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火の誓約 復活祭(パスハ)

挿絵(By みてみん)


大神殿に到着すると、

衛兵に目隠しをされる。

今すぐに処刑なのか、と少し驚いたが、

先延ばしにされるよりいいかと思う。


しかし、衛兵に「処刑者の牢が空くまでここで待て。」と言われ、

何一つない土壁の部屋に突っ込まれると、

ただ、何もない時間が過ぎた。


テレシウスを殺しかけた身分で大きなことは言えないが、

最後に…ちょっとばかり感動的な場面とかねェのかな?


「貴様との日々はなかなか楽しかった」


なんてテレシウスが言って、俺が、


「俺は最低だった!バカ野郎!」


とか言ってやる…そんな場面だ。


しかし、そんな期待は、時間が経つうちに、愚かなことに気づいた。

俺は、単なる一死刑囚として、

何日も何日も、無機質に取り扱われた。


死ぬことよりも、

そのことに、激しく傷ついた。


めくり返そうと思っていたテレシウスとの時間も、

今や、めくり返す気がなくなった。


俺だけ空回りした恥ずかしさが、

激しい憎しみに変貌する。


さっさと処刑されれば、こんな苦痛に囚われずに済んだ。


立った姿しか他人に見せず、

()()()()座った姿を見せなかったテレシウスが、

今頃、女でも抱えて、

豪勢な食事でもしているんだろう。


玉座に()()()


狭いアパルトマンに住んで、

毎日働いていたが、

これでも俺は、猫族(フェリス)の王だ。


こんな扱いがあっていいのか?

いくら十二支ではないとしても、

もっと扱いってものがあるんじゃないのか?


たとい、アイツの中で、

俺がダチじゃなかったとしても。


…それでも、まだこのときは、

俺は、

耳飾りをとらなかった。


**********


一体、何日が経ったろうか。


急に、「処刑者の牢に移動する」と連れ出された。


厳重に鎖をかけられる。


歩いている途中に、テレシウスを探してしまう自分から、目を逸らす。


しかし、何日も何日も幽閉されていた俺にとって、

もう、何かから目を逸らすことは、それほど難しいことではなかった。


ただでさえ、純血の猫族(フェリス)の俺にとって、

鼠のディモイゼは息苦しい場所だ。


恨み、妬み、憎しみといった苦しい感情を起こさず、

なるべく静かに死にたいと思うようになっていた。


**********


しかし、俺は、ひどく嗅ぎ慣れた匂いに気付いて、ハッとした。


顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは…


大神殿の広場に密集する、

粗末な衣服の…大多数は黒髪の人々。


中央で燃え盛る巨竜のような炎、

そして、それに矢継ぎ早に突っ込まれる…

煙草や葉巻…


次の瞬間、


広場の人間が片端から、

ある者は首を飛ばされ、

ある者は串刺しにされ、

ある者は切り刻まれ、

燃え盛る炎に突っ込まれて行く。


俺は、ここで、

何が起こっているか、すぐに分かったのに、


何も分からない気がした。


「どうして……」


(アンタが――?)


下卑た笑いを浮かべた衛兵が、面白がるように俺に言う。


「お前の処刑の前夜祭じゃないか。


ここ何日かで、猫族をかき集めたんだぜ。


テレシウス様は、

猫族を殲滅するご意向だってよ。」


それには答えずに、俺は呟いた。


「煙草が…」


これまでに、俺たち猫族が生産したものが全て集められたかと思うくらいの、

膨大な煙草や葉巻が……


――――貴様たちは

        最高のモノを作る……

     

人間が焼ける匂いと共に、

燃え盛って黒煙を上げている。


俺の喉の奥が、

ヒュー、

ヒュー、

と鳴り始めた。


「煙草…葉巻…俺の…」


俺の頭に、炎と煙が充満していく。


アア…


  アアア…


       ――――ダチじゃない


アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



俺は易々と鎖から手足を引っこ抜くと、

猛然と広場に飛んで行く。


衛兵の頭を飛び越え、

踏みつけ、

途中で剣を奪って切り倒し、

噴き上げる炎にたどり着いた。


熱風と火の粉にさらされながら

俺を捕らえようと走り寄る衛兵を炎に叩き入れ、

火を消そうと、闇雲に剣で火を払う。


しかし、火の勢いは増すばかり。


俺は、手を炎に突っ込んで、

焼けた煙草や葉巻を引っ掴んで、外に放り出した。


引っ掴んでは放り出し、

引っ掴んでは放り出し、

髪も顔も手も、焼けただれていく。


俺たちが共にした日々、


俺たちの過ごした時間、


俺たちが…


 俺たちの…



  俺の…


「エーレント!!!

エーレント――――――――!!!!!!」


絶叫が聞こえた。


ロベルトの声だ。


「神路開門!神通力 【闘牛】!!!」


ロベルトは信じられないような力で俺を羽交い絞めにし、

炎から引き離す。


「落ち着くんだ!今から治癒の…」


「要らねェ!!!

…今すぐ、あのゴミ鼠を呼んで、俺を処刑するよう伝えろ!!!!」


「そんな…」


俺は、焼けただれた声を張り上げた。


「今すぐだ!!!!!」


ロベルトはすぐに衛兵に指示を飛ばす。

数人の衛兵が去る。


「俺は猫族の王だ…

処刑のときは立派な椅子に座らせろよ。

石造りのやつだ。」


憑りつかれたように、衛兵がまた数人去り、

俺たちの周囲から衛兵が消える。


「ロベルト、俺を見ろ。」


ロベルトは焼けただれた…化け物のような俺の姿をじっと見る。


「この姿で処刑されるのはいただけねェ。

アンタのマントで顔を包んで、服も着せろよ。」


ロベルトはマントをとり、自分のゆったりした服を脱いで、

俺にかぶせ…


*******


その瞬間、俺は、まだ燃えている煙草を掴み取り、

うなじの刻印に押し当てると、

呪文を唱えて秘儀を展開した。


ハンネ オン ニキ レイリ リギチ オクヤイセ ノワ ト ツ マオ ツ カフ


火が、俺自身の手から噴出し始めた。


その手で自分の右目をえぐり出し…


「火の誓約 【復活祭(パスハ)】!!!」


秘儀に囚われて茫然としているロベルトの口に、その目玉を突っ込む。


ロベルトは大きく喉を鳴らして、それを飲み込んだ。


俺の手から火が消える。


目玉がなくなった俺の右目から血が噴き出している。

ロベルトの目は、まだ真っ黒な虚空のままだ。


「目を覚ませ。」


俺はロベルトを蹴り倒した。


焼けただれた耳に触れると、あのゴミ鼠が俺につけた耳飾りが残っている。

一瞬、指にその固さを感じた。

――テレシウスの目の色


俺は全てちぎり取って、炎の中に投げ捨てた。


「さあ、俺に服を着せて、マントを顔に巻け。


その間に、俺たちの火の誓約を、説明してやる。

一言漏らさず覚えろよ…」


ようやく目の焦点が合ってきたロベルトに、俺は言ってやった。


「喜べよ?


…きっと、いつか、アンタに、


この火の誓約を使う日が――来る。」



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