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人生の最後のページで見たい男

挿絵(By みてみん)


「――あっという間だった。


気づけば、人も動物も殲滅し尽くして、

髪も服も真っ赤に染まったテレシウス様が、

拳闘場の真ん中から、

あの薄い青い目で大王を見て、言ったんだ。


『……大王様、

相手が弱いと、このようにつまらない。

私が、私の相手になる強い剣闘士を探し、

改めて、本当の試合というものをご覧に入れましょう。』


そこから、あの悪趣味な虐殺大会はなくなった。」


「フゥゥゥ―――ン…

何なんだろうな、アイツは。」


「テレシウス様のやることは、いつも遅れて意味が分かる。

……その時点では突飛な行為に見えてもね。」


ロベルトは、吹っ切れたように話す。


やっぱりいい奴だな、と俺は思う。

本当は、俺に話すことで立場が悪くなるかもしれないのに。


「それでも、さすがにねぇ、

君の家を拠点にするのはやめろと言ったんだよ。


そうしたら、

『ハッ!相変わらず愚鈍な牛族だな!』

とね!」


思わず俺は笑い出す。


「アイツ、牛族にも罵声浴びせてんの?

猫族(フェリス)のことは『野蛮』だとよ。」


「鼠族のことも、『腐臭がする鼠族』と言っていたよ。」


「自分の種族じゃねェか!」


ロベルトが語る、俺が知らないテレシウスの話に、

気持ちが晴れてきた。


「ま、俺んとこにずっといたのも、

内乱の犯人を炙り出せるからじゃねェの?」


「……内乱鎮圧の方法については、色々議論があった。

君が思う以上に、君は命を狙われていたし、

大神殿でも、いっそ君も殺そうとする意見さえあった。」


俺は思わずロベルトを見る。


「なかなか見ものだったけどね。


『今の王は、煙草を足掛かりに、

誰よりも勤勉に生き、

猫族を守ろうとする立派な方だ。

あの方は殺させない。

私が命に代えても守る。』


あの時の張り詰めた空気と言ったら、

凍ってしまいそうだった。」


ロベルトはおどけて震えるような仕草をした。


「結局、テレシウス様は最後まで君を守って、

そして、見事に内乱を鎮圧した。

全く表ざたにならないようにね。」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


俺はロベルトに背を向けて、

自分の耳に連なっている耳飾りを掴んだ。


同族の反発を食らって、気を腐らせるたびに、

テレシウスが買って来た耳飾り…


(ハッ!

俺なら、俺の意見に反発した奴も即処刑だ。

野蛮な猫族(フェリス)のくせに、貴様は甘過ぎる。)


(10年持ちこたえろ。

そうすれば、お前が正しかったことが、

野蛮な猫族(フェリス)どもに証明される。

ハッハッ!!!ざまを見ろ!!!)


耳飾りの数がいつの間にか増えて、

『次は指輪にしてやろう、

左手の薬指がいいか?』

とニヤニヤするテレシウスをど突き倒したのは、

つい最近だった。


じゃあどうして……



――「ダチじゃない」って言ったんだ?



俺が唇を噛みしめて黙っていると、

ロベルトが話を続ける。


「でも、あまり想像がつかないな。

()()テレシウス様が、人の部屋で暮らすのは。」


「想像つかねェの?

いっつも素っ裸でゴロゴロして、

煙草に葉巻に、好き放題スパスパ吸って…」


「素っ裸でゴロゴロ?

テレシウス様が?」


「他に誰がいるんだよ。」


「…いや…

私も含め、誰も、あの方が座っているところすら見たことがない。

いつも背筋を伸ばして立っているからね。」


「気取り屋かよ!」


「あの人は、亡くなった大王の親衛隊長だからね。

それに、あの見た目だろ?

大王の落し胤ってのが通説。」


「…………」


「いつも壁際に立って、

帯剣して、

微動だにしない。


ひとたび動けば風より速く、

炎より激しい。


――だから、想像がつかないよ。

素っ裸でゴロゴロしてるところは…」


俺は、そんな人間をど突き倒したり、

同じ寝台で一日中二人でスパスパ煙草を吸って、酒を飲んだり、

女たちとのお楽しみまで……


俺は茫然としていた。


「せめて隣の部屋にしたらどうかと、

密命が始まった後も、何度もテレシウス様に言った。


『仮に神鼠になったら、エーレントにも迷惑がかかる』とね。


でも、聞きゃしない。


『貴様は、()()()()()()()()()()()。』」


ロベルトは、静かな瞳で俺を見つめた。


が、何も言わなかった。


しばらく、幌馬車の車輪が回る音だけが辺りを包む。


幌から見える、後ろに流れて行く景色に目をやりながら、

ロベルトが思いついたように呟いた。


「昨日まで『テレシウス』って呼んでいたから、『テレシウス様』は慣れないねぇ。」


「『テレシウス』でいいだろ。

不敬罪で、俺と一緒に死ね。」


「ご提案をどうも、エーレント。

……それも悪くない。」


――ロベルトは、静かに目を伏せた。


********


闇夜の中、幌馬車の車輪の音は、

石畳の道に入っている。


テレシウスのいる大神殿は、

俺の死に場所は、

…もう、そう遠くはない。



俺は、テレシウスとの、

わけがわからない、

くだらない、

他愛もない、

クソの役にも立たない、

……かけがえのない時間のページを、

死ぬときまで、一枚一枚、

めくり返そうと思った。


そうすれば


俺の人生の

最後のページに見えるものは


絹糸のような白銀の髪と

透きとおるようなブルーダイヤモンドの瞳を持つ男が

俺んちに転がり込んできた


…あの瞬間になるだろうから



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