こういうシリウスもいい
「お腹すきましたね。」
私をそっと腕から下ろすと、シリウスは辺りを見回す。
路地から出た瞬間から、シリウスは注目の的だが、本人は全く気にしない。
見られることに慣れているのか、
自らの美貌に気付いていないのか…
「これは何ですか。」
「これは、パンに肉と野菜を挟んだもの、こっちは、ハムと野菜…
お――ッッ!?!?お兄さん、猛烈にイイ男だね!!!
安くしとくよ!!!」
「ありがとう。どちらもください。」
と、大きなホットドッグを二つ買って、多くの人が休憩している噴水の石に座る。
半分に割って、片方を私に渡すと、あっという間にモリモリ食べて、
もう一つのホットドッグに手を伸ばす。
あまりにも鮮やかに食べるので、自分が食べるのを忘れていると、
「おいしいですよ。食べてください。」
と微笑む。
そして、私が2、3口食べる間に、もう一つのホットドッグを二つに割って、
その半分もあっという間に食べてしまう。
「お口に合いませんか?」
「違うの。食べっぷりがいいから、見ちゃうのよ。シリウスを。」
最後の一口を食べていたシリウスが、むせて咳込む。
「なんですか、それは…」
「エェ…なんだろう…
ほら、シリウスは、普段は完璧なマナーで食べるでしょう?
今は…男の子って感じで勢いよく食べるから…」
「…変ですか?」
「こういうシリウスもいいなって。」
「モォ――――――…」
なぜかシリウスはガクリと頭を垂れた。
「そっちのホットドッグは全部どうぞ。」
「ハイ、じゃあどうぞご覧ください。」
というと、やはりあっという間に、華麗に食べた。
むしゃむしゃ食べているのに、
音もたてず、食べかす一つ落とさない、とても綺麗な食べ方なのだ。
私が小さく拍手をすると、照れ臭そうに鼻の頭をかいた。
やっぱり、こういうシリウスもいいと思う。
**********
「こちらのお店はハズレなしのくじ引きだよ!
絶対に、何かもらえる!」
元気のよい、恰幅の良い女性が大きな声で呼び込んでいる。
見てみると、鍋、桶といった日用品や、子供のおもちゃ、お菓子などが並んでいる。
私は、その中に、手のひらに乗るくらいの、銀色のネズミのぬいぐるみがあるのを見つけた。
「欲しいものがあるんですか?」
後ろからシリウスの穏やかな声がする。
「あ、いや…」
「せっかくだからやりましょう。」
シリウスがお金を払うと、
女性は「ウワァ、おばちゃん、寿命延びるわァ。」とシリウスをあちこちから眺めて、
挙句にシリウスの腕をつまんで、「ワア、すごいわねぇ!!!」と叫んでいる。
おば様、強い…
シリウスは全く気に留めず、
「それはよかった。では、くじを頂いても?Madam?」と受け流している。
これが、園遊会などで培った技なのか…
一枚ずつ引いて、せーので開く。
二人とも「カステラ菓子一つ」だったから、思わず顔を見合わせて吹き出す。
「可愛いカップルさんねぇ…おまけに一つずつ追加ね!」
おば様は、私たちに、小さなカステラ菓子を2つずつ手渡す。
と、シリウスは、おば様と私にウィンクをすると、
ピンッ、ピンッとカステラ菓子を2つ、その辺りの建物を超えるほど、空中高くに放り投げて、
パクリ!パクリ!と口で受け止めた。
「ワアァァァ!!!」
後ろで見ていた人も拍手喝采。
シリウスは、リスのように片頬を膨らませたまま振り向いて、人々に微笑みかける。
あまりの美貌に、女性の悲鳴、どよめき…さらに拍手喝采…
そこで、シリウスが、「このお店にどうぞ」というように腕を差し伸ばしたので、
人々が長蛇の列をなしたのは言うまでもない。
****************
ネズミのぬいぐるみは残念だったが、
人々に押し出され、道に出る。
「私は一つでいいから、このカステラどうぞ。」
と差し出すと、シリウスはスイと屈んで、私の手から、そのまま口に入れる。
「エェ!?ちょっと…」
「食べさせて、と言ったら、断るでしょう?」
いたずらっぽく微笑む。
「僕、まだ全然足りないな。」
「エッ!全然!?」
私は驚いたが、いかにも16歳の少年というシリウスの食欲が、なんだか気持ちいい。
************
本当に、こういうシリウスもいいと思う。




