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異世界最強の冒険者と四人の乙女  作者: 天音シオン
第二部「成長編」

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第13章:毒と雷の交錯

第13章:毒と雷の交錯


1. 次の目的地へ


ウィンドゲートを出発した翌朝、七人は南東へと向かっていた。


ライガから提供された情報によれば、次の《魔力収集装置》は南東の森の奥にある《毒霧の迷宮ポイズン・ミスト・ダンジョン》に設置されている。


「《毒霧の迷宮》か。名前からして厄介そうだな」


カインが馬車の窓から外を見ながら言った。


「ああ。迷宮全体に毒の霧が充満している。通常の防毒手段では、長時間の滞在が難しい」


「リリスの《耐毒薬》があれば大丈夫か?」


「通常の毒には有効だ。ただし、迷宮内の毒の霧は、通常の毒より濃度が高い可能性がある」


「強化版の《耐毒薬》を作れるか?」


リリスが考え込んだ。


「《強化耐毒薬ハイ・アンチポイズン・ポーション》なら作れる。ただし、材料が必要だ。《毒消しアンチポイズン・ハーブ》と《浄化水晶ピュリファイ・クリスタル》があれば」


「どこで手に入る?」


「南東の街サウスゲートに、薬草商がいるはずだ。そこで調達できると思う」


「サウスゲートに立ち寄ってから、迷宮へ向かう」


「分かった」


ライガも同行していた。


七人の後ろに座り、腕を組んで目を閉じている。


「ライガ、《毒霧の迷宮》の担当幹部は誰だ?」


「……第三幹部の《毒牙》シルヴィア・ヴェノムだ」


「どんな人物だ?」


「二十代の女性。毒属性の魔法を極めた術師だ。見た目は華やかだが、戦闘能力は俺に匹敵する」


「お前に匹敵する……」


「俺が第二幹部で、シルヴィアが第三幹部だ。ただし、戦闘能力だけで言えば、俺より上かもしれない」


「それほどか」


「毒属性の魔法は、対処が難しい。即効性の毒、遅効性の毒、精神に作用する毒——様々な種類を使い分ける。さらに、毒の霧を自在に操り、視界を遮ることもできる」


「視界を遮られると、俺の感知が頼りになるな」


「そうだ。お前の《全方位感知》は、視界に依存しない。シルヴィアの毒霧の中でも、有効なはずだ」


「分かった。参考にする」


馬車が進む中、アレンは雷属性魔法の修練を続けた。


昨日、指先に微弱な電気を走らせることに成功した。今日は、その電気を少しずつ大きくする練習だ。


「……走れ」


指先に魔力を集中させ、「走らせる」イメージを作る。


微弱な電気が、指先から手のひら全体に広がった。


「……広がった」


「進歩しているな」


セリアが横から見ていた。


「まだ弱い。術式として発動するには、もっと密度を上げる必要がある」


「どのくらいかかりそうだ?」


「……今日中に、最低限の発動はできると思う。完全な習得には、もう少しかかるが」


「今日中か。早いな」


「《全方位感知斬り》を習得した時の感覚と、似ている部分がある。感覚を掴めば、あとは密度の問題だ」


「《絶零剣》も、同じ感覚だ。感覚は掴めた。あとは密度と制御の問題だ」


「お互い、修練を続けよう」


「ああ」





2. サウスゲートでの準備


サウスゲートは、王国の南東部に位置する中規模の街だった。


商業が盛んで、薬草や魔道具の取引が活発だ。街の中心には大きな市場があり、様々な商人が店を構えている。


「薬草商はどこだ?」


「市場の奥に、《緑の薬草屋》という店がある。品揃えが王国一だと聞いている」


「行ってみよう」


《緑の薬草屋》は、市場の奥の小さな店だった。


しかし、店の中に入ると、壁一面に薬草が並んでおり、その種類の多さに驚いた。


「いらっしゃい。何をお探しで?」


店主は小柄な老婆だった。白髪で、目が細く、しかし目の奥に鋭い光がある。


「《毒消し草》と《浄化水晶》を探している」


「ほう。《強化耐毒薬》を作るつもりかい?」


