる」


「なるほど……」


夕食を取った後、アリアが立ち上がった。


「母のところへ行ってきます。一人で」


「一人でか?」


「家の中のことは、家族だけで話した方がいい。クロエには、明日、母を診てもらえれば」


「……分かった。気をつけて」


「ありがとう」


アリアは宿を出て、夜の街へと消えた。





3. ヴァルハート家の夜


ヴァルハート家の屋敷は、街の北側の高台に建っていた。


三階建ての石造りの屋敷で、広い庭園に囲まれている。夜でも、屋敷の窓には明かりが灯っていた。


アリアは正門ではなく、庭園の裏口から屋敷に入った。


使用人の通路を通り、母の部屋へと向かう。


廊下を歩いていると、後ろから声がかかった。


「……アリア?」


振り返ると、三十代の女性が立っていた。


「マリア!」


「お嬢様……! お帰りになったんですね!」


マリアは、アリアが幼い頃から仕えてきた侍女だった。


「母の容態は?」


マリアの表情が曇った。


「……あまり、よくありません。この一ヶ月で、更に衰弱が進んでいます。今は、ほとんど寝たきりの状態です」


「……そうか」


「お父様は、今夜は外出されています。クラウゼル家との会食で」


「父には、まだ知らせなくていい。母に会いたい」


「はい。ご案内します」


マリアに案内され、アリアは母の部屋へと入った。


部屋は静かで、薄暗かった。


ベッドに横たわっているのは、かつては美しかった面影を残す、痩せた女性だった。


「……お母様」


アリアが近づくと、女性がゆっくりと目を開けた。


「……アリア?」


「はい。帰ってきました」


「……よかった。生きていたのね」


「はい。元気です」


母の手を取ると、その手は驚くほど細くなっていた。


「呪いを……解く方法は、見つかった?」


「見つかっていません。でも、一緒に来た仲間の中に、優秀な術師がいます。明日、診てもらいます」


「……ありがとう。でも、無理をしないで」


「無理ではありません。必ず解きます」


「アリア……」


母は弱々しく微笑んだ。


「あなたは、昔から頑固ね。お父様に似て」


「父には似たくありません」


「……そう言わないで。お父様も、あなたのことを心配しているわ。表に出せないだけで」


「……」


アリアは何も言わなかった。


「婚約のことは……どうするつもり?」


「解消します。呪いが解けた後で、正式に」


「クラウゼル家が、黙っていないわよ」


「分かっています。でも、お母様の命と引き換えにする婚約など、最初から受け入れるつもりはありませんでした」


「……強くなったのね」


「旅に出て、強くなりました。仲間もできました」


「仲間……」


「はい。信頼できる仲間が、六人います」


母の表情が、少し和らいだ。


「……それは、よかった。一人で旅をしているのが、ずっと心配だったから」


「もう一人ではありません」


「その仲間に、会いたいわ」


「明日、連れてきます」


「楽しみにしているわ……」


母はそう言って、また目を閉じた。


アリアはしばらく、母の手を握り続けた。





4. クロエの診察と呪いの正体


翌朝、アリアは六人を屋敷に連れてきた。


父は朝から外出しており、屋敷には母と使用人たちだけだった。


母はベッドの上で起き上がり、七人を迎えた。


「……アリアの仲間ね。よく来てくれました」


「お邪魔します」


「クロエ・ルーンスクリプトです。術式の解析を担当します」


クロエが前に出た。


「診させていただきます」


クロエは母の手を取り、魔力を流した。


目を閉じ、体内の術式を探る。


数分後、クロエは目を開けた。


その表情は、真剣だった。


「……呪いの種類が分かりました」


「どんな呪いだ?」


「《生命蝕む呪い(ライフ・イーター)》——古代の呪術の一つです。対象者の生命力を少しずつ吸収し、術者に送る仕組みになっています」


「生命力を吸収して、術者に送る……?」


「つまり、誰かがこの呪いを使って、お母様の生命力を吸い取っている。術者は、その生命力を何かに使っているはずです」


「何に使っているんだ?」


「……長寿の延命、または魔力の増幅に使われることが多い。古代の邪術師が好んで使った術式です」


「誰が術者だ?」


クロエは少し間を置いた。


「術式の魔力の癖から、術者を特定できます。少し時間をください」


クロエは再び目を閉じ、術式を解析した。


五分ほどで、目を開けた。


「……特定できました」


「誰だ?」


「術式の設計は……クラウゼル家の紋章魔力と一致します」


「クラウゼル家!」


アリアが立ち上がった。


「やはり……ロードが」


「正確には、クラウゼル家の専属魔法師の術式です。ロード・クラウゼル本人ではなく、彼の指示を受けた魔法師が術式をかけた可能性が高い」


