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異世界最強の冒険者と四人の乙女  作者: 天音シオン
第二部「成長編」

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第14章:転生者の影

第14章:転生者の影


1. 北西への道


サウスゲートを出発した翌朝、七人と一人ライガは北西へと続く街道を進んでいた。


《溶岩の迷宮ラヴァ・ダンジョン》のある北西の街ウェストゲートまでは、馬車で三日ほどの距離だ。


道中、アレンは《雷撃サンダー・ボルト》の修練を続けていた。


昨日の初発動から一夜明け、感覚はより鮮明になっていた。魔力を「走らせる」イメージが、体に染み込んできている。


「《雷撃》!!」


右手から青白い雷が放たれ、道端の岩に命中した。岩に焦げ跡が残った。


「……昨日より、威力が上がっている」


「ああ。着実に進歩している」


「ただし、まだ制御が甘い。狙った場所に正確に当てるには、もう少し修練が必要だ」


「《全方位感知斬り》も、最初は制御が難しかった。繰り返せば、体が覚える」


「そうだな」


馬車の中では、リリスが《耐熱薬ヒート・レジスト・ポーション》の材料を確認していた。


「《耐熱草》は、ウェストゲートで手に入るはずだ。《溶岩石》は……迷宮の近くに採取できる場所があるかもしれない」


「迷宮の外で採取できるか?」


「溶岩の迷宮の周辺には、溶岩が地表に出ている場所がある。そこで採取できると思う」


「危険はないか?」


「溶岩に近づきすぎなければ、大丈夫だ。ただし、熱気が強い。《耐熱薬》なしでは近づけない」


「先に《耐熱草》だけ調達して、簡易版の《耐熱薬》を作る。それを飲んで《溶岩石》を採取する、という流れか」


「そうだ。少し手間がかかるが、それが確実だと思う」


「分かった。ウェストゲートで薬草商を探す」


セリアは窓の外を見ながら、《絶零剣ゼロ・ブレード》の修練を続けていた。


剣を握り、魔力を刃に凝縮させる。密度が上がるにつれ、剣の周囲の空気が白く凍り始める。


「……もう少しだ」


「どんな感覚だ?」


「……師匠が遺した石板の術式が、少しずつ体に馴染んできている。完全に馴染めば、自然に発動できるようになるはずだ」


「完全に馴染むまで、どのくらいかかる?」


「……分からない。師匠は、一年かかったと書いていた。でも、私は師匠より速く習得できると思っている」


「なぜ?」


「師匠は独学だった。私には、師匠の術式がある。それが、大きな違いだ」


「なるほど」


「それに……」


セリアは少し間を置いた。


「……仲間がいる。師匠は、一人で修練していた。私には、皆がいる。それが、力になっている」


「……そうか」


「アレンも、《雷撃》の修練を続けてくれ。私も、《絶零剣》の修練を続ける」


「ああ」


二人は並んで修練を続けた。


馬車が北西へと進む中、平和な時間が流れた。


しかし——。


「……止まれ」


アレンが突然言った。


御者が馬車を止めた。


「どうした?」


「前方に、人の気配がある。複数。……強い魔力だ」


「黒蛇の牙か?」


「……おそらく。ただし、これまでの手下とは違う。魔力の質が、全く異なる」


「蛇王直属部隊か」


「そうだと思う。前方三百メートル、街道の真ん中に立っている」


「何人だ?」


「……五人。ただし、一人だけ、突出して強い魔力を持っている」


「どのくらい強い?」


「……ライガと同等か、それ以上だ」


ライガが眉を顰めた。


「蛇王直属部隊の中に、そこまで強い者がいたか……」


「知らないのか?」


「……俺は第二幹部だったが、蛇王直属部隊の詳細は知らない。蛇王が直接管理していた」


「そうか」


「気をつけろ。蛇王直属部隊は、俺たち幹部とは別の系統だ。蛇王の命令のみで動く、忠実な兵士たちだ」