「そうだ。《毒霧の迷宮》に入る予定がある」


老婆の目が細くなった。


「《毒霧の迷宮》か。最近、あそこがおかしくなっているという噂は聞いているよ。毒の霧が濃くなって、近くの村の農作物が枯れ始めているとか」


「黒蛇の牙が、迷宮の魔力を操作している。それが原因だ」


「……そうかい。なら、急いだ方がいい。《毒消し草》は十本、《浄化水晶》は五個、在庫がある。全部持っていきな」


「いくらだ?」


「お代はいらない。あの迷宮を何とかしてくれるなら、それで十分だ。近くの村の人々が困っているのを見ていられない」


「……ありがとう」


「気をつけておくれ。《毒霧の迷宮》は、毒だけでなく、精神に作用する霧もある。判断力が鈍ることがある。仲間を信じることが大切だよ」


「分かった」


リリスが《毒消し草》と《浄化水晶》を受け取り、その場で《強化耐毒薬》の調合を始めた。


「三十分で完成する」


「その間に、情報を集めよう」


アレンはガルドに連絡を取った。


ガルドからの返信には、《毒霧の迷宮》の最新情報が記されていた。


「ガルドからの情報だ。《毒霧の迷宮》の周辺で、黒蛇の牙の手下が大規模に展開している。装置の警備が、《嵐の迷宮》より厚い」


「《嵐の迷宮》の装置が破壊されたことで、警戒が強まったのか」


「そうだ。シルヴィアが直接指揮を執っているという情報もある」


「手強くなったな」


「ただし、ガルドから別の情報もある。《毒霧の迷宮》の近くの村に、黒蛇の牙に捕まっている人質がいるという」


「人質?」


「村人が何人か、黒蛇の牙に捕まっている。装置の警備に協力させるための人質だ。村の冒険者たちが手を出せない状況になっている」


「人質を先に解放する必要があるな」


「そうだ。作戦を変える必要がある」


リリスが《強化耐毒薬》を完成させた。


「完成した。七人分、それとライガの分も作った」


「ありがとう。ライガも飲んでくれ」


「……俺の分まで作ってくれたのか」


「仲間だから」


ライガは少し驚いた表情を見せた。


「……ありがとう」


「行こう」





3. 人質の救出


《毒霧の迷宮》の近くの村は、静まり返っていた。


村人の姿がなく、家々の扉が閉まっている。


「……人がいない」


「黒蛇の牙が村を制圧しているのか」


「村の中心の広場に、黒蛇の牙の手下がいる。魔力感知で確認できる」


「人質は?」


「……広場の近くの建物の中に、複数の人の気配がある。動きが少ない。拘束されているのかもしれない」


「救出作戦を立てる」


アレンは地図を広げた。


「村の構造を確認する。広場は村の中心、人質がいる建物は広場の東側。手下は広場に十五人ほど、建物の周辺に五人」


「合計二十人か」


「ただし、建物の中の人質を傷つけないように動く必要がある。正面からの攻撃は避ける」


「陽動と潜入の二手に分かれるか」


「そうだ。俺、カイン、ライガが広場で陽動をかける。セリア、アリア、クロエ、リリス、ミアが建物に潜入して人質を救出する」


「了解」


「人質を救出したら、合図を送ってくれ。合図を受けたら、俺たちが全力で手下を制圧する」


「合図は《聖なる光》の短い発光でいいか?」


「それでいい」


作戦通り、三人が広場に現れた。


「黒蛇の牙の者たちよ! 《夜明けの旅団》だ! 人質を解放しろ!」


手下たちが一斉に動いた。


「《夜明けの旅団》!? 捕まえろ!!」


「《ウェントゥス・ラミナ》!!」

「《超高温炎剣》!!」

「《雷の盾》!!」


三人が手下たちを引きつけながら、広場で戦闘を開始した。


一方、建物では——。


「入り口に見張りが二人。私が《氷刃》で武器を凍らせる。ミアが《闇の拘束》で動きを止める」


「了解」


「《氷刃》!!」

「《闇の拘束》!!」


二人の見張りが、静かに無力化された。


「建物の中へ」


セリアが先頭に立ち、建物の中に入った。


中は薄暗く、複数の人が縛られて座っていた。


「……! 助けに来てくれたのか!」


「静かに。まだ外に手下がいる」