「目的は……アリアを婚約に縛り付けるためか」


「そうだと思います。お母様の生命力を人質にして、アリアを支配しようとした」


「許せない……!」


カインが拳を握った。


「落ち着け、カイン」


アレンが言った。


「呪いは解けるのか、クロエ?」


「解けます。ただし、術者との魔力の繋がりを断ち切る必要があります。そのためには、術者本人か、術式の核となる魔道具を破壊しなければなりません」


「術式の核となる魔道具……どこにある?」


「術式の流れを辿れば、場所が分かります。少し待ってください」


クロエは再び術式を解析した。


「……クラウゼル家の屋敷の地下に、魔道具があります。そこが術式の核です」


「クラウゼル家の屋敷に忍び込んで、魔道具を破壊するか」


「それが最も確実な方法です」


「クラウゼル家の屋敷は、この街のどこにある?」


「街の東側です」


アリアが答えた。


「警備は厳重ですが、私は屋敷の構造を知っています。地下への入り口も、知っています」


「では、今夜、忍び込む」


「待ってください」


アリアが言った。


「忍び込む前に、一つ確認したいことがあります。クラウゼル家の屋敷には、ロードの他に、父も出入りしています。父が関与していた場合……」


「その場合は、どうする?」


「……父の関与を確認してから、判断します。もし父が知らなかったなら、父に話す機会を作りたい」


「分かった。まず情報収集をしてから、動こう」


「ありがとう、アレン」





5. 情報収集と意外な協力者


七人は手分けして、クラウゼル家の情報を集めた。


アレンとセリアは、街の酒場で情報収集を行った。


「クラウゼル家のロードについて、何か知っているか?」


アレンは酒場の常連客に話しかけた。


「ロード様ですか? 表向きは紳士的な方ですが……」


男は声を潜めた。


「裏では、かなりえぐいことをしているという噂がありますよ。使用人の扱いが酷いとか、商売相手を脅して財産を巻き上げたとか」


「具体的には?」


「半年前に、北方の商人が突然破産しましたが、あれもクラウゼル家が関係しているという話です。商人の娘が、ロード様に目をつけられて……」


「それ以上は?」


「……これ以上は、怖くて話せません。クラウゼル家の耳は、街中に及んでいますから」


「分かった。ありがとう」


セリアが言った。


「噂の規模から考えると、クラウゼル家の悪事は相当なものだ。アリアの母への呪いも、氷山の一角かもしれない」


「そうだな。ただ、今は呪いの解除に集中する」


「そうだな」


一方、カインとミアは街の武具屋で情報を集めた。


「クラウゼル家の屋敷の警備について、何か知っているか?」


武具屋の主人は、カインの冒険者証を見て少し警戒した表情をした。


「……なぜそんなことを?」


「依頼を受けた。詳しくは言えないが、クラウゼル家に関係する案件だ」


「冒険者の依頼か……」


主人は少し考えてから、声を潜めた。


「屋敷の警備は、昼間は衛兵が十人ほど。夜は二十人に増える。地下への入り口は、屋敷の東側の倉庫の床下にある。ただし、そこには魔法の罠が仕掛けられている」


「詳しいな」


「……実は、私の弟がクラウゼル家の使用人として働いていた。半年前に、理不尽な理由で解雇されてな。その時に、屋敷の内部を教えてもらった」


「クラウゼル家に、恨みがあるのか?」


「恨みがあるのは、私だけではない。この街には、クラウゼル家に泣かされた者が大勢いる」


「……なるほど」


「もし、クラウゼル家に一泡吹かせるつもりなら……応援するよ」


「ありがとう」


カインは武具屋を出た。


「クラウゼル家の悪事は、街全体に知れ渡っているんだな」


「でも、誰も動けない。それだけ力を持っているということだ」


「俺たちが動く」


「そうだな」


アリアとクロエは、街の図書館で古い記録を調べた。


「クラウゼル家の歴史……百年前に北方に移住してきた新興貴族か」


「ヴァルハート家は三百年の歴史があるが、クラウゼル家は比較的新しい」


「それでも、この百年で北方四大貴族の一つにまで成長した。それだけの力がある」


「その力の源は……」


クロエが古い記録を読み進めた。


「……あった。クラウゼル家の初代当主は、古代の魔道具を発見したことで財を成したとある」


「古代の魔道具?」


「詳細は書かれていないが……もしかしたら、その魔道具が今も使われているのかもしれない」


「生命力を吸収する魔道具……古代の邪術師が作ったものか」


「可能性は高い。クラウゼル家は、その魔道具を代々使い続けることで、力を維持してきたのかもしれない」


「許せない……」


「感情的になるのは分かるが、今は冷静に」


「……分かっている」


夕方、七人は宿屋に集まり、情報を共有した。