「分かった。馬車を降りる。全員、戦闘準備」





2. 転生者との遭遇


街道の真ん中に、五人の人物が立っていた。


四人は黒い鎧を纏った戦士で、一人は黒いローブを着た若い男だった。


男の年齢は、アレンと同じくらい——二十代前半ほど。黒い髪に、鋭い目。その顔立ちは、どこか見覚えがあった。


「……!」


アレンは息を呑んだ。


「どうした?」


「……あの男を、知っている」


「知っている?」


「……元の世界での知り合いだ」


「元の世界……? 転生前の世界か?」


「ああ。あの男は……」


アレンは前に出た。


「……渡辺わたなべ


男が振り向いた。


「……久しぶりだな、鈴木すずき


男の声は、アレンの記憶の中の声と同じだった。


渡辺わたなべ 拓也たくや


元の世界でのアレンの同級生。


「なぜ、お前がここにいる?」


「俺も転生したんだよ。お前と同じように」


「……いつ?」


「三年前だ。お前より、二年早い」


「三年前……」


「この世界に来て、俺は気づいた。この世界は、腐っている。強者が弱者を踏みにじり、権力者が民を搾取する。そんな世界を変えたいと思った」


「……だから、黒蛇の牙に入ったのか」


「そうだ。蛇王様の計画が、この世界を変える唯一の方法だと思った」


「大魔王を復活させることが、世界を変える方法か?」


「そうだ。一度全てを壊して、新しい世界を作る。それしかない」


「……」


「お前も、この世界の腐敗を見ただろう。貴族が民を搾取し、弱者が踏みにじられる。そんな世界を、お前は守ろうとしているのか?」


「守ろうとしているのは、世界じゃない。目の前の人だ」


「目の前の人……」


「大魔王が復活すれば、目の前の人が死ぬ。それを、俺は許せない」


「……甘いな、鈴木」


「そうかもしれない。でも、それが俺の答えだ」


「俺には、お前を止める義務がある。蛇王様から、お前を排除するよう命じられた」


「……やるのか」


「ああ」


「分かった」


アレンは剣を抜いた。


「渡辺、お前と戦いたくない。でも、止めなければならないなら、全力で戦う」


「俺も、同じだ。お前を倒すことに、躊躇はない」


「……そうか」


「ただし——一対一で戦おう。お前の仲間は、俺の部下が相手をする」


「……分かった」


アレンは七人を振り返った。


「俺が渡辺を相手にする。皆は、四人の戦士を頼む」


「一人で大丈夫か?」


「……やってみる」


「無理そうなら、すぐに言え」


「ああ」





3. 渡辺拓也との戦闘


渡辺が魔力を解放した。


その魔力の量は、ライガに匹敵する——いや、それ以上だ。


「……強い」


「三年間、この世界で修練してきた。お前より、三年分の経験がある」


「そうだな」


「お前の《限界突破》は知っている。蛇王様から、情報を受け取った。ただし——」


渡辺が右手を上げた。


「俺にも、固有スキル(ユニークスキル)がある」


「何というスキルだ?」


「《魔法吸収マジック・アブソーブ》。相手の魔法を吸収し、自分の魔力に変換する」


「……!」


「お前の《ウェントゥス・ラミナ》も、《雷撃》も、全て吸収できる。魔法は、俺には通じない」


「……物理攻撃は?」


「物理攻撃は吸収できない。ただし——」


渡辺が左手を上げた。


「俺は、吸収した魔力を即座に攻撃に転換できる。お前が魔法を使えば使うほど、俺は強くなる」


「……なるほど」


「お前の選択肢は、物理攻撃のみだ。しかし、お前は剣士としての修練が浅い。俺は三年間、剣術も磨いてきた」


「……」


「降参しろ。お前の仲間の命は、保証する」


「断る」


「……そうか」


渡辺が動いた。


「《魔法吸収・解放》!!!」


渡辺が吸収した魔力を、巨大な魔法弾として放った。


「《全方位感知斬り》!!!」


アレンが剣で魔法弾を斬り裂いた。


「……! 剣で魔法弾を斬ったか」