「分かった……!」


アリアが縄を切り、クロエが拘束の術式を解除した。


「全員、無事か?」


「怪我をしている人が二人いる」


「《聖なる光・回復》!!」


アリアが回復魔法を使い、怪我人を治療した。


「全員、救出完了」


「合図を送る」


アリアが窓から《聖なる光》を短く発光させた。


広場では——。


「合図が来た! 全力で片付ける!」


「《ウェントゥス・ラミナ》!!」

「《超高温炎剣》!!」

「《雷の盾・解放》!!」


三人が一気に手下を制圧した。


「全員、制圧完了!」


「こちらも完了!」


人質の救出と手下の制圧が、ほぼ同時に終わった。


「よし! 迷宮へ向かう!」





4. 毒霧の迷宮へ


《毒霧の迷宮》は、村から半時間ほど歩いた森の奥にあった。


迷宮の入り口に近づくと、薄緑色の霧が漂っているのが見えた。


「……これが、毒の霧か」


「ああ。《強化耐毒薬》を飲んでいれば、通常の毒には耐えられる。ただし、精神に作用する霧には注意が必要だ」


「精神に作用する霧……どんな症状が出る?」


「判断力の低下、幻覚、仲間への不信感——様々だ。自分が毒の影響を受けていることに気づかないことが多い」


「どうすれば気づける?」


「仲間が変だと感じたら、すぐに声をかけること。一人で判断しないこと。それが大切だ」


「分かった。全員、互いを見ていてくれ」


「了解」


八人は《強化耐毒薬》を飲み、迷宮へと踏み込んだ。


迷宮の内部は、外以上に濃い霧が充満していた。


視界は三メートルほどしかなく、前方が見えない。


「視界がほぼない。感知に頼る」


「俺の感知で、全員の位置と前方の状況を把握する。声で指示を出す」


「了解」


「全員、俺の声に従って動いてくれ。勝手に動くな」


「分かった」


アレンは魔力感知を全方位に広げた。


霧の中でも、魔力感知は有効だ。モンスターの魔力、手下の魔力、そして装置の魔力——全てが感知できる。


「前方三十メートルに、モンスターが五体。右の通路に手下が三人。左の通路は安全だ。左へ進む」


「了解」


八人は左の通路を進んだ。


第一層のモンスターは、毒蜘蛛ポイズン・スパイダーだった。


体長一メートルほどの蜘蛛型モンスターで、全身から毒の糸を吐き出す。


「毒の糸に触れるな。《強化耐毒薬》でも、直接触れると毒が回る速度が速くなる」


「どうやって倒す?」


「炎で焼く。毒の糸は、炎に弱い」


「《超高温炎剣》!!」


カインが炎の剣で毒蜘蛛を一気に焼いた。


「《精霊召喚・火の精霊》!!」


リリスの火の精霊が残りの毒蜘蛛を焼き払った。


「よし、第一層突破!」


第二層では、毒蛙ポイズン・フロッグが出現した。


体長二メートルほどの蛙型モンスターで、口から毒の液体を噴射する。


「毒の液体は、広範囲に飛び散る。散開して対処する」


「《ウェントゥス・ラミナ》!!」


アレンが《風の壁》で毒の液体を散らした。


「《氷壁》!!」


セリアが氷の壁で毒の液体を遮断した。


「今だ! 攻撃!!」


「《全方位感知斬り》!!」

「《超高温炎剣》!!」

「《聖なる光・集束》!!」


三つの攻撃で毒蛙を倒した。


「第二層突破!」


第三・四層も順調に突破し、七人は第五層へと進んだ。





5. 精神毒の霧


第五層に入ると、霧の色が変わった。


薄緑色から、紫色へ。


「……霧の色が変わった」


「精神に作用する霧だ。注意しろ」


「《強化耐毒薬》は効くか?」


「……効果が薄い。精神毒は、通常の毒とは異なる。完全には防げない」


「どのくらいの時間で影響が出る?」


「個人差がある。強い精神力を持つ者は、長時間耐えられる。しかし、いずれは影響が出る」


「急いで通り抜ける」


「そうだ。この層に長居するな」


八人は急いで第五層を進んだ。


しかし、十分ほど経つと、変化が現れた。


「……アレン」


カインが言った。


「何だ?」


「……お前、本当に俺たちの仲間か?」


