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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第2章 変わりゆく繋がりの中で
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近くて遠い

その夜——

ムスタファへの報告は、寮の部屋で行われた。


長椅子に腰掛けるムスタファに、

アルテリスはいつも通りの口調で任務の概要を伝える。


ムスタファもまた、いつも通りにそれを受け取った。


互いに余計な言葉はなく、ただ事実だけが淡々と交わされていく。


淡々とした“任務完了”の報告。


何ひとつ、滞りはなかった——


⚜️⚜️⚜️


翌日。


アルテリスは、早朝訓練に来なかった。

それどころか、ムスタファとライルの姿も見えない。


「聖騎士団の会議があるから、訓練は欠席されるそうですわ」


ルイーズの声は落ち着いていた。


けれど——

それでもなお、胸の奥に引っかかるものは消えなかった。

ジャミーラの胸には、かすかな不安が残った。


——そして、放課後。


生徒会室の扉の前で、

ジャミーラは一度だけ小さく息を整えた。


胸の奥に残る違和感を押し込めるように、ゆっくりと息を吐く。


扉を叩く。


「入れ」


短い声が返る。


扉を開けると、

窓際の席にムスタファの姿があった。


漆黒の髪は整えられ、背に流れるひと房の編み下げが静かに揺れる。

書類に落とされた視線の奥で、真紅の瞳がわずかにこちらを捉えた。


机に書類を広げ、

いつも通り背筋を伸ばしている。


その少し奥——

壁際にはアルテリス。


金色の髪が柔らかく光を受け、

ふわりと揺れる毛先が、どこか現実感を薄めて見せる。

琥珀の瞳は静かに伏せられ、書棚の整理に意識を落としていた。


そして、中央の机にはライル。


同じ漆黒の髪に真紅の瞳を持ちながら、

制服は肩から無造作に崩されている。

椅子に半分腰をかけ、気だるげにノートをめくっていた。


——三人、揃っている。


その事実に、

ジャミーラはほんの一瞬、安堵した。


けれどその安堵は、どこか薄く、心の表面をなぞるだけのものだった。


「……失礼いたします」


ジャミーラが声をかけると、

最初に反応したのはライルだった。


「ごきげんよう、シャマル様」


軽く手を挙げる。


「ごきげんよう、イルハン様。殿下。そして、アルテリスさんも」


ムスタファが顔を上げ、短く頷いた。


「ジャミーラ。昨日は任務ご苦労だった」


「はい。ありがとうございます」


そう答えながら——

ジャミーラの視線は、自然とアルテリスへ向いていた。


アルテリスはそれに気づくと、

何事もなかったかのように静かに一礼する。


「ごきげんよう、シャマル様」


いつもと変わらない声音。


昨夜と地続きとは思えない程、

穏やかで、整っていて——


(……いつも通り、なのね……)


昨夜、あれほど血に濡れていた人とは思えない。


まるで、あの時間だけが現実ではなかったかのように。


胸の奥に、

小さな棘のような違和感が残る。


抜こうとすればするほど、わずかに痛みを増すような感覚。


けれど、

それを口にすることは出来なかった。


「皆さま、お揃いでいらっしゃるのですね」


「定期試験が近いので、本日は皆自習です」


ライルが肩をすくめる。


「この時期はしばらくの間、

早朝訓練はあるが学外任務は休止になる。

学業に専念するように、との聖騎士団側の配慮だ」


ムスタファが補足した。


「……そう、ですのね」


ジャミーラは椅子に腰を下ろし、

持ってきた教本を机に置いた。


生徒会室は静かだった。


外の喧騒とは切り離された、

穏やかな空気。


けれど——


ジャミーラにとっては、それは“安らぎ”であると同時に、

アルテリスの背に隠された何かを、

より強く意識させる場所でもあった。


静けさが深まるほどに、その違和感だけが、はっきりと輪郭を帯びていく。


アルテリスは書棚から一冊取り出し、

机の上に置く。


「こちら、次の試験範囲かと存じます。

ご参考に、宜しければ」


「ありがとう」


ジャミーラは、あくまで平静を保った。


「シャマル様も、こちらへどうぞ」


ライルが手招きをする。


ジャミーラは頷き、席に着くと、

静かに本を開いた。


——任務は、ひとまず終わった。


代わりに始まるのは、

机に向かう、静かな日々。


けれどその裏で。


彼女の心はまだ——

“あの夜”を、置き去りに出来ずにいた。

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