「《全方位感知斬り》は、魔力を込めた剣技だ。魔法弾を斬ることができる」


「なるほど。ただし——」


渡辺が連続で魔法弾を放った。


「《魔法吸収・連続解放》!!!!!!」


十個の魔法弾が、アレンに向かって飛んできた。


「《全方位感知斬り》!!!」


アレンが全方向に剣を振り、魔法弾を次々と斬り裂いた。


「……全部斬ったか」


「ああ」


「では、これはどうだ」


渡辺が剣を抜いた。


「俺の剣術を見せてやる」


渡辺が突進した。


剣の速度は、アレンの予想を超えていた。


「……速い!!」


「三年間、この世界最強の剣士に師事した。お前の剣術より、遥かに洗練されている」


「くっ……!!」


アレンが後退した。


渡辺の剣は、アレンの剣を弾き、隙を作り、連続で攻撃を仕掛けてくる。


「……!」


「どうした? もう追い詰められたか?」


「……まだだ」


アレンは感知を最大限に広げた。


渡辺の剣の軌跡、体の動き、次の攻撃の予兆——全てを感知する。


「《全方位感知斬り》!!!」


アレンが渡辺の攻撃を捌き、反撃した。


「……!」


渡辺が後退した。


「……感知能力か。俺の動きを、全て読んでいる」


「ああ。お前の剣術は速い。でも、感知できれば対応できる」


「なるほど。では——」


渡辺が魔力を解放した。


「《魔法吸収・全解放》!!!!!!!!」


渡辺が吸収した全ての魔力を、一気に解放した。


巨大な魔力の波が、アレンに向かって押し寄せた。


「……!!!!」


「これは、魔法ではない。純粋な魔力の波だ。《全方位感知斬り》では斬れない」


「くっ……!!」


アレンが魔力の波に押し飛ばされた。


「……!!」


「どうだ? 俺の《魔法吸収》は、魔法だけでなく、魔力そのものを武器にできる。お前には、対処できない」


アレンは立ち上がった。


「……まだ、終わっていない」





4. 《限界突破》の新たな発現


アレンは立ち上がりながら、考えた。


渡辺の《魔法吸収》は、魔法を吸収して魔力に変換する。その魔力を、魔法弾や魔力の波として放出する。


魔法は通じない。物理攻撃は有効だが、渡辺の剣術は自分より上だ。


しかし——。


「……《限界突破》」


アレンは自分のスキルを意識した。


限界突破リミット・ブレイク》。能力の上限を突破する固有スキル。


これまで、このスキルは魔法の習得速度や身体能力の上昇として発現してきた。


しかし——もっと直接的な使い方があるはずだ。


「……上限を突破する」


アレンは全身に魔力を巡らせた。


「《限界突破》……発動」


体の中で、何かが変わった。


これまで感じたことのない感覚。全身の魔力が、急激に密度を増している。


「……!?」


渡辺が驚いた表情を見せた。


「……魔力量が、急激に増加している!?」


「ああ」


「《魔法吸収》で感知できる。お前の魔力が……倍になっている!?」


「《限界突破》は、能力の上限を突破する。魔力量の上限も、突破できる」


「……!!」


「ただし、これは一時的なものだ。長くは続かない。その間に、決着をつける」


「……面白い。来い」


アレンが突進した。


「《全方位感知斬り》!!!」


渡辺が剣で受けた。


「……!!」


渡辺が後退した。


「……力が、倍以上になっている!?」


「《限界突破》は、身体能力にも作用する。魔力だけでなく、筋力、速度、全てが上昇する」


「くっ……!!」


渡辺が連続で攻撃を仕掛けた。


しかし、アレンの感知と速度が上昇したことで、渡辺の攻撃を全て捌けるようになっていた。


「……! 速度まで上がっているのか!!」


「ああ」


「《魔法吸収・全解放》!!!!!!」


渡辺が再び魔力の波を放った。


「《雷撃》!!!」


アレンが《雷撃》を放った。


「《魔法吸収》!!」


渡辺が《雷撃》を吸収しようとした。