「何?」


「お前は、異世界から来た人間だ。俺たちとは違う。本当に、俺たちのことを仲間だと思っているのか?」


「……カイン、精神毒の影響が出ている」


「違う。これは、俺が前から思っていたことだ。お前は、いつも俺たちを利用しているだけじゃないのか?」


「カイン!」


ミアがカインの腕を掴んだ。


「カイン、おかしい。いつものカインじゃない」


「……!」


カインが我に返った。


「……俺は、何を言っていた?」


「精神毒の影響だ。俺を疑っていた」


「……すまない。そんなつもりは……」


「分かっている。精神毒のせいだ。気にするな」


「……でも、俺は本当に、そんなことを思っていたのか?」


「思っていない。精神毒は、心の奥の不安を増幅させる。お前の心の奥に、俺への不安があったわけじゃない。ただ、毒が作り出した幻だ」


「……そうか」


「急いで通り抜ける。全員、互いの手を繋いで進む。離れるな」


「了解」


八人が手を繋いで進んだ。


精神毒の霧の中で、手の温かさが現実を確認させてくれる。


「……大丈夫か?」


「……大丈夫。アレンの手が、温かい」


アリアが小さく言った。


「……そうか」


「精神毒が、少し怖かった。でも、手を繋いでいると、怖くない」


「俺も、同じだ」


「……アレンも、怖いのか?」


「精神毒の影響は、俺にも出ている。でも、皆の手の温かさが、正気を保たせてくれる」


「……そうか」


「急いで進む」


第五層を抜けると、霧の色が元に戻った。


「……抜けた」


「全員、無事か?」


「……うん」

「大丈夫だ」

「……ええ」

「問題ない」

「……ん」

「はい」

「……俺も、大丈夫だ」


全員が無事だった。


「よし。第六層へ進む」


6. 毒牙シルヴィアとの対峙


第六層を抜け、第七層に入ると——人の気配があった。


「……一人。強い魔力だ」


「シルヴィアか」


「おそらく」


第七層の中央に、《魔力収集装置》があった。


《嵐の迷宮》のものと同じ形状の黒い球体だが、表面に毒の紋様が刻まれている。


球体の前に、一人の女性が立っていた。


年齢は二十代後半ほど。長い紫色の髪に、緑色の瞳。細身の体に、黒いドレスを纏っている。その美しさは際立っているが、その目には冷たい光があった。


「……来たか、《夜明けの旅団》」


「《毒牙》シルヴィアか」


「そうよ。それと——ライガ、あなたも来たのね」


シルヴィアがライガを見た。


「……ああ」


「裏切り者」


「……そうだな」


「蛇王様は、あなたのことを探している。捕まれば、どうなるか分かっているでしょう?」


「分かっている。それでも、俺は間違っていたと思った」


「間違っていた……」


シルヴィアは少し笑った。


「あなたらしくない言葉ね。ライガ、あなたはいつも、力で全てを解決しようとしていた。それが間違っていたと?」


「力だけでは、変えられないものがある。それを、こいつらに教えてもらった」


「……」


シルヴィアはアレンを見た。


「あなたが、ライガを変えたの?」


「俺が変えたわけじゃない。ライガ自身が、気づいただけだ」


「……面白いことを言うわね」


「シルヴィア、装置を破壊させてくれ。大魔王を復活させれば、多くの人が死ぬ」


「知っている」


「知っていて、協力しているのか?」


「……私には、理由がある」


「聞かせてくれ」


シルヴィアは少し間を置いた。


「私の故郷は、十五年前に王国の貴族に滅ぼされた。税を払えなかったという理由で、村が焼かれた。両親も、兄弟も、全員死んだ」


「……」


「王国は、何もしなかった。貴族を罰しなかった。私が訴えても、誰も聞かなかった。そんな王国が、なぜ存続する必要があるの?」


「……」


「蛇王様は、私に言った。大魔王を復活させれば、この腐敗した王国は滅びる。新しい世界が生まれる、と」


「新しい世界が生まれても、お前の家族は戻らない」


「……分かっている」


「なら、なぜ?」