「クラウゼル家の屋敷の地下に、古代の魔道具がある。それが呪いの核だ。今夜、忍び込んで破壊する」


「警備は夜間に二十人に増える。魔法の罠もある」


「クロエが罠を解除できるか?」


「できる。ただし、時間がかかる。その間、警備の目を引きつける必要がある」


「俺とカインで、表から陽動をかける。その間に、クロエとアリアが地下に入る」


「待ってください」


アリアが言った。


「一つ、提案があります」


「何だ?」


「父に話す機会を、今夜作りたい。父がクラウゼル家の悪事を知らないなら、父の力を借りることができる。ヴァルハート家が動けば、クラウゼル家への圧力になる」


「父親が信用できるか?」


「……分かりません。でも、試してみたい」


「リスクがある。父親がクラウゼル家に情報を流す可能性も」


「それでも、試したい。父は、根本的には悪い人間ではないと信じています」


アレンは少し考えた。


「……分かった。父親に話す機会を作ろう。ただし、俺たちも同席する。何かあれば、すぐに動ける状態で」


「ありがとう」


「父親はどこにいる?」


「夕方には屋敷に戻るはずです。今夜、会いに行きましょう」


6. 父との対話


夜、七人はヴァルハート家の屋敷を訪れた。


正門から入ると、使用人が驚いた表情でアリアを出迎えた。


「お嬢様……! お父様に、お知らせします」


「待ってください。私から話します」


アリアは使用人を制し、父の書斎へと向かった。


書斎の扉をノックすると、低い声が返ってきた。


「誰だ」


「アリアです」


しばらく沈黙があった。


「……入れ」


書斎に入ると、五十代の男性が机の前に座っていた。


白髪交じりの黒髪に、厳格な表情。アリアと同じ灰色の瞳を持つ、ヴァルハート家の当主——エドワード・ヴァルハートだ。


「……帰ってきたか」


「はい」


「無断で家を出て、一年以上。心配したぞ」


「……申し訳ありませんでした」


「謝罪は後でいい。まず、その者たちは?」


エドワードは、アリアの後ろに立つ六人を見た。


「私の仲間です。《夜明けの旅団》のメンバーです」


「冒険者か」


「はい」


エドワードは六人を一人ずつ見た。


その目は鋭く、人物を見極めようとしている。


「……座れ」


全員が椅子に座った。


「アリア、なぜ帰ってきた?」


「お母様の呪いを解くためです」


エドワードの表情が、わずかに変わった。


「呪い……お前も、そう思っていたのか」


「思っていたのではなく、確認しました。仲間の術師が、呪いの種類と術者を特定しました」


「術者が分かったのか?」


「はい。クラウゼル家の専属魔法師が術式をかけていました。術式の核となる魔道具が、クラウゼル家の屋敷の地下にあります」


エドワードは長い沈黙の後、静かに言った。


「……知っていた」


「え?」


「クラウゼル家が、何かを仕掛けているのは知っていた。だが、それが呪いだとは……確証が持てなかった」


「なぜ、動かなかったんですか?」


「動けなかった。クラウゼル家は、ヴァルハート家の財政的な弱点を握っている。動けば、ヴァルハート家が潰れる」


「財政的な弱点……」


「十年前、北方に大規模な魔物の群れが現れた。その討伐に莫大な費用がかかり、ヴァルハート家は借金を抱えた。その借金を肩代わりしたのが、クラウゼル家だ」


「借金を盾に、ヴァルハート家を支配しているのか」


「そうだ。アリアとロードの婚約も、その一環だ。婚約が成立すれば、借金は帳消しになる」


「……お父様は、お母様が呪われていると知りながら、婚約を進めようとしていたんですか?」


エドワードは目を伏せた。


「……そうだ。恥ずかしいことだが、そうだ。妻を救う方法が分からず、クラウゼル家に逆らえず……俺は、何もできなかった」


「お父様……」


「アリア、お前が家を出た時、俺は怒りよりも安堵を感じた。お前がロードのもとに行かずに済むと思って」


「……え?」


「ロードが、どんな人間か、俺は知っている。お前をあんな男に嫁がせたくなかった。しかし、家の事情が……」


エドワードは拳を握った。


「俺は、父親として失格だ。妻を守れず、娘を守れず……」


「お父様」


アリアが立ち上がり、父の前に立った。


「今からでも、遅くはありません」


「……何?」


「私たちが、今夜、クラウゼル家の屋敷に忍び込んで、魔道具を破壊します。呪いを解きます。その後、クラウゼル家の悪事を公にします。お父様には、その証言をしてほしい」


「俺が証言すれば、クラウゼル家は終わる。しかし、借金の問題が……」


「借金は、私たちが解決します」


「どうやって?」


「B級迷宮の攻略報酬は、相当な額になります。それで、借金の一部を返済できます。残りは、クラウゼル家の悪事が公になれば、王国が介入するはずです。不正に得た財産は没収されます」


