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神鼠の大王は猫を愛せない  作者: むちゃろこうじ
第Ⅲ章 神山ゴテスベルクと猫天神
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【ユーリ編】オスカー先生と毒舌ウサギ


正直、オスカー先生と出会ったときのことは、あまり覚えてない。


思い出せるのは、


「眠れ坊や…甘い夢の中…」


と歌う妙な男の荷物を盗ろうとしたら、


「坊やを待つ

――緑の庭」


歌声と共につまみ上げられ、

緑の石が二つ、目の前でユラユラしていたことくらい。


――絶対、この石が欲しいと、思ったことくらい。


************


「さて、今日は貴方の6歳の誕生日…」


「とっ捕まった日から1年経っただけ…痛い痛い!」


棒で脳天をグリグリされる。


「誕生日などの記念日がないのは、社交上締まりがなくなります。

今日は、兎族や羊族の貴族層をお呼びしたパーティー。

貴方の初めての社交の場。

この一年の成果を、私に見せてください。」


「誰がお前…イタタタ…」


「お前?」


「オッ…オスカー先生!!!」


「よくできました。」


ようやく脳天グリグリから解放される。

俺は、正装して、ピカピカした靴をはいて、

神羊(しんよう)コルデール宮のサロンに向かう。


俺は一年前、神兎を継承したが、

発見されたのが神羊コルデール州だったし、

まだ小さいし…ということで、

大王の命令で、

そのまま神羊オスカー王が、俺の神通力の教育係になり、

俺は、ここコルデール宮で過ごしている。


扉の前に立つと、チラリとオスカー先生が俺を見る。


「緊張しているんでしょう?」


「め…めんどくさいだけだよ!」


「…緊張するのは当然です。

恥じることはありません。」


「緊張も恥じらいもしてないってば!」


「君は大丈夫ですよ。」


「緊張してないってば!」


「うるさいお口ですねぇ…

これだから背中スイッチのある赤ん坊は…」


オスカー先生は、長い腕で俺を囲うと、

背中をトントンと叩く。


「この一年で、君は神兎の王として成長しました。

少なくとも、私は、胸を張ってこのパーティに出ますよ。」


俺は黙って、トントンと背中に当たる規則正しい振動に安心感を感じ…そうになったが、


「離せよ!」


腕を抜け出ると、開き始めた扉の前で、胸を張った。


*************


「言葉遣い、振る舞い、マナー…完璧でしたよ。」


オスカー先生が、長い指で拍手をする。


「猫くらいかぶれるよ!!」


と、いい気分で褒められていたところに、急に従者がやってきて、

何やらヒソヒソとオスカー先生にささやく。


オスカー先生が頷くと、すぐに従者は下がる。


「さあ、もう一度サロンに行きます。」


「えぇ…もう終わったんじゃないの?」


しかし、オスカー先生はさっさと歩き出す。

俺も慌ててついていく。

長い脚で歩くから、こちらは小走りだ。


「これまで教えた中で、最上位の礼を持って振舞ってください。」


というなり、扉を開ける。


サロンの中では、誰かがソファに腰かけている。


オスカー先生は、俺を連れて行くと、

膝をついて礼をする。

俺も慌ててそれにならう。


「オスカー。こういう場所だ。気楽にしていい。」


パッと顔を上げると…


そこには神様がいた。

俺は度肝を抜かれて、しりもちをついた。


「ユーリ君!」


オスカー先生の小さな、鋭い声。


「ああ、床ではない。

ソファーで気楽にしてくれていい。

気を遣わせた。」


神様は、よく分からないが、詫びてくれている。


「彼はしりもちをついただけですよ、シリウス様」


立ち上がりかけた俺は、今度こそ本当にひっくり返った。


…シリウス!?…この国の大王!?!?


このツヴェルフェトでは、州王も敬愛の対象だが、大王となると神だ。


国民であれば、()()()()()()()

困ったときには「シリウス様、お助けください」とその名を出すはずだ。


その大王がここにいるとなって、

腰を抜かさない平民はどこにもいない。


オスカー先生が脇から抱え上げて、ソファーに座らせてくれる。


「僕はシリウス・ソイリ。お前がユーリ・トモナリだね。」


俺たちの国の神様は、本当に神様のような顔をしている。


とんでもなく美しくて…

でも、驚くほど何も語らない顔。


年は俺より上だと思うが、子供だ。


思い出すだけでクソ恥ずかしい話だが、

そのとき、俺は恐ろしくて声も出せなかった。


「ええ。シリウス様、

わざわざ来てくださってありがとうございます。」


と言うなり、オスカー先生は、俺の脇を指でブスリと刺した。


俺は何とか叫ぶのを堪えると、胸を張った。


「お初にお目に掛かります。

先ほどは大変失礼いたしました。」


「神路開放 神通力 【真実の口(ボッカ・デラ・ベリタ)】」


急に俺の頭の周りを、ヴェールのようなものが覆う。


「ユーリ、お前の神通力を話せ。」


「…な…なにもない。」


「承知した。」


スゥッと霧が晴れる。なんなんだ?


大王様は穏やかだが、全く表情を動かさない。

それが、一層怖い。


「安心しなさい。

これは、十二支であれば、皆が受ける大事な儀式です。」


オスカー先生が淡々という。


大王様は黙って、その透き通るようなアクアマリンの瞳で俺を凝視している。


怖い…

俺のこれまでの人生を、見透かしているかのようだ。


「ありがとう。

では、ユーリ、お前は下がっていい。

オスカーは残れ。」


俺は一礼をすると、雲の上を歩いている気がして、フワフワと部屋を出た。


これが、シリウス様との出会いだった。


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