「……復讐よ。王国が滅びれば、私の気持ちが少しは楽になると思った」


「楽になるか?」


「……分からない」


「シルヴィア、俺には、お前の痛みを完全に理解することはできない。家族を失った痛みは、俺には分からない」


「……」


「でも、大魔王が復活すれば、お前と同じ痛みを持つ人間が、何万人も生まれる。それが、お前の望む世界か?」


シルヴィアは答えなかった。


「……戦う」


「そうか」


「私の気持ちを変えることは、あなたにはできない。でも、あなたたちを倒せれば、装置は守られる。それが今の私の目的よ」


「分かった。来い」





7. 毒牙シルヴィアとの激闘


シルヴィアが動いた。


「《毒霧・最大展開》!!!」


第七層全体に、濃い紫色の霧が広がった。


視界がほぼゼロになった。


「視界が……!」


「感知に頼る。全員、俺の声に従え!」


アレンは魔力感知を最大限に広げた。


霧の中でも、シルヴィアの魔力は感知できる。


「シルヴィアは右後方にいる。三十メートル」


「《毒のポイズン・ニードル》!!!」


無数の毒の針が、霧の中から飛んできた。


「散開! 右に!!」


「《ウェントゥス・ラミナ》!!」


アレンが《風の壁》で毒の針を散らした。


「《氷壁》!!」


セリアが氷の壁で残りの針を防いだ。


「シルヴィアが動いた。左後方、二十メートル!」


「《毒のポイズン・チェーン》!!!」


毒の鎖が霧の中から現れ、七人を縛ろうとした。


「《闇の拘束・貫通》!!!」


ミアの《闇の拘束》が毒の鎖に絡みつき、相殺した。


「《古代術式・貫通》!!!」


クロエが霧の中のシルヴィアに向けて古代術式を放った。


「《毒のポイズン・シールド》!!」


シルヴィアが毒の盾で防いだ。


「古代術式も、毒の盾で防げるのか……!」


「毒の盾は、あらゆる魔法を毒に変換して吸収する。古代術式でも、直接は通じない」


「では、どうする?」


「毒の盾を迂回する攻撃が必要だ。物理攻撃は有効か?」


「……試みる」


「シルヴィアの位置、正面二十メートル! カイン、突進!」


「《超高温炎剣》!!!」


カインが霧の中を突進した。


「《毒の盾》!!」


カインの炎の剣が毒の盾に触れた瞬間——炎が毒に変換された。


「炎も、吸収されるのか!」


「物理的な剣は?」


カインが剣の炎を消し、純粋な物理攻撃を試みた。


「《炎剣・薙ぎ払い》——炎なし!!」


「……!」


物理攻撃は、毒の盾を通り抜けた。


「物理攻撃は有効だ!!」


「なぜ?」


「毒の盾は、魔法を変換して吸収する。しかし、純粋な物理攻撃は変換できない!」


「なるほど! 魔法を使わずに攻撃する!」


「セリア、純粋な剣技で攻撃してくれ!」


「了解!」


セリアが霧の中を走り、シルヴィアに向かって純粋な剣技を放った。


「《霜刃連撃》——魔力なし!!」


純粋な剣技が、シルヴィアの毒の盾を通り抜けた。


「……!!」


シルヴィアが後退した。


「物理攻撃が通る……!」


「《毒の霧・強化》!!!」


シルヴィアが霧をさらに濃くした。


「視界がさらに悪くなった! 感知できるか?」


「……できる。ただし、精度が落ちている。霧が濃すぎて、干渉が大きい」


「それでも、感知し続けてくれ」


「ああ」


アレンは魔力感知を限界まで広げた。


霧の中で、シルヴィアの動きを追い続けた。


「シルヴィアが上に移動した! 天井付近!」


「《毒のポイズン・レイン》!!!!!」


天井から毒の雨が降り注いだ。


「《聖なる光・広域》!!!」


アリアが光の膜を展開し、毒の雨を浄化した。


「アリアの聖属性魔法は、毒を浄化できるのか!」


「聖なる光は、あらゆる汚染を浄化する。毒も例外ではない!」


「アリア、俺たちの周囲を光の膜で守り続けてくれ!」


「了解! でも、長時間は持たない。魔力が……」


「分かった。急いで決着をつける」


アレンは考えた。