しかし——。


「……!!!!」


《雷撃》が、《魔法吸収》を突き破った。


「……!? なぜ!? 《魔法吸収》が……!!」


「《限界突破》で魔力量が倍になった《雷撃》は、《魔法吸収》の吸収限界を超えた。吸収しきれなかった分が、お前に命中した」


「……!!」


渡辺が膝をついた。


「……なるほど。《魔法吸収》にも、吸収限界がある。それを超えれば、通じるのか」


「そうだ」


「……俺の負けか」


「渡辺、降参してくれ」


「……」


渡辺は少し間を置いた。


「……降参する」


「!」


「俺の負けだ。認める」


アレンは剣を収めた。


「ありがとう」


「感謝するな。俺は、まだ蛇王様の計画が正しいと思っている」


「……そうか」


「ただし、お前には勝てない。それが、今の俺の答えだ」


「渡辺、一緒に来てくれないか」


「……何?」


「俺たちと一緒に、蛇王を止めてくれ」


「……」


「お前も、この世界を変えたいと思っているはずだ。大魔王を復活させなくても、変える方法はある」


「……」


「考えてくれ。今すぐ答えを出さなくていい」


渡辺は長い沈黙の後、立ち上がった。


「……今は、答えを出せない。俺には、まだ蛇王様への義理がある」


「分かった」


「ただし——次に会う時まで、考える」


「ああ」


渡辺が部下に目配せした。


「撤退する」


「……! 渡辺様!?」


「命令だ。撤退する」


四人の戦士が、渡辺に従って撤退した。





5. 戦闘後の語らい


「……終わったか」


カインが近づいてきた。


「ああ。渡辺は撤退した」


「あの男が、元の世界の知り合いか」


「そうだ」


「……複雑だな」


「ああ」


「戦えたか?」


「……戦えた。でも、複雑な気持ちは残る」


「当然だ。知り合いと戦うのは、辛い」


「渡辺は、悪い奴じゃない。この世界を変えたいという気持ちは、本物だ。ただ、方法が間違っている」


「それは、シルヴィアと同じだな」


「そうだ。この世界には、腐敗した現実に絶望して、間違った方向に進んでしまった人間が多い」


「蛇王は、そういう人間を集めているのか」


「……そうかもしれない。蛇王自身も、三百年前に絶望した人間だ」


「……」


「でも、絶望した人間が全員、間違った方向に進むわけじゃない。シルヴィアも、渡辺も、まだ迷っている。それが、希望だと思う」


「……お前は、本当に甘いな」


「そうかもしれない。でも、諦めたくない」


ライガが近づいてきた。


「……渡辺わたなべ 拓也たくやか。蛇王直属部隊の中でも、特別な存在だ」


「知っているのか?」


「噂は聞いていた。三年前に現れた、異世界からの転生者。《魔法吸収》の固有スキルを持ち、蛇王に直接仕えている、と」


「蛇王は、転生者を集めているのか?」


「……俺の知る限り、転生者はお前と渡辺の二人だけだ。ただし、蛇王が転生者に特別な興味を持っていることは確かだ」


「なぜ?」


「……分からない。ただ、蛇王は転生者の固有スキルを、非常に重視している」


「固有スキルを重視する……」


「大魔王の封印を解くために、特定の固有スキルが必要なのかもしれない。それが、転生者を集める理由だ」


「……なるほど」


「お前の《限界突破》も、蛇王が狙っている可能性がある」


「俺を取り込もうとしているのか」


「……あるいは、排除しようとしているか、どちらかだ」


「今回、渡辺が俺を排除しようとしたのは、俺の《限界突破》が邪魔だからか」


「そう考えるのが自然だ」


「……分かった。気をつける」


セリアが近づいてきた。


「アレン、怪我はないか?」


「ない。《限界突破》の発動で、少し魔力を消耗したが、問題ない」


「《限界突破》の新しい使い方を見た。魔力量を一時的に倍にする——あれは、これまでとは違う発動方法だ」


「ああ。自分でも、驚いた。あの場で、初めて気づいた」


