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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第1章 聖エリュシア学園入学編
5/90

少年と少女

「まったく……何なのかしら……」


初めての外国。初めての学園生活。

胸の奥で、少しは期待していたはずだった。


それなのに——

少年への仕打ち。

そして、ランデュートに対する侮蔑。


これから始まる学園生活を思うと、ジャミーラの胸は早くも重く沈んでいた。


体育館に残されたのは、ジャミーラと少年だけ。


ジャミーラは、床に倒れた少年を見つめる。

擦り切れ、薄汚れた白黒の制服。

血の滲む白い肌。

柔らかそうな金糸の髪が、うつむいた拍子に静かに揺れた。


「あなた……大丈夫ですの?」


“悪魔の民族”からの施しなど、拒絶されるかもしれない。

それでも見捨ててはおけず、そう思って手を差し伸べた、その瞬間——


少年が、顔を上げた。


時が、止まったかのようだった。


ふわりと揺れる金糸の髪。

陶器のように白い肌、淡く色づいた頬。

そして、つぶらな金色の瞳。


だが、その瞳には感情の揺らぎが一切ない。

まるで、完璧に造られた陶器人形のように。


「あの……」


「え?」


反射的に聞き返してしまい、ジャミーラは息をのむ。


「大変申し上げにくいのですが……

お手を汚してしまいますので、自分で起き上がります」


静かな声だった。

少年は痛む身体を押し上げ、ゆっくりと立ち上がる。


差し出したままのジャミーラの手は、行き場を失い、そっと戻された。


少年は、深く頭を下げる。


「お初にお目にかかります、ジャミーラ・シャマル様。

先程はお助けいただき、誠に感謝申し上げます。

私は、アルテリスと申します」


絹のように柔らかく、鈴のように澄んだ声だった。


「お初にお目にかかります、アルテリスさん。

……礼など、どうぞお気になさらないで」


思わず、ジャミーラの声にも柔らかさが宿る。


先程まで蹂躙されていた少年とは思えない、洗練された身のこなし。

そして何より——

“悪魔の民族”ではなく、同じジャルダンの民として接してくれることが、素直に嬉しかった。


(姓を名乗らない……持っていないのかしら)


聖エリュシア学園には、特別枠での入学者もいる。

アルテリスは容姿端麗だが、貴族ではない。

それが、彼が標的にされた理由なのだろう。


改めて見ると、少年の身体には痛々しい傷が残っていた。


「わたくし、多少の治癒術なら使えますの。

よろしければ……治療させていただけますか?」


アルテリスは、僅かに目を見開き、こくりと頷いた。


ジャミーラは目を閉じ、静かに祈りの言葉を捧げる。


「《女神アウロラ様。

どうか、彼の者の傷を癒したまえ》」


金色の光がふたりを包み、アルテリスの傷はみるみる癒えていく。


(……これは、神聖力?)


アルテリスは、はっきりと目を見開いた。


「……良かった。上手くいったようですわ」


満足気に、ジャミーラが微笑む。


「ありがとうございます」


「いいえ。ただ、その……」


ジャミーラは少年の服装に視線を落とし、言いにくそうに続けた。


「制服がひどく汚れてしまっていますわ。

よろしければ、新しいものをお持ちいたしましょうか?」


「いいえ。

人目のない道を行きますので。

お気遣い、痛み入ります」


礼儀正しくも、静かな拒絶。


「そうですの」


ジャミーラは、それ以上踏み込まなかった。


「では、わたくしはお先に失礼いたしますわ」


「はい。誠にありがとうございました」


「こちらこそ、普通に接していただけて、嬉しかったですわ。

あの方々には、どうかお気をつけになって。

何かありましたら、いつでもわたくしのところへいらしてね」


そう言い残し、アルテリスの丁寧な礼に見送られながら、ジャミーラは寮へと向かった。


⚜️⚜️⚜️


「……ジャミーラ・シャマル様」


アルテリスは、その名を小さく呟き、少女の姿を思い返す。


漆黒の髪。

宝石のような赤い瞳。

褐色の肌。


そう——

探していた、肖像画の少女だった。


(怪我の功名、と言うべきでしょうか)


当初の目的を果たせた安堵が、胸に広がる。


貴族としての気高さと、弱者を思う優しさ。

ほんのひととき交わしただけでも、彼女の人柄は十分に伝わってきた。


(……良い報告ができそうですね)


アルテリスは満足げに微笑み、静かにその場を後にした。


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