このおまじないを掛けた豆は的に当たる 絶対に
と、シリウスが立ち止まった。
見ると、射的のようなゲームのお店で、子供たちが鈴なりになって遊んでいる。
シリウスが覗き込むと、子供たちが、
「うわ、でけぇ!」
「お兄ちゃん、でけぇ!」
と騒ぎ始める。
「スリングショット?」
と聞くシリウスに、子供たちは、
「豆飛ばしだよ!」
「お兄ちゃん、知らないの!?」
と、上から目線で盛り上がり、
「こうやってやるんだよ!」
と教え始めている。
子供も惹きつけるのか…シリウス、恐るべし…
「ほら、お兄ちゃん、やってみなよ!」
と言われたシリウスは、「ヨシ」と言って、
10本くらいある的の棒を狙って、豆とゴム紐を引っ張り…
ポロン…
全く、的には届かずに豆は落ちた。
「下手くそ――――!!!」
と子供たちは笑うものの、
「もう一回やってみなよ!」
「うまく行くかもよ?」とまた騒ぐ。
「うまくいかないなァ…
そうだ、この豆におまじないを掛けてみよう。」
『エッ!?!?』
豆を眉間のところに持ち上げると、シリウスは子供たちの方を向いて、
モジャモジャとおまじないのような言葉を唱え始める。
子供たちは固唾をのんでいる。
神通力は使っていないようだが、なんだろう…
私も固唾を飲む。
「ヨシ、これでおまじないが掛かった。」
「これで、的に当たるの!?」
「本当に!?」
子供たちは期待と緊張でソワソワしている。
「当たるよ。
このおまじないを掛けた豆は、
絶対に的に当たるんだ。」
「スゲェ!!!」
「お兄ちゃん早くやって!!!」
「いいよ。
でも、こんな近くからじゃ、
おまじないがもったいない。」
と、竿を構えながら、
シリウスは後ろ向きに下がり始めた。
子供たちは道に飛んで出て、
「すいませーん、ちょっとどいてくださいー!」
「お兄ちゃんが豆飛ばしするんでーす!」
と一生懸命露払いしている。
人々は驚きながらも、子供たちの言うとおりに立ち止まって、
これも固唾をのんでシリウスを見守る。
シリウスは、片目をつぶって的を狙いながら後ろに下がり、
とうとう道の反対側の建物に背中がついた。
「ちょっと遠すぎだよ!」
「お兄ちゃん、無理だよ!」
緊張も最高潮に達し、
思わず周囲がシンとなったとき、
シリウスのよく通る声がした。
「無理じゃないさ。絶対。」
と次の瞬間、竿から豆が放たれ、
カンッという音と同時に的の棒が倒れた。
ワアァァァ!!!!!!!!
大歓声が上がる。
が、シリウスは大歓声も気にせず、
いつもらっていたのか、ポケットからいくつか豆を取り出し、
今度は竿を身構えたまま的に向かって歩き出したと思うと、
一歩ごとに豆を1つ飛ばして、残りの的に当てて倒していく。
最後の棒が倒れたときには大歓声、拍手喝采、
子供たちは一気にシリウスに向かって走り出し、
「お兄ちゃん、スゲェ!!!!!」
と飛びついた。
シリウスは微笑みながら、
腕に数人の子供をぶら下げて、ブンブン回る。
子供たちの歓声、笑い声と相まっていよいよ場は盛り上がり、射的の店も長蛇の列だ。
群れ集まる人々を軽々と潜り抜けて、
私のところに来たシリウスは、先ほどの棒をいくつか抱えている。
「これ、チュロスっていうお菓子でした。」
と私に手渡して、自分も早速食べ始める。
「お兄ちゃん。」
振り向くと、さっきの子供のうちの一人。
「さっきのおまじない、教えて!リ…」
「シーッ!」
シリウスは膝をついて子供を見る。
「あれはね、
お山の神様に1,000日間お祈りし続けて授かったおまじない。
僕しか使えないんだ。」
「そうなの!?1,000?100じゃなくて1,000?すごい!」
「そうだよ。
これ、あげるから、みんなで分けて。」
と残りのチュロスを子供にあげると、
私を促して歩き始めた。
「おまじない…なんて言ってたの?」
シリウスを覗き込むと、
顔を赤くして、チュロスをモゴモゴ食べている。
「エェ、気になる…まさか、神通力使ったとか…」
「まさか!それは心外です!」
「じゃあ、なんて言ったの?」
「リヒトさんと…」
「エ?ちょっと聞こえない…」
シリウスはチュロスを飲み込んで、
身をかがめて私の耳に口を寄せた。
チュロスの甘い香りがする。
「『リヒトさんと、大神殿に帰りたい』。」
お山の神様に、1,000日…
私は、慌ててチュロスを口に入れた。
「僕、さっきまで、
この一日が永遠に続けばいい、
大神殿からの迎えなんか、来なければいい…
と思っていたんですけど…」
半歩先を歩くシリウスが、
少しだけ振り返って微笑んだ。
「リヒトさんと大神殿に帰れるんだから、
悪くないですね。」
…私は、何も答えられなかった。