「《限界突破》は、まだ他にも使い方があるかもしれない」


「そうだな。もっと研究する必要がある」


「……アレン」


「何だ?」


「渡辺という人物、次に会う時は、敵として現れるかもしれない。その時は……」


「その時も、全力で戦う。でも、できれば仲間になってほしい」


「……そうか」


「渡辺は、悪い奴じゃない。ただ、間違った場所にいる。それを、変えられるかもしれない」


「……お前の言葉は、いつも不思議だ」


「不思議?」


「敵に対しても、仲間になれると信じている。普通の人間には、できないことだ」


「……俺が特別なわけじゃない。ただ、諦めたくないだけだ」


「それが、お前の強さだと思う」


「……ありがとう」





6. ウェストゲートへ


翌日、七人はウェストゲートへと向かった。


道中は平和で、黒蛇の牙の気配はなかった。


渡辺との戦闘で、アレンは《限界突破》の新しい使い方を発見した。魔力量を一時的に倍にする——この発動方法は、今後の戦闘で大きな武器になる。


しかし、問題もある。


「《限界突破》の魔力倍増は、どのくらい続くんだ?」


「……昨日の感覚では、三分ほどだった。それ以上は、魔力が急激に消耗する」


「三分か。短いな」


「ただし、三分あれば、多くのことができる。使いどころを見極める必要がある」


「切り札として使う、ということか」


「そうだ。常時発動は無理だ。ここぞという場面で使う」


「分かった」


カインが窓から外を見ながら言った。


「《超高温炎剣》も、まだ完全じゃない。溶岩の迷宮では、炎属性が有利なはずだ。もっと高めたい」


「どんな修練をしている?」


「炎の密度を上げる修練だ。今の《超高温炎剣》は、剣の周囲に炎を纏わせている。それを、剣の内部に炎を封じ込める形にしたい」


「剣の内部に炎を封じ込める?」


「そうすれば、炎の密度が上がり、威力が増す。さらに、炎が外に出ないから、周囲への影響を制御できる」


「なるほど。炎を内側に凝縮させる、か」


「ミアの《闇の拘束》と似た発想だ。闇の魔力を外に広げるのではなく、内側に凝縮させることで、威力を上げる」


「……確かに、似ている」


ミアが静かに言った。


「私の《闇の拘束》も、凝縮の修練を続けている。外に広げるより、内側に凝縮させた方が、威力が高い。ただし、制御が難しい」


「制御が難しいのは、俺も同じだ。でも、溶岩の迷宮までに、少しでも進歩させたい」


「一緒に修練しよう」


「……ああ」


カインとミアが並んで修練を始めた。


アリアが微笑んだ。


「二人、仲がいいね」


「……そうか?」


「うん。最初の頃より、ずっと仲良くなった」


「……そうかもしれない」


「カインは、最初はミアのことを怖がっていたよね」


「怖がっていたわけじゃない。ただ、闇魔法を使う人間と、どう接すればいいか分からなかった」


「今は?」


「……今は、普通に話せる。ミアは、怖くない。ただ、口数が少ないだけだ」


「……余計なことを言うな」


ミアが静かに言った。


「……すまない」


「でも、仲良くなれて、よかった」


「……ん」


アリアが笑った。


「皆、いい仲間だね」


「……そうだな」


「アレンが仲間にしてくれたから、こうして一緒にいられる」


「俺は、ただ声をかけただけだ」


「それが大切なんだよ。声をかけてくれなければ、私はまだ一人で旅をしていた」


「……そうか」


「ありがとう、アレン」


「……礼を言われるほどのことじゃない」


「いや、大切なことだよ。一人で戦うより、仲間と戦う方が、ずっと強くなれる。それを、アレンが教えてくれた」


「……」


アレンは七人を見た。


セリアは剣の修練を続けている。カインとミアは並んで魔力の凝縮修練をしている。クロエは古代術式の書を読んでいる。リリスは薬草の整理をしている。アリアは窓の外を見ている。ライガは腕を組んで目を閉じている。