「……そこまで考えているのか」


「はい」


エドワードはしばらく沈黙した。


その目に、何かが変わっていくのが見えた。


「……分かった。協力する」


「ありがとうございます、お父様」


「アリア……本当に、強くなったな」


「仲間のおかげです」


エドワードは七人を見た。


「……娘を、よろしく頼む」


「はい」


アレンが答えた。





7. クラウゼル家の地下へ


深夜、七人はクラウゼル家の屋敷に向かった。


エドワードから屋敷の詳細な地図を受け取り、地下への入り口の正確な位置も教えてもらった。


「地下への入り口は、東側の倉庫の床下。魔法の罠が三重に仕掛けられている」


「三重か。解除に時間がかかるな」


「私が解除する。十分ほどあれば、できる」


「その間、警備の目を引きつける」


作戦は単純だった。


アレン、カイン、セリアが表から陽動をかけ、警備の注意を引きつける。その間に、クロエ、アリア、リリス、ミアが裏から侵入し、地下の魔道具を破壊する。


「行くぞ」


七人は二手に分かれた。


アレン、カイン、セリアは屋敷の正門前に現れた。


「《夜明けの旅団》だ。クラウゼル家に用がある」


衛兵が驚いた。


「何者だ!」


「冒険者だ。クラウゼル家の不正について、調査に来た」


「不審者め! 捕まえろ!」


衛兵たちが一斉に動いた。


「来い」


アレンは衛兵たちを引きつけながら、屋敷の正面で戦闘を開始した。


「《ウェントゥス・ラミナ》!」


「《高温炎剣》!」


「《氷刃》!」


三人は衛兵を傷つけないよう、魔法と剣技で牽制しながら、時間を稼いだ。


一方、裏手では——。


「入り口はここ」


アリアが倉庫の床板を外した。


地下への階段が現れた。


「罠の解除を始める」


クロエが魔力を流し、罠の術式を解析した。


「一つ目……解除」


「二つ目……解除」


「三つ目……少し複雑ね。もう少し時間を」


「急いで。表の三人が持ちこたえられる時間は限られている」


「分かっている……解除!」


三重の罠が全て解除された。


「行きましょう」


四人は地下へと降りた。


地下は広い空間で、棚に様々な魔道具が並んでいた。


「魔道具の核は……どこ?」


クロエが魔力感知を使った。


「……あそこ」


空間の奥に、台座に置かれた黒い宝石があった。


大きさは拳ほどで、内部に赤い光が脈動している。


「これが、《生命蝕む呪い》の核か」


「そうよ。この宝石を破壊すれば、呪いは解ける」


「破壊できるか?」


「物理的な破壊は難しい。術式で解除する必要がある」


「どのくらい時間がかかる?」


「……五分」


「急いで」


クロエは宝石の前に立ち、術式の解除を始めた。


その時、地下への階段から足音が聞こえた。


「誰かいる!」


ミアが振り返った。


階段を降りてきたのは、黒いローブを纏った男だった。


年齢は四十代ほど。細い目に、冷たい笑みを浮かべている。


「……ずいぶんと、よく調べたものだ」


「誰だ?」


「クラウゼル家の専属魔法師、ゼノン・ダークアーツだ。この魔道具の管理者でもある」


「お前が、呪いをかけた術師か!」


「そうだ。しかし、残念だったな。この魔道具には、侵入者を感知する術式も仕掛けてある。お前たちが地下に入った瞬間に、私に知らせが届いた」


ゼノンが手を上げた。


「《呪縛の鎖》!」


黒い鎖が四人に向かって飛んできた。


「《闇の拘束》!!」


ミアが反応し、ゼノンの《呪縛の鎖》に《闇の拘束》をぶつけた。


二つの闇魔法がぶつかり合い、相殺された。


