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Jardin miniature 神々の箱庭で、少年少女は軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第4章 学園の影で闇は嗤う
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少年の願い

夜は、修道院にも平等に訪れる。

祈りの声が消え、廊下を行き交っていた足音もいつしか遠のいた頃、治療施設は昼間とはまるで異なる、冷徹な横顔を見せていた。灯りは落とされ、病室には最低限の防壁たる結界だけが、淡く揺らめいている。


白いベッドの上で、少年はただ、じっと目を閉じていた。

眠っているわけではない。いや、眠れるほど、その心は休まってなどいなかった。


胸の奥が、じくじくと、燻るように痛む。

体内のマナが、また歪な音を立てて軋んでいた。呼吸を繰り返すたび、内側からやすりで削り取られるような、悍ましい感覚。


——痛い。


だが、その悲鳴を口にする力さえ、少年にはもう残されていなかった。


(……いつまで、続くんだろう)


治療という名の行為は、確かに日々行われている。祈りは捧げられ、光が注がれる。けれど、それはすべて——“生かすための延命”に過ぎなかった。

良くなっている実感も、楽になる兆しも、どこにもない。ただ、“今日という苦痛の一日を耐え抜いた”という無慈悲な事実だけが、静かに、重く、積み重なっていく。


(……もう、疲れたよ)


心の糸が切れかけた、その瞬間だった。


——ふ、と。


焼き付くような胸の痛みが、わずかに引いた。


錯覚かと思うほど、ほんの一瞬。だが確かに、マナの軋みがぴたりと止まったのだ。

少年は重い瞼を、ゆっくりと押し上げる。


部屋の隅。結界の放つ光の影が、妙に濃く、まるで生き物のように揺らいでいた。


「……だれ……?」


部屋の隅。結界の放つ光の影が、妙に濃く、まるで生き物のように揺らいでいた。


返事はない。代わりに——


『やぁっと、気づいてくれた』


直接、脳の奥底に響く声があった。

奇妙なことに、恐怖は微塵も湧かなかった。その声は、あまりにも——穏やかで、慈愛に満ちていたからだ。


『ずっと見ていたよ。君が、どれだけ頑張ってきたか』


少年の喉が、ひっく、と小さく鳴る。


『痛かったね。苦しかったね』


その言葉が、乾ききった胸を容赦なく締めつけた。

誰も、そんなふうに自分を労ってなどくれなかった。周囲の大人たちは皆、ただ「生きろ」と生を強要するばかりで——。


『もう、十分だよ』


影が、ゆっくりと形を成していく。

人に近い輪郭。だが、背景との境界線が曖昧に融け落ちた、昏い存在。


『治らない痛みを抱えたまま、生きろと言われ続けるのは、残酷だ。君は間違っていない。ただ、間違った世界で、間違った形を強いられているだけなんだよ』


少年の指先が、感情のままにかすかに震えた。


「……でも……」


『疲れただろう?希望を持つことに。祈ることに。“それでも生きろ”という、呪いのような言葉に』


胸の奥で、張り詰めていた何かが——音を立てて崩壊していく。


『僕は、君を楽にできる』


影が、すうっと距離を詰める。


『もう、痛みに耐えなくていい。救いのない未来に、縛られなくていいんだ』


その囁きは、少年が何よりも欲していた“救済”の形をしていた。


『さあ、選ぶのは君だ』


——拒む理由など、もうどこにも残されていなかった。


少年は、安堵のなかでゆっくりと目を閉じる。


(……もう、いいんだ)


頷くことすらできない。ただ、その心地よい闇を——全身で受け入れた。


その、瞬間。


少年の体内で、マナが完全に反転した。


これまで神聖術で抑え込まれていた歪みが、一気に噴き上がる。

聖なる結界が——悲鳴を上げて軋んだ。白い光が、見る間に禍々しい黒へと染まっていく。

少年の胸から異質なマナが溢れ出し、清浄だった病室の空気は、ねっとりとした濃密な闇へと塗り替えられていった。


⚜️⚜️⚜️


「——何だ、今の揺れは?」


夜間巡回中の騎士が、異様な気配に足を止める。


次の瞬間。


「きゃあああああっ!」


静寂を切り裂く修道女たちの悲鳴が、廊下に響き渡った。


「まさか……!?」


あり得ない。ここは女神の加護に守られているはずの場所だ。最も安全であるべき聖域で——最悪の災厄である“堕人”が、発生した。


聖騎士が即座に剣を抜き、狂ったように走り出す。


その報せは、修道院全体へ、そして——聖騎士団の本部へと、瞬く間に伝播していく。

暗闇のなかで静かに始まった囁きは、ついに最悪の惨劇となって、現実の世界へと姿を現した。

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