それぞれが、それぞれの修練をしている。


「……俺も、皆に感謝している」


「え?」


「俺一人では、ここまで来られなかった。皆がいたから、ここまで来られた」


「……アレン」


「これからも、よろしく頼む」


「……うん!」


アリアが笑顔で答えた。





7. ウェストゲートの街


ウェストゲートは、王国の北西部に位置する工業の街だった。


鉄の採掘と加工が盛んで、街中に鍛冶屋が並んでいる。街の空気は、鉄と炎の匂いがした。


「《耐熱草》を探す。薬草商はどこだ?」


「街の東側に、薬草商の通りがある。そこで探せるはずだ」


「行ってみよう」


薬草商の通りには、複数の店が並んでいた。


「《耐熱草》はあるか?」


「ありますよ。ただし、今は品薄で……」


「どのくらいある?」


「五本ほどです。それ以上は、入荷待ちで」


「五本か。八人分の《耐熱薬》を作るには、少し足りないな」


「他の店も回ってみよう」


三軒の薬草商を回り、合計十二本の《耐熱草》を集めた。


「十二本あれば、八人分の《耐熱薬》を作れる。ただし、《溶岩石》がまだない」


「迷宮の近くで採取する計画だったな」


「そうだ。ただし、《溶岩石》の採取場所を確認したい。この街の人間なら、知っているかもしれない」


「ギルドで聞いてみよう」


ウェストゲートのギルドに入ると、受付の女性が驚いた表情を見せた。


「……《夜明けの旅団》!? 本当に来たんですか!?」


「知っているのか?」


「はい! 《嵐の迷宮》と《毒霧の迷宮》の装置を破壊したという情報が、王国中に広まっています! 皆さんのことを、英雄だと言っている人もいます!」


「英雄か……」


「《溶岩の迷宮》の装置も、破壊しに来たんですか?」


「そうだ。《溶岩石》の採取場所を教えてくれないか?」


「はい! 《溶岩の迷宮》の入り口から南に二百メートルほどのところに、溶岩が地表に出ている場所があります。そこで採取できます。ただし、熱気が強いので、《耐熱薬》なしでは近づけません」


「《耐熱草》は集めた。《溶岩石》を採取してから、《耐熱薬》を完成させる」


「……逆じゃないですか? 《耐熱薬》を先に作ってから、採取に行かないと」


「《耐熱草》だけで作れる簡易版の《耐熱薬》がある。それを飲んで採取に行く」


「なるほど! 分かりました。他に、何か情報が必要ですか?」


「《溶岩の迷宮》の内部構造と、黒蛇の牙の動向を教えてくれ」


「はい。《溶岩の迷宮》は七層構造で、各層に溶岩が流れています。第七層のボスは《溶岩竜ラヴァ・ドラゴン》です。黒蛇の牙については……最近、迷宮の周辺に大量の手下が展開しています。装置の警備が、これまでより遥かに厚くなっています」


