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【第Ⅲ章完結】 あれから3年…リヒト誘拐後の話~どうして黙って月に帰ったんですか?オスカー先生の涙~

挿絵(By みてみん)



「…色々と辛いこともあった。


しかし…

今だけは、誓おう。」


神虎(しんこ)ファリスがスラリと剣を抜く。


「今この場で、シリウス様とお嬢の話以外はしないと!」


その場にいる者たちも一斉に剣を抜く。

神鼠(しんそ)の大王シリウスも神妙な顔で参加している。


「えェ~、俺も?」


「当たり前だろ。負け蛇、当て蛇は、

ここで浄化しとくのが吉だ」


神猿(しんえん)アダムが、神蛇(しんじゃ)テオを振り返って諭すと、

ため息をつきながら、テオも参加する。


「さて…男と女、

精子の…

いや、生死の危機を乗り越えて、

宿屋で二人、

一つのベッドで寝た…


今こそ、お嬢と相まみえたと言ってください…

シリウス様?」


とファリス。


「相…まみえる…?」


不思議そうに眉をひそめる、

絶世の美男子シリウス。


アダムが諦めたように言う。


「貴方のシリウスTHE GREATを正しい用法・用量で使ったか、ということですよ…


でも、いつものオチで…

どうせ使わなかったんでしょ?」


シリウスは悲しそうに長い睫毛を伏せる。


「ああ、そうだな…

お前たちの言う意味()()使わなかった。」


『…!?!?!?!?』


その場の王たちが顔を見合わせる。


神羊(しんよう)オスカーが、

咳ばらいをして話し出す。


「では、どのような意味でご使用に…」


「それを聞くのか?

ここにはツムギもいるぞ…」


呆れるシリウスに、

神馬(しんば)ツムギ女王は必死に訴える。


「推しの幸せを願う者に、

男女の別は関係ございません!

私を空気だとお思いください!」


「よく分からんな…嫌だよ、僕は…

女性の…」


「男女の差別をなさるなんて…あんまりです…

私に、死ねというのですか!?」


泣き出すツムギ。

困惑するシリウス。


「分かった、分かったよ、ツムギ。

お前を空気だと思うから…


…いや、その日…シャワー室から出てきた…

タオル1枚の…リヒトさんにぶつかって…


そ、その…着替えの音が聞こえたり、

偶然、おっ…む…胸元が見えたりして…」


『おお!最高のシチュ!』


「…それで、すっかり元気になったんだよ…

その…まあ…」


『シリウスTHE GREATが』


「ああ、まあ、そうだ…」


シリウスは耳まで赤くして、目を逸らす。


「もう許してくれ…

その状況で相まみえなかったらどうするか、

分かるだろう。」


『無駄打ち!!!』


ファリスとアダムが、

ヒシと肩を抱き合って悔しがる。


「無数の小公子シリウス様が…!」


「宿屋の水泡に帰すとは…!」


「言い方!!!!!!」


神鶏(しんけい)レンが、顔を真っ赤にして、

ファリスとアダムをそこらにあるスリッパで引っぱたいている。


シリウスは、口元に手をやって、小さな声で言う。


「でも、いいんだよ。


そのとき…

ありがとう…って…

…お互い、頬に口づけしたんだ…」


『甘酸っぺぇぇぇぇぇぇぇぇ――――!!!!!!!!』


「なんのアリガトウだよ!!!」


「生まれてきてアリガトウ!?」


「生きるって丸ごとアリガトウ!?!?」


王たちは、胸を掻きむしって、顔を覆う。


「なあ、シリウス様!」


テオが、シリウスの肩を両手でグイと掴む。


「俺からリティ奪っておいて、ほっぺにチュッて何?


シロツメクサの冠かぶってェ~

シロツメクサの指輪してェ~

野原で結婚式ごっこするん?なんやそれ、三歳児?」


「いや、お前は奪っていない。

お前が勝手に踊っていただけだろう。」


『言い方!!!!!!』


テオとレンがシリウスをソファに押し倒し、

二人でシリウスの美しい頬を揉み倒す。


しかし、シリウスは、そんなテオとレンの頬を、

それぞれ片手でそっと包むと、


「何もおかしいことはない…


僕だって、勝手に踊っているだけだ。」


と、鼻先がつくほど近い距離で、

美しいアクアマリンの瞳を彼らに注ぎながら、

寂しそうに微笑んだ。


「アッ…」「ちょっ…」と、テオとレンは顔を真っ赤に上気させて固まる。


ファリスが「陥落か?」と若い二人に絡みつく。


「開いたかも…俺の新しい扉…」


「エッ、扉ってなんですか?」


「ここだろ!!!ここ!!!」


アダムがレンの尻をバンバン叩く。


「こんなところに扉はないです!

