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(ブロマンス回)エメラルドの瞳は ユーリの人生の最後のページに見えたのか

挿絵(By みてみん)



次の日の閉会の儀は、驚くほど普通だった。


シリウス様は、「腫れ物ができた」という理由で、

顔の半分をスカーフで覆い、目だけを出していたが、

いつもよりも元気だ、と思ったくらいだった。


だから、オスカー先生の言葉は想定外だった。


「シリウス様に大事が起こった後ですから、私がクローリクに宿泊するのは延期しましょう。」


心臓に何本も氷の針が刺さった。


一瞬言葉を失っていると、さも当然というように僕の肩を叩く。


「ユーリ君は気を付けてお帰りなさい。

クローリクにはまた改めて行きますよ。

そのときは…」


「アァァ、うるさいうるさい!」


僕は、とうとう爆発した。


「なんだよ?口を開けば、シリウス様シリウス様、バカじゃんか!?」


オスカー先生は目を見開いた。


「ユーリ君、シリウス様は…」


「聞きたくない!!

そんなにシリウス様が好きなら、先生が結婚すれば!!!」


頭の中で、シリウス様への妬み、オスカー先生への恨みが、

竜巻を起こしている。


「落ち着きなさい。シリウ…」


「黙ってよ!!!」


言葉を吐き出すことを止められない。


「もう僕は生徒じゃない!

クローリク州王、神兎ユーリだ!!


…二度と、先生面して、うちに来るな!!!

オスカー、()()!!!!!」


僕は扉がぶっ壊れそうなほどの音を立てて扉を閉め

(これも、昔、よくオスカー先生に注意されていた)、部屋を出た。


************


クローリクに戻ってからもずっと、

僕の心臓は蜂の巣のようにポソポソと穴が開いて、キシキシ痛んでいた。


特に、シリウス様の堂々としたスカーフ姿を思い出すと、

憎々しい気持ちが込み上げる。


あんな可愛い猫族(フェリス)がそばからいなくなっても、へっちゃらかよ。


なんでも揃っている大王様は、

ちょっとくらい何か失くしても気づかないのかよ。


おもちゃで埋もれた部屋から、()のぬいぐるみ一匹なくなったところで…


その頃、王国内は州独立運動で不穏だったが、それはシリウス様と大人たちの仕事。


ある日、僕は夕闇が忍び込む部屋の寝台で、不貞腐れてゴロゴロしていたが、

ここでアッと気付いた。


そうだ、猫族(フェリス)!!!


あの女の子…リヒトをここに呼べばいいんじゃないか!


庭園の東屋(ガゼボ)で見た、可愛い顔が目に浮かぶ。


リヒトは、シリウス様から捨てられた。


僕も、オスカー先生から捨てられた。


それじゃ、一緒にいればいいんだ!!


僕は跳ね起きたが、さて…

どこにいるんだろう?


大人たちに「探すな」と散々言われたけど、どうでもいいや。


とはいえ…僕にもちょっとしたものなら探せる神通力があるが、

シリウス様のような、ものすごい探索術はない。


(僕も大人たちの会話を聞いただけだが、

どっかの州の鉱物が枯渇したときに使われた、

方位陣が足元に出現する「男なら一度は使ってみたい」術があるらしい。)


「猫か…猫…猫…」


部屋を動き回るうちに、アッと叫んだ。


あわてて机に積み上がった本の中から、一冊のノートを引き抜くと、

つるべ落としのように暗くなる部屋の燭台に火を灯し、

急いでノートをめくる。


まだコルデールにいるときに、オスカー先生から習った…

200年くらい前に、神鼠から大虐殺された猫族(フェリス)が祀られているところ…


ノートをめくる手がピタリと止まる。


あった!!!!!


「神山ゴテスベルクの…猫の天神(フェリステンプル)!!!!!」


思わず笑みがこぼれる。


そりゃ、ここに行くとは限らない。

もうかなり時間が経っているし…

でも、捨て猫が行くとしたら、やっぱ仲間のところじゃないのか?

偶然出会えるかもしれないし、行けば何か分かるかもしれない。


そうと決まれば、行くしかない。

誰かにリヒトをとられる前に…オスカー先生がシリウス様にとられたように。


「神路開門 神通力 【如脱兎(だっとのごとく)】」


僕は、机に「ちょっと出かける」とメモ書きを残すと、

部屋を【脱兎のごとく】抜け出し、

雷光のような速さでゴテスベルクに向かった。


*************


神通力全開で疾走し、

翌朝の未明、僕は神山ゴテスベルクの猫天神(フェリステンプル)に到着した。


闇と霧の中、猫天神(フェリステンプル)はなんとなく白く浮かび上がっている。


もう呼吸も苦しいけど、あと少し。

僕は息を整えると、中に入って…


エッ!?


心臓が飛び上がるかと思った。

中から…光が漏れている!!!


僕は走り出した。


リヒト!?

まさかの大当たり!?


僕が猫天神の石の間に飛び込むと…


そこには、リヒトはおらず…


代わりに、もっと意外な人物が、

そこで祭壇を見上げていた。


「ロ…ロベルト様!?!?」


僕は素っ頓狂な声を上げた。


何が何だか分からないが、とにかく、「怒られる!」と思った。

探すな、と言われていたリヒトを探していることがバレた!?


「いや、本当に…君の言う通りだね…

ねぇ…」


なぜか祭壇の方を見上げたまま呟く…


       「エーレント…」



僕が立ち尽くしていると、


低い、低い歌声が静かに流れてきた。


「待ちぼうけ…待ちぼうけ…」


僕の目の前に、ピカッピカッと緑の宝石がちらつく。


身体が自然と、祭壇に向かう。


低い、低い声で、

ゆっくり、ゆっくり歌は続く。


***********


「ある日…せっせと…野良稼ぎ……」


()の頭にも目にも、白い霧が流れ込んでくる。


身体は宙を舞っているよう…


記憶も浮かび上がるように蘇る…


…そっか、ここはオスカー先生のコルデール宮なんだっけ…


…ああ…あの日…


廊下を曲がるまで、ずっと、僕の背中は、

先生の部屋の光で照らされていた…


もしかして、

扉を開けて…

僕が戻って来るのを…

待ってくれていたの…?


先生が扉に掛ける手…

手のひらが、こちらを向いてなかったか…?


あのとき、僕が戻っていれば…


…気づけば僕は、あの日あの時の曲がり角にいた。


僕は振り返って、走って先生の部屋に戻る…


先生は長い腕で僕を優しく抱き締めて言う…


【よく戻ってきました。

ユーリ君は、ここにいていいんですよ…】


先生の綺麗で優しい笑顔、


綺麗で優しいエメラルドの瞳が、


フワフワと浮かんで溶けていく。


【私は、ここにいますよ…】


*******


「そこへウサギが飛んで出て…」



いつしか、歌声はオスカー先生の声に変わっている。


【このエメラルドのピアスは、必ずユーリ君が着けてくださいね…】


*******


「コロリ転げた…」



【シリウス様は、お仕えすべき主…】


もう、エメラルドの光がうっすら見えるだけ…


遠く、遠くに聞こえる声に、耳を澄ます…



【これだから、味噌もなんとかも一緒にするお子様は…】


僕は、先生とずっと…


【私は、ユーリ君とずっと…】


*********


「木の根っこ…」


ゆっくり、ゆっくりとロベルト様がこちらを向いた。


ああ…

馬鹿だった…


ここには…



先生は いない…


************


僕の 人生の 最後のページで見えたものは


夕日色に輝く


猫族(フェリス)の瞳だった



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