シルヴィアの毒の盾は、魔法を全て吸収する。物理攻撃は有効だが、霧の中で正確に当てるのは難しい。


しかし——。


「……そうか」


「何か思いついたか?」


「雷属性魔法は、物理的な性質を持つ。電気は、魔法の変換を受けにくい可能性がある」


「雷属性魔法を使うのか? まだ習得途中だろう?」


「試みる。今しかない」


アレンは右手に魔力を集中させた。


「走れ」


魔力を「走らせる」イメージを作った。


指先に電気が走った。


「……もっと」


電気が手のひら全体に広がった。


「……もっと」


電気が腕全体に広がった。


「……行け!!」


「《雷撃サンダー・ボルト》!!!!!!」


アレンの右手から、青白い雷が放たれた。


雷はシルヴィアの毒の盾に命中した。


「……!!!!」


毒の盾が、激しく揺れた。


「……盾が、揺れている!!」


「雷は、毒の盾を完全には通過しないが、盾に大きなダメージを与えている! 盾が弱まっている!!」


「今だ! 全員、物理攻撃!!」


「《全方位感知斬り》!!!」

「《霜刃連撃》!!!」

「《炎剣・薙ぎ払い》——魔力なし!!!」


三人の物理攻撃が、弱まった毒の盾を突き破り、シルヴィアに命中した。


「……!!!!!!」


シルヴィアが床に崩れ落ちた。


「……やった!!」


「シルヴィア!!」


アレンがシルヴィアに駆け寄った。


「……負けた」


シルヴィアは静かに言った。


「……雷属性魔法か。まさか、あなたが使えるとは思わなかった」


「今、初めて発動した」


「……初めて? それで、私の毒の盾を揺らしたの?」


「ああ」


「……信じられない」





8. シルヴィアの決断


「シルヴィア、装置を破壊させてくれ」


「……」


シルヴィアは答えなかった。


「お前の痛みは、本物だ。家族を失った怒りも、王国への憎しみも、本物だ。俺には、それを否定する権利はない」


「……」


「でも、大魔王を復活させることが、答えではない。それは、お前も分かっているはずだ」


「……分かっている。分かっていても、他に方法が見つからなかった」


「方法はある」


「……何?」


「王国の腐敗を、正面から変える。お前の故郷を滅ぼした貴族を、法で裁く。そのために戦う」


「……そんなことが、できると思っているの?」


「できるかどうか、分からない。でも、やってみなければ分からない」


「……」


「お前が黒蛇の牙にいる間は、お前の本当の目的——家族の仇を取ること——は達成できない。蛇王に利用されるだけだ」


シルヴィアは長い沈黙の後、静かに言った。


「……装置を破壊しなさい」


「!」


「私は止めない。ただし、私はここを離れる。蛇王様に報告するつもりもない。しばらく、一人で考える」


「……分かった」


「一つだけ、聞かせて」


「何だ?」


「あなたは、本当に王国の腐敗を変えられると思っている?」


「……分からない。でも、諦めない」


「……そう」


シルヴィアは立ち上がり、霧の中に消えていった。


「……行かせていいのか?」


カインが言った。


「ああ。シルヴィアは、今、自分と向き合っている。それを邪魔する必要はない」


「いつか、敵として現れるかもしれないぞ」


「それでも、今は行かせる」


「……お前は、甘いな」


「そうかもしれない」


「でも、それがお前らしい」


「……そうか」


「《魔力収集装置》を破壊する」


「ああ」


七人は装置に向かった。


「《古代術式・破砕・強化》!!!」

「《超高温炎剣》!!!」

「《雷撃》!!!」


三つの攻撃が装置に命中し、装置が崩れ落ちた。


「二箇所目、破壊完了!」





9. 雷属性魔法の覚醒


迷宮を出た後、アレンは右手を見つめた。


「……《雷撃》が、発動した」


「ああ。見ていた。まさか、あの場で初発動するとは思わなかった」


「俺も、思わなかった。でも、あの状況でしか使えなかった」


「どんな感覚だった?」