「……闇魔法使いか。面白い」


「クロエ、続けて! 私たちがゼノンを止める!」


「分かった!」


アリアとミアがゼノンの前に立った。


「《聖なる光》!!」


アリアの聖属性魔法がゼノンに向かって放たれた。


「《闇の盾》!」


ゼノンが闇の盾で防いだ。


「聖属性と闇属性……相性が悪いな」


「でも、私には闇魔法もある! 《闇の拘束・強化》!!」


ミアが強化した《闇の拘束》をゼノンの足に絡みつかせた。


「……なかなかやるな」


ゼノンの動きが制限された。


「クロエ、急いで!」


「もう少し……!」


クロエは術式の解除に集中した。


宝石の赤い光が、徐々に弱まっていく。


「……解除!!」


宝石の赤い光が消え、宝石が黒く変色した。


「《古代術式・破砕》!!」


クロエが術式を発動し、宝石を粉砕した。


宝石が砕け散り、黒い霧が立ち上った。


「……ぐっ!」


ゼノンが苦しそうに顔を歪めた。


「術式が……解除された……!?」


「終わりよ」


クロエが静かに言った。


「《古代術式・封印》!!」


クロエの術式がゼノンの体を包み、魔力を封じた。


ゼノンが床に崩れ落ちた。


「……やった」


「呪いが解けた」





8. 呪いの解除と朝の光


地上に戻ると、アレンたちが衛兵を制圧し終えていた。


「遅かったな」


「少し手間取った。でも、成功した」


「呪いは解けたか?」


「解けた。魔道具も破壊した」


「よし」


七人はヴァルハート家の屋敷に急いだ。


母の部屋に入ると、マリアが驚いた表情で迎えた。


「お嬢様……! お母様が、急に……!」


「どうした!?」


「体の色が、急に良くなって……!」


母のベッドに近づくと、確かに顔色が変わっていた。


蒼白だった顔に、わずかに赤みが戻っている。


「……お母様」


「……アリア?」


母が目を開けた。


その目に、以前より力があった。


「……体が、軽い。久しぶりに、体が軽い気がする」


「呪いが解けました。もう大丈夫です」


「……本当に?」


「はい」


母の目に、涙が浮かんだ。


「……ありがとう。本当に……ありがとう」


「お母様……」


アリアも涙をこらえながら、母の手を握った。


エドワードが部屋に入ってきた。


その目を見て、アレンは気づいた。


エドワードも、泣いていた。


「……よかった」


エドワードは妻の手を取り、静かに言った。


「ごめん。守れなくて、ごめん」


「……エドワード」


「これからは、守る。必ず」


「……信じているわ」


部屋の中に、静かな時間が流れた。


アレンたちは、そっと部屋の外に出た。


「……よかったな」


カインが言った。


「ああ」


「アリアが、少し泣いていたな」


「見ていたのか?」


「ちらっとな。あいつ、普段は凛としているから……泣いている顔は、なんか、こう……」


「カイン」


「何だ?」


「余計なことは言わなくていい」


「……そうだな」


カインは苦笑した。





9. クラウゼル家の崩壊


翌日、エドワードはヴァルハート家の名のもとに、クラウゼル家の不正を王国に告発した。


証拠は、破壊された魔道具の残骸と、捕縛されたゼノンの証言だ。


クロエが魔道具の術式を記録した証拠書類も添付された。


王国の調査団が派遣され、クラウゼル家の屋敷が捜索された。


地下からは、魔道具の残骸だけでなく、他にも多数の不正の証拠が発見された。


街の商人から不正に巻き上げた財産の記録、使用人への虐待の記録、他の貴族家への脅迫状——。


