【ブロマンス回に入ります】オスカー先生と下衆ウサギ
正直、オスカー先生と出会ったときのことは、あまり覚えてない。
思い出せるのは、
「待ちぼうけ…待ちぼうけ…」という変な歌を歌う男の荷物を盗ろうとしたら、
「木の根っこ」
という声と共につまみ上げられ、
緑の光る石が2つ、目の前でユラユラしていたことくらい。
…絶対、この石が欲しいと、思ったことくらい。
************
「さて、今日は貴方の6歳の誕生日…」
「ハァ?とっ捕まった日から1年経っただけ…イッテェ!」
棒で脳天をグリグリされる。
「誕生日などの記念日がないのは、社交上締まりがなくなります。
今日は、兎族や羊族の貴族層をお呼びしたパーティー。
貴方の初めての社交の場。
この一年の成果を、私に見せてください。」
「ハァ?誰がアンタに…イタタタ…」
「アンタ?」
「オッ…オスカー先生!!!」
「よくできました。」
ようやく脳天グリグリから解放される。
僕は、正装して、ピカピカした靴をはいて、
神羊コルデール宮のサロンに向かう。
俺は一年前、神兎を継承したが、
発見されたのが神羊コルデール州だったし、
まだ小さいし…ということで、
大王の命令で、
そのまま神羊オスカー王が、俺の神通力の教育係になり、
俺は、ここコルデール宮で過ごしている。
扉の前に立つと、チラリとオスカー先生が俺を見る。
「緊張しているんでしょう?」
「ハァ?めんどくせェだけだよ!」
「…緊張するのは当然です。
恥じることはありません。」
「緊張も恥じらいもしてねェ!」
「君は大丈夫ですよ。」
「聞いてねェな、おい!!!」
「うるさいお口ですねぇ…
これだから背中スイッチのある赤ん坊は…」
オスカー先生は、長い腕で俺を囲うと、
背中をトントンと叩く。
「この一年で、君は神兎の王として成長しました。
少なくとも、私は、胸を張ってこのパーティに出ますよ。」
俺は黙って、トントンと背中に当たる規則正しい振動に安心感を感じ…そうになったが、
「知るか、勝手に張れよ!」
腕を抜け出ると、開き始めた扉の前で、胸を張った。
*************
「言葉遣い、振る舞い、マナー…完璧でしたよ。」
オスカー先生が、長い指で拍手をする。
「ったりめェだろ!猫くらいかぶれるわ。」
と、いい気分で褒められていたところに、急に従者がやってきて、
何やらヒソヒソとオスカー先生にささやく。
オスカー先生が頷くと、すぐに従者は下がる。
「さあ、もう一度サロンに行きます。」
「ハァ?もう終わったんだろ?」
しかし、オスカー先生はさっさと歩き出す。
俺も慌ててついていく。
長い脚で歩くから、こちらは小走りだ。
「これまで教えた中で、最上位の礼を持って振舞ってください。」
というなり、扉を開ける。
サロンの中では、誰かがソファに腰かけている。
オスカー先生は、俺を連れて行くと、
膝をついて礼をする。
俺も慌ててそれにならう。
「オスカー。こういう場所だ。気楽にしていい。」
パッと顔を上げると…
そこには神様がいた。
俺は度肝を抜かれて、しりもちをついた。
「ユーリ君!」
オスカー先生の小さな、鋭い声。
「ああ、床ではない。
ソファーで気楽にしてくれていい。
気を遣わせた。」
神様は、よく分からないが、詫びてくれている。
「彼はしりもちをついただけですよ、シリウス様」
立ち上がりかけた俺は、今度こそ本当にひっくり返った。
…シリウス!?…この国の大王!?!?
このツヴェルフェトでは、州王も敬愛の対象だが、大王となると神だ。
国民であれば、おそらく誰でも、
困ったときには「シリウス様、お助けください」とその名を出すはずだ。
その大王がここにいるとなって、
腰を抜かさない平民はどこにもいない。
オスカー先生が脇から抱え上げて、ソファーに座らせてくれる。
「僕はシリウス・ソイリ。貴方がユーリ・トモナリ様だね。」
俺たちの国の神様は、本当に神様のような顔をしている。
とんでもなく美しくて…
でも、驚くほど何も語らない顔。
年は俺より上だと思うが、子供だ。
思い出すだけでクソ恥ずかしい話だが、
そのとき、俺は恐ろしくて声も出せなかった。
「ええ。シリウス様、
わざわざ来てくださってありがとうございます。」
と言うなり、オスカー先生は、俺の脇を指でブスリと刺した。
俺は何とか叫ぶのを堪えると、胸を張った。
「お初にお目に掛かります。
先ほどは大変失礼いたしました。」
「神路開放 神通力 【真実の口】」
急に俺の頭の周りを、ヴェールのようなものが覆う。
「ユーリ、お前の神通力を話せ。」
「…な…なにもない。」
「承知した。」
スゥッと霧が晴れる。なんなんだ?
大王様は穏やかだが、全く表情を動かさない。
それが、一層怖い。
「安心しなさい。
これは、十二支であれば、皆が受ける大事な儀式です。」
オスカー先生が淡々という。
大王様は黙って、その透き通るようなアクアマリンの瞳で俺を凝視している。
こえェ…
俺のこれまでの人生を、見透かしているかのようだ。
「ありがとう。
では、ユーリ、お前は下がっていい。
オスカーは残れ。」
俺は一礼をすると、雲の上を歩いている気がして、フワフワと部屋を出た。
これが、シリウス様との出会いだった。