出口でしょうが!!!」


ここで、ツムギとオスカーがシリウスに迫る。


「シリウス様、今の、

私たちにもやってくださいませ。」


「さあどうぞ、いちにのさん、はい…」


シリウスは、困惑した表情を浮かべながらも、

特に嫌がることもなく、

二人の頬にそれぞれ片手で触れ、

二人の顔の間に、自分の顔を寄せると、

耳元で囁く。


「今からお前を奪う…

僕の上で踊るんだ。」


『!?!?!?』


驚異的な天然の色気に、

崩れ落ちるツムギとオスカー。


「やらしい台詞に変わってるぅぅぅ!!!」

と叫ぶ、他の王たち。


シリウスは、「違ったか?」と優しく言うと、

スラリと立ち上がり、

悶え続ける王たちの間を優雅に通り抜け、

いくつかあるグラスに酒を注ぐ。


「大丈夫か?お前たちは…

さあ、これを飲んで、少し落ち着け。」


『ワァァイ!!!シリウス様直々!!!!!』


王たちはグラスに飛びついて、

満面の笑みで杯を交わす。


溢れ出るシリウスの魅力にいつしか完敗し、

すっかりテオも仲間入りしている。


自分も杯に口をつけたシリウスだが、

ふと、気づいたように美声を発する。


「ちょっと待て…

シロツメクサの冠…指輪…?

いいんじゃないか…テオ…」


「ハア…どないしました?」


「騎士学校で、結婚の申込みをするときは、薔薇百本…

というようなドラマチックな話を聞いていたんだ。


でも、リヒトさんなら…

シロツメクサの冠を僕が作って…

ちょっと失敗しても、

それをかぶせてあげたら…きっと…

もじもじして…

僕をチラリと見て…

僕の…ほっ…ほっぺたに…チュ…」


『もぅムリィィィィィィィ――――――――!!!!!!!!』


王たちが、耳を塞いで転げまわる。


そんな騒ぎを壁際で静かに見つめていた神犬フェンリルが、

グラスを片手に静かに言う。


「いや…素晴らしい方だとお聞きしていましたが…

本当に素晴らしい大王様です。


そのお若さで、悦楽の神髄に到達していらっしゃるとは…」


クロエの後、神犬を継承したフェンリルは、

森の奥で静かに一人暮らしをしていたところを、急に王位に就いたという人物。


ロマンスグレーの髪と瞳をもつ、

清潔で、整った60歳の男性。

ロベルトが死んだ今では、十二支の中で最高齢だ。


「フェンリル様、悦楽の神髄とは…?」


レンが尋ねる。


レンは、猿族と犬族の仲を取り持つ神鶏(しんけい)のため、

最近は、神犬を継承したフェンリルの世話係として一緒に行動することが多い。


この真面目な眼鏡青年と仙人的な美シニアは、

不思議と波長が合うようで、

積極的に一緒にいる風ですらある。


「前菜をメインディッシュに…

永い前菜によりメインディッシュを最高の味に…

全て、巧みなる画師の如く操り、

楽しみ、

悦ぶ…」


王たちが茫然とフェンリルを見つめる。


レンが唾を飲み込む。


「シリウス様とリヒト様は、

今が絶頂であり、

これからも絶頂であり続ける

…そういう前戯と本番を(さえず)っておられるということです。」


『なるほど…そういうことか…』


と頷くファリス、アダム、ツムギ、オスカーに、

「分かるんかい!!!」と突っ込むテオ。


「教えてください!くわしく!手巻きで!!!」

とフェンリルに突撃するレン。


そんな中で、ファリスはオスカーに笑い掛けた。


「そろそろ、こういう集まりに、ユーリ坊やを呼んであげたいねぇ。

まあ13歳だから、まだ早いか?


…何年か前は、お前にベッタリで、

ちょっとからかうとムキになって可愛かったのになあ…


最近はすっかりいい子じゃねぇか。

お前の教育が実を結んだな!」


「私の教育ではありませんよ。


…私は、3年前、約束を破りましたから。」


最後の言葉はひどく小さい声だったが、

シリウスは聞き逃さなかった。


「オスカー…

これから少し、話せるか?」


オスカーはサッと青ざめた。


が、静かに頷き、

顔を見られることを避けるように、

窓の外を向いた。


外の闇は深く、降り出した雨が張り付く窓が、

鏡のように、シリウスとオスカーを映す。


「どんなに長い時間、共に幸せに過ごしても、

一つの約束を破れば、全てが崩れ去る…


鶴でも雪女でもなんでも、

古来から言われてきたこと…」


オスカーは、鏡のような窓を透かして、

外の闇夜を見ようと目を凝らしながら、呟いた。


「どうして…私は…

どうして…」


雨が、窓に映るオスカーをぼかしていく。


「雨でなければ、今日は満月のはずだったな…」


シリウスは、小刻みに揺れるオスカーの肩にそっと手を掛けると、


「僕は先に行く。」


と、賑やかな王たちの酒宴を通り抜け、

静かに去っていく。


オスカーは、血がにじむほど拳を固く握ると、

窓に映る自分から目を逸らし、

シリウスの後を追った。


「これだから、子供は困るんですよ…

急に思い掛けない行動をして…

お月様に帰るなら、

一言あいさつくらい…」


しかし、その後の言葉は、続かなかった。




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