ロード・クラウゼルは、王国の騎士団に連行された。


「クラウゼル家は、これで終わりか」


カインが言った。


「終わりだな。百年かけて積み上げた悪事が、一夜で崩れた」


「アリアのお母さんが助かって、クラウゼル家が潰れて……今回は、うまくいったな」


「うまくいったのは、アリアが父親を信じたからだ。あの判断がなければ、こうはならなかった」


「アリアは、強いな。外見だけじゃなく、内面も」


「そうだな」


アリアが近づいてきた。


「ありがとうございました。皆さんのおかげです」


「礼はいらない。仲間だから」


「……それでも、言わせてください。本当に、ありがとうございました」


アリアは七人に深々と頭を下げた。


「顔を上げろ。お前が礼を言うべき相手は、俺たちじゃなくて、お父さんだ」


「……そうですね」


アリアは父の方を見た。


エドワードが近づいてきた。


「アリア、改めて謝る。長い間、苦労をかけた」


「お父様……」


「これからは、ヴァルハート家の当主として、正しく動く。クラウゼル家の借金問題も、王国の支援を受けながら解決する」


「はい」


「お前の婚約は、正式に破棄する。お前の人生は、お前が決めろ」


「……ありがとうございます、お父様」


二人は、初めて、父娘として向き合った。





10. 旅の続きへ


ノースゲートに滞在して三日後、七人は次の目的地へと出発することにした。


「次はどこへ?」


「A級迷宮「氷の迷宮アイス・ダンジョン」だ。北方の山脈の奥にある」


「氷の迷宮……俺の《高温炎剣》が有効そうだな」


「そうだ。ただし、氷の迷宮は環境が過酷だ。極寒の中での戦闘になる。防寒の準備が必要だ」


「リリスが、防寒の薬を調合してくれるか?」


「もちろん。《耐寒薬コールド・レジスト・ポーション》を七人分、作っておくわ」


「ありがとう」


出発の朝、エドワードが七人を見送りに来た。


「アリア、また帰ってこい。いつでも、ここがお前の家だ」


「はい。必ず」


「……仲間たちも、いつでも歓迎する」


「ありがとうございます」


母も、部屋の窓から手を振った。


まだ体力は戻っていないが、顔色は確実に良くなっている。


「行ってきます、お母様」


「気をつけてね。……仲間を大切に」


「はい」


七人は北の街ノースゲートを後にした。


北の山脈が、朝の光の中で輝いている。


「セリア」


アレンが言った。


「何だ?」


「氷の迷宮には、ラヴィアが関係しているかもしれない。覚悟はできているか?」


「……ああ」


セリアは静かに答えた。


「師匠の死の真相を知った。ラヴィアとの決着は、いずれつける。だが、今は焦らない。十分に強くなってから、向き合う」


「それでいい」


「……アレン、お前は俺が感情的になりそうな時、いつも冷静に引き止めてくれるな」


「お前が感情的になりそうな時は、分かる」


「なぜ?」


「……分からない。ただ、分かる」


セリアは少し笑った。


「不思議なやつだ、お前は」


「よく言われる」


七人は山道を歩き始めた。


北の山脈の奥に、氷の迷宮が待っている。


そして、その先に——まだ見ぬ強敵と、更なる成長が待っている。


《夜明けの旅団》の旅は、まだ始まったばかりだ。





第10章 了 続く




◆ 第10章時点 主要キャラクター能力値一覧

能力値は、冒険者ギルドの公式鑑定基準に基づく数値である。最大値は通常1000(HP・MP以外)だが、スキルや特殊能力によって上限を超える場合がある。



■ アレン・クロスブレイド(主人公)