「蛇王直属部隊も来ているか?」


「……はい。昨日、黒い鎧を纏った集団が、迷宮の方向に向かったという目撃情報があります」


「渡辺の部下が先に向かったか」


「渡辺?」


「こちらの話だ。情報をありがとう」





8. 溶岩石の採取


翌朝、七人は《溶岩の迷宮》へと向かった。


迷宮の入り口に近づくと、熱気が強くなってきた。


「……熱い」


「《簡易耐熱薬》を飲んでくれ。これで、三十分ほどは熱気に耐えられる」


全員が《簡易耐熱薬》を飲んだ。


「溶岩石の採取場所は、南に二百メートルだ。急いで採取して戻る」


「了解」


溶岩が地表に出ている場所は、すぐに見つかった。


地面から赤い溶岩が湧き出しており、その周囲に黒い石が転がっている。


「あれが《溶岩石》か」


「そうだ。溶岩が冷えて固まったものだ。魔力を帯びている」


「採取する。素手では触れるな。魔力を纏わせた手袋を使う」


リリスが魔力を纏わせた手袋を取り出した。


「これを使えば、溶岩石を安全に採取できる」


「分かった」


全員が手袋を着用し、溶岩石を採取した。


「十個採取できた。これで十分か?」


「十分だ。《耐熱薬》を完成させる」


リリスがその場で《耐熱薬》の調合を始めた。


「《耐熱草》と《溶岩石》を混合して……《浄化水晶》で安定させて……完成だ」


「どのくらいの効果がある?」


「《溶岩の迷宮》の内部でも、三時間は熱気に耐えられる。ただし、溶岩に直接触れれば、効果は薄れる」


「溶岩には触れない。分かった」


「それと——《溶岩竜》の炎は、通常の炎より遥かに高温だ。《耐熱薬》の効果が薄れる可能性がある。注意が必要だ」


「了解」





9. 迷宮前の準備


《溶岩の迷宮》の入り口前で、七人は最終確認をした。


「《耐熱薬》は全員飲んだか?」


「飲んだ」

「飲んだ」

「……飲んだ」

「はい」

「……ん」

「飲んだ」

「……俺も」


「よし。内部の構造は七層。各層に溶岩が流れている。足場に注意しながら進む」


「モンスターは?」


「炎属性のモンスターが多い。カインの《超高温炎剣》は、同じ炎属性には効果が薄い可能性がある。物理攻撃を中心に戦う」


「了解」


「黒蛇の牙の手下と蛇王直属部隊が内部にいる。手下は制圧、直属部隊は慎重に対処する」


「渡辺が来ているかもしれないのか?」


「……可能性はある。ただし、昨日の戦闘で渡辺は撤退した。すぐに戻ってくるかは分からない」


「来たら、どうする?」


「……その時は、また話す。戦うだけが答えじゃない」


「……お前は、本当に諦めないな」


「諦めたくないんだ」


「……分かった」


ライガが前に出た。


「俺が先頭を行く。溶岩の迷宮は、足場が悪い。俺の《雷の盾》で、足場を安定させながら進める」


「頼む」


「ただし——俺の《雷の盾》は、炎属性の攻撃に対して弱い。炎の攻撃が来たら、俺の盾は頼りにするな」


「了解」


「行くぞ」


八人は《溶岩の迷宮》へと踏み込んだ。





10. 溶岩の迷宮・第一層


迷宮の内部は、想像以上に過酷だった。


床は黒い岩で、その隙間から赤い溶岩が流れている。天井は低く、熱気が充満している。


「……熱い」


「《耐熱薬》を飲んでいても、熱い」


「慣れろ。この程度の熱気は、第一層だ。深層に行くほど、さらに熱くなる」


「……覚悟しておく」


第一層のモンスターは、炎蜥蜴ファイア・リザードだった。


体長二メートルほどの蜥蜴型モンスターで、口から炎を吐く。


「炎属性のモンスターだ。カインの炎は効果が薄い。物理攻撃で対処する」


「《全方位感知斬り》!!!」


アレンが炎蜥蜴の頭部を斬った。


「《霜刃連撃》!!!」


セリアの氷の剣技が炎蜥蜴に命中した。


「……氷属性は、炎属性に対して有効だ!」


「そうだ。セリアの氷属性が、ここでは特に有効になる」


「了解!」


「《聖なる光・集束》!!!」


アリアの聖なる光が炎蜥蜴を貫いた。


「聖属性も有効だ!」


「炎属性のモンスターは、氷属性と聖属性が弱点のようだ。セリアとアリアを中心に戦う」


「了解!」


第一層を突破し、第二層へと進んだ。


第二層では、炎狼ファイア・ウルフが出現した。


体長一メートルほどの狼型モンスターで、全身が炎に包まれている。


「炎狼は、速い。感知で追いながら対処する」


「《全方位感知斬り》!!!」

「《霜刃連撃》!!!」

「《聖なる光》!!!」


三人の連携で炎狼を倒した。


「第二層突破!」


「順調だ。このペースで進めば、第七層まで問題なく到達できる」


「ただし、魔力の消耗に注意しろ。深層に行くほど、強敵が待っている。今は魔力を温存しながら進む」


「了解」


八人は《溶岩の迷宮》の深層へと進んでいった。


その先に、《溶岩竜》が待っている。


そして、蛇王直属部隊との戦いも——。


《夜明けの旅団》の戦いは、まだ続く。





第14章 了 続く


先はまだまだ長いです!

ここまで読んでくれてありがとうございます!

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