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【窮鼠】は猫を噛み 猫は窮鼠の【急所】を噛む~シリウスの中に誰かがいる~

挿絵(By みてみん)


くじ引きの店で、ようやく、リヒトさんが見つかった。


藍色の空がじわりと東から広がり始め、

いよいよ前夜祭が始まると、街は期待で膨らんでいる。


一方、僕は、リヒトさんの泣き腫らした目を見て、嫌な予感しかない。


僕は、祭りのことなんか吹っ飛んで、

彼女の手首を掴み、

人の流れに逆らって、

グイグイと人気のない町の外れに向かった。


「リヒトさん。

また、僕のもとから、

いなくなろうとしていたんですか。」


リヒトさんは黙っている。


それが、答えだ。


僕の心は、激しい苛立ちで掻き回された。


なんなんだ、この人は。

何をしたいんだ。


ついさっきは、売春宿で働くといったことを、

自分で馬鹿リヒトとか言っていた。


それなのに、どうして今度は、

急にいなくなろうとするのか。


あんなに…あんなに激しく口づけしたじゃないか。


僕のことを「こんなシリウスもいい」とか言って…

楽しそうにしていたじゃないか。


僕が少し振り返ると、リヒトさんの夕日色の瞳と視線がかち合った。

困惑し、もの言いたげで、不安そうだ…


********


ああ…

僕は何を調子に乗っていたんだろう。


リヒトさんは、

男として、僕のことを見ていないんだ。


すべては、複雑な過去や立場の僕を救おうとする、

彼女の優しさじゃないか。


思い起こせば、全部そうだ。


神鼠(ぼく)が一人で、(リヒトさん)に「恋」だのなんだの、

踊っているだけだ。


彼女の優しさの上で。

彼女の孤独の上で。


彼女からしてくれる口づけは、

いつも、僕の痛みを癒すため。


彼女が僕の口づけを受け入れてくれるのは、

僕を傷つけないため。


僕は、こういうことすべてを、

自分に都合よく解釈していただけ。


いつだって、彼女は僕から離れようとし、

僕は彼女を追いかけるだけ。


猫族(フェリス)だというのは、彼女にとって、

僕と離れるための、都合のいい理由なのではないか?


それを僕が乗り越えようとして、

結果的に彼女を困らせているのではないか?


僕の心臓はキリキリと痛んで、激しい苛立ちに囚われる。


************


愛おしい彼女の顔が、次々に目に浮かぶ。


笑顔だったり、

いたずらっぽかったり、

真っ赤になったり、

うっとりしていたり、

よくわからないことで膨れていたり…


********


でも、もういい。


そんな顔を見せてくれなくてもいい。


僕のもとを去るくらいなら、

彼女を、鉄格子の、狭い檻に閉じ込めればいい。


彼女の身体に密着して、身動き一つ取れない、

狭い、狭い檻に。


そうすれば、

僕は、好きなだけ彼女を見ていられる。


彼女は僕しか見られない。


僕は彼女を自由にできる。


絶対に僕から離れないように、

檻に鎖で縛り付けたまま…


************


…何を考えている、僕は。


こんなことは、僕を穢したあの連中やフレディ、ロベルトと同じことだ。


僕は、いつの間に、そんな狂気に陥ったのか?


ああ、いつか考えたっけ。

…彼女に出会ったころだ。


狂気に陥るときが、僕が大王を去る時だと。


彼女を檻に閉じ込め、

自分は大王だ大王だと、一人高笑いする…

狂気そのものだ!


でも、失いたくない。

あの女性を!

狂気に陥ろうとなんだろうと…

絶対に!!

絶対に!!!


…まさか、ロベルトの計画が正しかったというのか?


目の前がチカチカする。


僕は、自分の心臓が、ギチギチの檻に閉じ込められた感覚がした。


もう、僕は、

僕の心は、

追い詰められて、

どこにも逃げられない!!!!!


***********

カチッ!


胸で妙な音がした気がした。


「ウアァァァァ!!!!!!」


僕は絶叫して、石の壁にぶつかって崩れ落ちた。


痛い、痛い、心臓が破れるほどに痛い!!!


「シリウス――――――ッッッ!!!!!!!!!」


僕の絶叫よりも大きな声で叫ぶリヒトさんの声。


「どうしたの!?!?!?」


僕を抱え込む。


「胸が痛いの!?!?」


僕は頷いた…気がしたが、よくわからない。


「大丈夫、この辺りね?

ゆっくり深呼吸して。スーハ―…そうそう。」


リヒトさんは僕の胸と背中をさする。


「ここじゃ叫んでも誰にも聞こえない…」


リヒトさんは周りを急いで見回している。


「でも、大丈夫、私がいるから。

少し楽になったら、もっと先に行って来る。

きっと、大神殿の馬車が来ているから。」


苦しむ僕を安心させようとするのか、

優しく力強い声を掛けてくれる。


「喋らなくていいから。まだ痛いよね。

大丈夫、ほら、私に寄りかかって。」


何が大丈夫か分からないが、

僕の頭を胸で包み込んで、さすり続けるリヒトさんの手が、

僕の身体に熱となって伝わる。


「胸はまだ痛い?」


僕は頷いた。


「大丈夫。少しずつ楽になるよ。

大丈夫。

君は、ゆっくり息をして。」


彼女の温かさにくるまれて、

さっきの追い詰められた感覚が弱まっていく。


温かい…夢のような…


***********


と、僕の中から、声がする。


『夢のよう?

…ハッ!

実際、夢じゃないか』


誰だ?

僕自身か?


僕は流されない…


恨み、妬み、憎しみには囚われない…


『あの女の全てが、お前の夢じゃないか』


彼女が与えてくれた感情を…


『お前はどうせ、

あの女とは一緒に()()()()()運命』


無駄にしないと、彼女に誓っただろう…?


『安心して、殲滅しろ。』


僕の中で、怒涛のように何かが膨らんでくる。


噛みちぎりたい

かみちぎりたい

カミチギリタイ

コノオンナヲ!!!!!!!!!


「ウアァ!!!アアアァァァ!!!!!!」


僕は転げ回って振り払おうとする。


これに飲み込まれれば、

『私は』リヒトさんを嚙み殺す。


僕は、手に当たった石を掴むと、

思い切り自分のこめかみをぶん殴った。


「何してるの!!!!!やめて!!!!!!!」


女が石を引っ掴んで遠くに投げ飛ばす。


ハッ!


窮鼠(きゅうそ)】にある私は、

もう猫族(フェリス)なんぞ怖れない。


嘲笑が抑えきれない。


私はこの女を真っ向から凝視する。

白銀に染まる髪が風に流れる。


女も私を凝視する。


「貴方、誰?」


そう言うと、この女の顔が急に視界から消えた…


と思うと、いきなり私の股間に頭突きして、そこにあるものを咥えた。


「噛みちぎるよ。シリウス。」


「エッ!?!?!?!?!?ちょっ!!!!!!」


グググ…

実際に歯の力が加わってくる。


「ちょっ!!!ダメ!!ダメ!!!

リヒトさん!!!!それは!!!!」


「戻って来て、シリウス!!!!!」


ハッ!


戻ったところで、この女はどうせ…


「シリウス!!!

戻って来ないなら、噛みちぎる!!!


一生…一生、させてあげないから――――――!!!!!!!!!」


「ウワァァァァァ―――――!!!!!!」



(次話に続く)

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