| 項目 | 数値 | 備考 |

| --- | --- | --- |

| **等級** | E級(実力はB〜A級相当) | ギルド未更新 |

| **レベル** | 28 | |

| **HP** | 1,840 | |

| **MP** | 2,210 | |

| **筋力** | 312 | |

| **敏捷** | 398 | |

| **魔力** | 445 | |

| **防御** | 280 | |

| **感知** | 520 (全方位感知)により突出 |

| **固有スキル** | 《限界突破リミット・ブレイク》 | 現在覚醒度30%。全能力値に恒常的な補正がかかる |

| **習得魔法** | 《風のウェントゥス・ラミナ》《火球フラム・グロブス》《光の灯火》 | |

| **習得剣技** (全方位感知斬り)《炎刃》 | |


■ セリア・フロストブレード

| 項目 | 数値 | 備考 |

| --- | --- | --- |

| **等級** | B級 | |

| **レベル** | 35 | |

| **HP** | 1,620 | |

| **MP** | 1,480 | |

| **筋力** | 390 | |

| **敏捷** | 470 | パーティ最速 |

| **魔力** | 310 | |

| **防御** | 340 | |

| **感知** | 380 | |

| **固有スキル** (氷の加護) | 氷属性魔法の威力・精度が大幅に上昇 |

| **習得魔法** | 《氷刃グラキエス・ラミナ》《氷壁》《急冷》 | |

| **習得剣技** (霜刃連撃)《氷結突き》 | |


■ クロエ・ルーンスクリプト

| 項目 | 数値 | 備考 |

| --- | --- | --- |

| **等級** | B級 | |

| **レベル** | 33 | |

| **HP** | 1,120 | |

| **MP** | 2,680 | パーティ最高 |

| **筋力** | 180 | |

| **敏捷** | 260 | |

| **魔力** | 580 | 術式使いとして突出 |

| **防御** | 200 | |

| **感知** | 440 | 術式感知に特化 |

| **固有スキル** (古代術式の血統) | 古代魔法の習得・発動速度が大幅に上昇。術式解析能力が異常に高い |

| **習得魔法** (古代術式・貫通)《古代術式・封印》《古代術式・破砕》《治癒》 | |

| **習得剣技** | なし | |


■ リリス・グリーンハーブ

| 項目 | 数値 | 備考 |

| --- | --- | --- |

| **等級** | C級 | |

| **レベル** | 29 | |

| **HP** | 1,280 | |

| **MP** | 1,650 | |

| **筋力** | 210 | |

| **敏捷** | 310 | |

| **魔力** | 360 | |

| **防御** | 240 | |

| **感知** | 350 | |

| **固有スキル** (精霊の加護) | 精霊魔法の威力上昇。薬草の効果を最大限に引き出す調合能力 |

| **習得魔法** (精霊召喚)《風の精霊・加速》《火の精霊・攻撃》 | |

| **調合スキル** (上位回復薬)《耐毒薬》《耐寒薬》《万能回復薬(試作)》 | |


■ カイン・エンバーフィスト

| 項目 | 数値 | 備考 |

| --- | --- | --- |

| **等級** | C級 | |

| **レベル** | 30 | |

| **HP** | 1,980 | パーティ最高HP |

| **MP** | 1,100 | |

| **筋力** | 480 | パーティ最高 |

| **敏捷** | 340 | |

| **魔力** | 240 | |

| **防御** | 420 | |

| **感知** | 220 | |

| **固有スキル** | なし(第46章で「炎の加護」が覚醒予定) | |

| **習得魔法** | 《炎剣フラム・グラディウス》《高温炎剣ハイ・フレイム・ソード》 | |

| **習得剣技** (炎剣・薙ぎ払い)《炎剣・最大出力》 | |


■ ミア・シャドウヴェール

| 項目 | 数値 | 備考 |

| --- | --- | --- |

| **等級** | C級 | |

| **レベル** | 28 | |

| **HP** | 1,050 | |

| **MP** | 1,890 | |

| **筋力** | 170 | |

| **敏捷** | 350 | |

| **魔力** | 430 | |

| **防御** | 190 | |

| **感知** | 400 | |

| **固有スキル** (闇の適性) | 闇属性魔法の威力・範囲が大幅に上昇 |

| **習得魔法** | 《闇の拘束シャドウ・バインド》《闇の拘束・強化》《闇の拘束・貫通》《闇の盾》 | |

| **習得剣技** | なし | |


■ アリア・ヴァルハート

| 項目 | 数値 | 備考 |

| --- | --- | --- |

| **等級** | C級 | |

| **レベル** | 31 | |

| **HP** | 1,350 | |

| **MP** | 1,920 | |

| **筋力** | 250 | |

| **敏捷** | 320 | |

| **魔力** | 470 | |

| **防御** | 290 | |

| **感知** | 380 | |

| **固有スキル** (聖なる血統) | 聖属性魔法の威力・回復量が大幅に上昇。第59章で「神聖属性」へ覚醒予定 |

| **習得魔法** (聖なる光)《聖なる光・回復》《聖なる光・集束》《聖なる光・広域》 | |

| **習得剣技** | なし | |




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