「……全身の魔力が、一瞬で指先に集中した。そして、走った。本当に、一瞬だった」


「《全方位感知斬り》と似た感覚か?」


「似ている。でも、もっと鋭い。剣技は体全体を使うが、雷は意識だけで走る感じだ」


「意識だけで……」


「もっと修練すれば、威力を上げられる。今の《雷撃》は、シルヴィアの盾を揺らすことしかできなかった。完全に貫通できるようにしたい」


「それができれば、毒の盾を持つ敵に対して、有効な手段になる」


「そうだ。雷属性は、毒属性に対して相性がいい可能性がある。電気は、毒を分解する性質があるからだ」


「なるほど」


「修練を続ける。次の迷宮までに、もう少し安定させたい」


「一緒に修練しよう。俺の《絶零剣》も、まだ完成していない」


「そうだな」


ライガが近づいてきた。


「……《雷撃》を、初めて見た」


「そうか?」


「雷属性魔法は、習得が難しい。俺も、最初に発動できるようになるまで、半年かかった」


「半年……」


「お前は、何日で発動した?」


「……三日だ」


ライガは少し驚いた表情を見せた。


「……三日か」


「遅いか?」


「……いや。俺が半年かかったことを、三日でやった。それは、異常な速さだ」


「《限界突破》のおかげかもしれない」


「《限界突破》……お前の固有スキルか」


「ああ。能力の上限を突破する。魔法の習得速度にも、影響しているのかもしれない」


「……なるほど。お前が、どこまで強くなるのか、俺には想像できない」


「俺にも、想像できない」


「……それが、一番怖い」


「怖い?」


「お前の可能性が、俺には見えない。それは、戦う相手として、最も恐ろしいことだ」


「俺は、お前の敵じゃない」


「……そうだな。今は、仲間だ」


ライガは珍しく、少し笑った。





10. 次の迷宮へ


サウスゲートに戻ると、ガルドから新しい情報が届いていた。


「残り五箇所の迷宮の情報が入った。ただし、状況が変わった」


「どう変わった?」


「《嵐の迷宮》と《毒霧の迷宮》の装置が破壊されたことで、蛇王が直接動き始めた。残り五箇所の迷宮に、蛇王直属の部隊が派遣されている」


「蛇王直属の部隊……」


「幹部クラスの実力を持つ者が、複数いる。これまでより、遥かに危険な状況だ」


「それでも、止める」


「……分かった。次の迷宮は、北西の《溶岩の迷宮ラヴァ・ダンジョン》だ。火属性の迷宮で、内部は溶岩が流れている」


「溶岩の迷宮か。カインの《超高温炎剣》が有効そうだな」


「そうだ。ただし、溶岩の熱は《耐寒薬》では防げない。《耐熱薬ヒート・レジスト・ポーション》が必要だ」


「リリス、作れるか?」


「《耐熱草ヒート・レジスト・ハーブ》と《溶岩石ラヴァ・ストーン》があれば作れる。北西の街ウェストゲートで調達できるはずだ」


「よし。ウェストゲートへ向かう」


七人は翌朝、北西へと出発した。


道中、アレンは《雷撃》の修練を続けた。


昨日の発動で感覚を掴んだ。今日は、威力を上げる練習だ。


「《雷撃》!!」


右手から雷が放たれた。


昨日より、明らかに威力が上がっている。


「……進歩している」


「ああ。感覚が安定してきた」


「次の迷宮では、《雷撃》を実戦で使えるか?」


「……使える。ただし、まだ完全ではない。修練を続ける」


セリアの《絶零剣》も、少しずつ形になってきていた。


剣に氷の魔力を凝縮させ、その密度が上がるにつれ、剣の周囲の温度が急激に下がっていく。


「……あと少しだ」


「どのくらいで完成する?」


「……次の迷宮までに、試験発動はできると思う。完成は、もう少し先だ」


「急がなくていい。確実に完成させてくれ」


「ああ」


七人は北西へと進んだ。


残り五箇所の迷宮、そして蛇王ゼルガとの最終決戦——全てが、この先に待っている。


《夜明けの旅団》は、止まらない。





第13章 了 つづく


カタカナ長い、、、、

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